6.
「ああ」
「花火、キレイだね」
「ああ」
「あ、今の星の形だった! 去年はあんなのなかったよね!?」
「ああ」
「今日、晴れてよかったね」
「ああ」
わたしといるのはつまらないのか、花火が好きではないのか、秋庭はどこかを眺めながら「ああ」と短く返すだけだ。一人で勝手に話しているみたいでだんだんと悲しい気持ちが胸に積もっていく。けれどふと思った。
同じ言葉しか返さないなら、告白してもいいんじゃない!?
脈がないのはわかりきっているのだ。それならいっそのこと、ちゃんと振ってもらうのはどうだろう。一回目は撤退という形だった。けど短期間で二回とも撤退なんて悲しすぎる。ここはわたしが前へ進むためにもきっぱりと振っていただこう。利用するようで申しわけないけど、聞いてないだろうし、この場限りで終了にしてしまえば迷惑はかからないだろう。自分の中で言い訳をこねくり回して勝手に結論を導きだした。
「真田、今ごろ沙織と花火見ているのかな?」
「ああ」
「良い雰囲気になってたりして」
「ああ」
「上手くいってるといいね」
「ああ」
まずはあの二人の話題から。
「わたしは失恋したけど」
「……ああ」
切りこむと少しだけ返答に遅れが出てくる。
もしかして少し考えた?
気のせいかなってもう一段階踏み込んでいく。
「初恋って実らないっていうけど、二回目も難易度って変わらないものだね」
「ん? ああ」
また一拍遅れた。
もしかしたら聞いていないようでちゃんと聞いているのかもしれない。けれどもう止めるつもりはなかった。
「今日さ、真田と計画して、本当はダブルデートになる予定だったんだ。でもさ、そういうのって脈ない相手をカウントするもんじゃないよね。今さら気づいたってもう遅いけど」
「……」
ついに秋庭は返事を返さなくなった。
聞いてたんだ。こんなこと言われても困るよね。
でもさ、わたしの初恋を終わらせたのは秋庭なんだから、二度目も手伝ってよ。
「秋庭、好きだったよ」
過去形にしたのは秋庭を困らせないため。
もうすでに困らせているかもだけど、そこは多めに見てくれると嬉しい。
わたしなりの精一杯の気遣いを『これで終わりにしましたよ』って合図にして送った――つもりだった。
「はぁ!?」
秋庭は想像以上に驚いて、わたしのことを凝視する。今度は目を逸らさない。わたしがまだ真田のこと好きだって思っているにしても、これは驚きすぎでしょ。初めて見る秋庭の驚いた顔。いつもしかめっ面ばっかりだったから相当貴重な光景だ。わたしはなんだかイタズラが成功したような気分になって、笑いがこみあげてくる。
「安心してよ。もう先に進むから」
失恋したのに、こんなに笑えるなんて予想外だ。
だけどもうさっさと帰ってベビーカステラをやけ食いしようなんて思わない。
「なんだよ、それ。というか九重、おまえいつ真田のこと……」
「秋庭に真田が沙織のこと好きだから諦めろって言われたすぐ後くらい」
「ならなんで夏祭りなんて……」
「だから言ったでしょ。ダブルデートのつもりだったんだって。花火がうち上がる少し前に二手に分かれる計画だったの」
「つまりはぐれたのは計算のうちだった、と?」
「あれは偶然。だって秋庭が渋々とはいえ探しに来てくれるとは思わなかったし」
「……」
「そうだ。お礼になんかおごらせて? あんまり高いのは無理だけど出店のものだったらなんでもいいよ」
「……」
「さっき歩いてた時に焼きそば入りのお好み焼き見つけたんだけど美味しそうだったよ」
「……」
「あ、それとも焼きイカがいい? さっきすれちがった男の人が持ってたやつ、けっこう肉アツで美味しそうだったなぁ」
「……」
「甘いものがいいならクレープとかあんずアメなんてどう? わたし、あんずアメの数決めるあの機械、やったことないんだよね。もらえる時は一気に5コももらって逆に困っちゃったりすることあるって聞いたんだけど、秋庭、やったことある?」
「……」
だまりこむ秋庭とは対象的に、わたしの口からはサラサラと言葉が流れ出す。
吹っ切れたのと、お祭りの出店でお買い物することへの楽しさがまざり合って、不思議なテンションになっているんだって自分でもわかる。
「なんで過去形なんだよ」
「ん?」
「勝手に終わらせるなよ……」
やっと口を開いたと思えばそんな分かり切ったことを……。
だってこんな気持ち、持ち続けても迷惑でしょう?
そう告げようと口を開けば、わたしの声が出るよりも早く、秋庭が言葉をつなぐ。
「俺はおまえのこと、まだ好きなのに……」
「え?」
秋庭がわたしのこと好き?
え、幻聴かな?
集合場所での秋庭の表情を思い出して、一度頭をクールダウンさせる。
落ち着け、わたし。
脳に新鮮な酸素を送りこんでから秋庭と対峙すれば、彼はせきを切ったように反撃を開始する。
「まさか言われてすぐにはいそうですか、って諦めると思わないだろ!」
「いや、だって相手、沙織だし」
「おまえの好意はそのくらいだったのかよ!」
「え、あ、うん。沙織への気持ちが圧勝した」
「……一年の時から応援してたくせに」
なんで失恋してキレられなくちゃいけないのか。
その切っかけをあたえたのは確実に秋庭だ。それ以外は考えられないのに。
「沙織といっしょにいた期間の方が長いけど?」
だからこちらもキレ気味に応戦することにした。
好きな相手に好きだと打ち明けられた直後にすることではないが、沙織への思いを疑われて黙っていられるほどわたしは大人しくはないのだ。
「時間がそんなに大事かよ」
「密度の方も負けてませんけど!?」
「付き合いいつからだよ」
「小学生からだけど?」
「それに勝てるのって同じ小学校の男だけじゃねえか」
「小学校からずっと同じクラスの男子なんていないけど?」
「御堂、ラスボスすぎんだろ……。いや、待てよ? 過去形であったとしても…………」
「なにいってんの?」
後半から一気に声が聞き取りづらくなっていく。
まさか沙織の魅力に気づいたとか!?
今ごろ真田が頑張っているのに今さら参戦とかやめてよね。いくら沙織が美人さんだからっていっても、友だち同士で女の子を取り合うとか、それも明らかに遅れをとって参戦とかハッピーエンドを迎えられる気がしない。
どう転んでも沙織が困るやつじゃん!
ここは沙織の親友として、きっぱりと諦めていただかなくては! と決心する。なのに秋庭の口から発せられたのは思いもよらない言葉だった。
「九重、好きだ」
「は?」
「おまえの気持ちが俺から離れていようと、おまえからもう一回好きだと思ってもらえるように頑張ることにする」
まっすぐとわたしにだけ伸びた視線。秋庭のこの目に、わたしは惚れた。そして今も、もう一度恋を始めろと背中を押してくれる。
「頑張らなくてもいいよ。だって、まだ……好きだし」
「は? さっき、好きだったって言っただろ?」
「あれは撤回! 今も好きなの! 文句ある!?」
「ない」
「ならいいじゃん」
「ああ、そうだな」
初恋は思いを告げることすら叶わなかった。
そして二度目の恋は……すんなりと終わらせてはくれなかった。それどころかすでに再出発の一歩を踏み出している。
でもこんな告白ってある?
つられたとはいえ、普通ではないのは確かだ。
「そうだ、九重。連絡先、教えてくれ」
「うん」
だけどまぁ、こんな始まりがあってもいいんじゃないかな?
連絡先に加わった秋庭の名前を見つめながら、わたしの胸は花火みたいに弾けるのだった。




