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女子高校生の恋愛事情  作者: 斯波@人質聖女コミック②発売中
打ち上げ花火は夜空で弾ける
17/24

5.

「見つけた!」

 聞きおぼえのある声が頭に降ってくる。一番わたしが聞きたい声。でもこのタイミングでなんてあまりにも調子がよすぎる。


「あ、秋庭!? なんで?」

 けれど目の前にいるのはたしかに秋庭で。

 わたしが望んだ人でもあった。


「はぐれたから心配してさがしに来た」

「秋庭が? わたしを心配して? 冗談でしょう?」

 さすがにそれはウソだろう。おおかた真田に行ってきなよと厄介払いをされたのだろう。当初の予定ではこのくらいの、そろそろ花火がうちあがるタイミングで二手に分かれようと話していた。秋庭の態度からして無理だろうって思ってたけど、もしかしたらあのタイミングでわたしがほかの三人と分かれてしまったのは意外とよかったのかもしれない。


 だって秋庭にはわたしを捜索するって『仕事』が出来たんだから。


「真田じゃなくて悪かったな」

 スマートフォンをいじって、真田と連絡を取っているのだろう秋庭はついと目を逸らす。横を向いたその顔はどこか苦しげだ。初めて会った時はバッサリと切り捨てたくせに、なんで今日に限ってそんな表情を浮かべるのだろう。


 わたしと二人になるのはイヤだから?


 秋庭は真田が沙織のこと思っているのは知っている。

 友だちから遠回しに二人っきりにさせてくれって言われたから、渋々わたしの捜索を開始したのかもしれない。


 だったら会わないほうがよかった。

 適当に時間でも潰して、見つからなかったって帰ってくれればよかったのに。なんで律儀に探してくれているのだろうか。


「別に。いいよ、もう帰るから」

「……花火、見ていかないのか?」

「家で録画してるから。帰り道にベビーカステラでも買って家で食べながら見る」


 今年は現地で見られるのについつい録画予約をかけてきたのは、長年の癖が抜けないから。お母さんになにしてるのよ……って呆れられたけど撮っといてよかった。短期間で二回も失恋するなんて思ってもいなかったし、やけ食いするのがベビーカステラなんてもっと想像してなかった。


 けれどこれも一夏の思い出だと思えば悪くないのかもしれない。


 命短し恋せよ乙女って初めに言い出したのは誰か知らないし、どんな意味があるかなんてもっと知らない。けれどきっと立ち止まるな! って意味も込められているんだと思う。


 この夏が終わっても次に秋が来て、冬と春が来たらまた夏がやってくる。

 そしたらいくらだって新たな恋に出会うチャンスがあるはずなのだ。歩き続ければきっと次の恋がやってくるだろう。来なかったらその時は自らの手で掴みに行くだけだ。


 この胸の痛みが無くなる訳ではないけれど、それでも負けるなわたし!


 そんなことを考えているうちに夜空からひゅ~っと花火が打ち上がる音がする。遅れてバンっと勢い良く弾ける音がして、花火大会は本格的にスタートしてしまう。出店の隙間から見える人たちは足を止め、本日の主役を見つめる。これじゃあろくに移動できそうもない。


 この花火大会は地元のテレビ番組で配信されるほどの夏のメインイベントだ。

 注目を浴びる分、スポンサーも沢山ついている。花火の打ち上がる回数は他の花火大会よりも多く、打ち上げは長時間にわたる。出店の裏をこのまま進めば神社の外まで辿り着けないこともないのだろうが、そうするとベビーカステラは買えそうにない。


 せっかく花火大会初参加なのに、お土産ゼロという無念な結果に……。

 それはあまりにも残念すぎる。せめてベビーカステラでなくともかまわないから、何かお祭りらしいものを買って帰れないだろうかと模索する。


 綺麗な花火を眺めながら、やけ食い用兼お祭りのお土産について考えてるのってきっとわたしくらいなものだろうな。


 考えれば考えるほど自分の残念さを感じる。

 けれど今ごろ、沙織は真田と空を見上げているだろうし、真田だってこのチャンスに告白でもしていることだろう。ならまぁいっか。立ち上がってから後ろを振り向けば、秋庭は空も見上げずに下ばかりを見つめていた。


 そういえば結局、秋庭って今日なにしに来たんだろう。

 彼の目的はわからない。けれど結果は散々だったに違いない。ここにいるのが他の人だったらせめて目の前の露店でかき氷でも買って食べるところだけど、そこまで仲がいいわけではない。それになんか空気が重いし。その半分を醸し出しているのはわたしなのだろうが、早く重さを半分まで減らしたいところだ。


「それで、秋庭はどうする?」

 わざわざ確認することもないのだろうが、一応……。

 正直答えてくれるかどうかは半分半分くらいの確率で、無言ならそのまま帰ろうと心に決めていた。けれど秋庭はおもむろに顔をあげるとこちらを見つめた。


「ここにいるのが……からか?」

 声は夜空の花が奏でる音にかき消されるくらいに小さい。おまけに視線は右へ左へ、上へ下へとブレッブレだ。


 そんなにわたしと視線を合わせるのがイヤなの!?


 わざわざ聞くんじゃなかった。後悔しながら私も目を逸らす。その瞬間、空にはいっそうキレイな花が開いたのか、上を見上げる人たちはわぁっと歓声を漏らす。


 上と下、見る場所が違うだけでこんなに気持ちも変わるものなのか。

 ならきっと沙織は今、幸せな気分であるはずだ。

 だって花火が好きな沙織が空を見上げていないはずがないから。その上、隣には好きな人がいて。最高なシチュエーションだ。


 なんでわたし、よりによって秋庭に恋しちゃったんだろう。

 叶うはず、ないのにね。自分のことながら笑っちゃう。


「じゃあわたし、帰るから」

「……っ待てよ!」

「なに?」

「……妥協しとけよ」

 花火の打ちあがる音で秋庭の声は簡単にかき消される。


「何? 聞こえない」

 こっちを見てくれれば聞こえるんだろうけど。

 そう思いながら身体ごと秋庭に寄せる。すると彼は大きく息を吸い込んで、意を決したようにわたしの耳元で声を荒げた。


「だから俺で妥協しとけって言ってんだよ!」

 正直、うるさい。

 三連続で花火が打ち上がらなければきっとほかの人の注目を浴びていたことだろう。けれどそんなことよりも秋庭の言葉の意味が気になった。


「真田はどうせ御堂みどうのことしか見てないんだ。だから……俺で妥協しとけよ」

「何それ?」

「どうせ花火が終わるまでに再会するなんて無理なんだ。おまえが今後も真田のことを思い続けるのは勝手だけどな、今日くらい俺で妥協しとけ」

「それって真田のため?」

「……べつに」


 なにそれ。バカみたい。友だちのためだからってそこまでする?

 でも一番の馬鹿はわたしだ。秋庭にそんな気持ちはこれっぽちもないのに、いっしょに花火を見られることを喜んでしまっているのだから。


「じゃあ今日だけは隣にいてあげる」

 妥協したわけじゃないけれど、きっと秋庭は今日しか許してくれないだろうから。



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