episode:7-9【雨後の龍の子】
場所を移してヨミヨミたちの捜索をする。
見つけられたのは出歯亀を始めて一時間。
やっと、食事を終えて出てきたヨミヨミたちを見つける。
「さっき見たときよりも距離が近いっ! 見て、ほら、近くなってる!」
双眼鏡を手にグイグイとまどかは俺に近寄る。
お前が近いと突っ込む暇もなく双眼鏡を覗き込まされら。
「……あー、確かに近いな」
まぁ近いといっても手を繋いでいたりはしていない友人の距離感だ。
まぁヨミヨミは真面目そうだから、そんなに簡単には手を出したりしないか。付き合ってもいないみたいだし、もし今回のデートで交際にこぎ着けたとしてもすぐさまキスとはいかないだろう。
……今更だが、俺は何でこんなことをしているのか。
そう思いながらも覗いていると……知らない女性が二人の前に出てくる。
知り合いだろうか、ヨミヨミとリリィに嬉しそうにくっついている。
女性はそのままヨミヨミの隣に位置取る。
「……近いぞ」
「うん! これ絶対にちゅーするよね」
雲行きが怪しくなってきた。
ヨミヨミはモテる。まどかが言うようにイケメンで、自信に満ち溢れた言動やその自信を裏付ける実力、しかも……俺と一色を助けたときのように何かとタイミングが神がかっている。
むしろヨミヨミがいるのに俺の方に好意を抱くまどかがおかしい。
そう思いながら双眼鏡を覗いていると、新しくきた女性がヨミヨミの手を握った。
「……手を繋いだ」
「えっ!? 本当!? ヨミヨミくん積極的! 見せて見せて!」
まどかはよほど見たいのか俺の背に乗りかかるようにして双眼鏡に手を伸ばし、当然、まどかの身体が俺の背にぴったりと当たる。
「うおっ! 近い、近い!」
「えっ、そんなに近いの!?」
そっちじゃない。言葉のすれ違いのせいで、まどかはよりテンションを上げてしまい、俺の背中に胸がふにふにと当たるのにも構わず手を伸ばす。
いや、胸か? この柔らかいものは本当に胸なのか?
……いや、胸だろ。他に該当するような柔らかく気持ちの良いものなんてあるはずがない。
「胸が当たっているから、離れ……」
「えっ、リリィちゃんもそんな積極的に……!」
まどかは無理に双眼鏡に手を伸ばしたせいで、体勢を崩し、俺は慌ててまどかの腕を掴むが、病み上がりのせいで倒れた勢いを支えることも出来ずにまどかと一緒に倒れ込む。
目の前に真っ赤になったまどかの顔が見え、勢いよく顔を上げる。
「わ、悪い。大丈夫か?」
まどかは俺の問いには答えず、真っ赤に染まった顔を羞恥に歪ませながらパクパクと口を開く。
「あ、あの……胸……」
少し目線を下げると、夏服らしい薄手の服が転けた影響でシワシワに寄れていて、特にその胸のところが……俺の手によって変形していた。
さほど大きいというわけではないが、確かな膨らみとふにふにとした柔らかさを感じられる。
俺の手の形に変形していて、夏の暑さのせいもあって服越しだというのにしっとりとした汗の感触があった。
そんな風に感じられたのも一瞬。俺は勢いよく手を離して、気まずくなりながらもまどかに手を貸して立ち上がらせる。
「……悪い」
「う、ううん。わ、わざとじゃないよね?」
「ああ、わざとじゃない」
「……怒ってはないけど、恥ずかしいのは恥ずかしいから、忘れて」
「……まどか、この前自分から「おっぱい触る?」って聞いてきただろ」
「そ、それはそれというか……。心構えの問題というか……。同意の上触られるのと、事故で触られるのは違うというか……」
まどかは顔を赤くしながら、もじもじとミニスカートの中の脚を動かす。
綺麗な整った顔は羞恥に歪んでいて、どうにも普段の様子との違いのせいで妙な感覚だ。
「さ、触りたいなら触ってもいいけど……。でも、その、もっと優しくというか、場所を考えてというか……。その、シキちゃんの前じゃないとダメ!」
「……それは……どういうプレイなんだ」
「違うからっ! いないところだったら友達を裏切ってるみたいだから、ダメってこと!」
ああ、なるほど……。いや、分からなくはないが、どちらにせよ裏切っているのではないだろうか。
二人で騒いでいると、夏の暑さもありべったりと汗を掻いてしまう。
「……あ、覗くの忘れてた」
「……もういいだろ」
まどかは地面に落ちてた双眼鏡を拾い上げて、覗き込む。
「壊れてないか?」
「壊れてはないけど、また見失った……」
「……あー、まぁ、どうせショッピングセンターとかだろうから、双眼鏡じゃ追いきれないし、帰ろう」
「仕方ない……行こっか、ショッピングセンター」
「……尾行するだけだから大丈夫だとは思うが、俺、あんまり金がないんだが……」
「買い物とかすることになったら私が出すから大丈夫」
「いや、帰りたい」
事故とは言えど、押し倒して胸を触ってしまい気まずい。
そんな俺の思いは無視されて、まどかに手を引かれて連行される。そろそろ一色の食事を用意したい。一色、ほっといたら絶対食べないからな。……仕方ないからセーラに頼むか。一色は嫌がるかもしれないが。
セーラに連絡を入れてから、二人でショッピングセンターに向かう。
「アキトくん。ここで重要なのは何か分かる?」
「どこに来るかを予測することか?」
「ううん。見つからないことだよ」
まどかは長い髪をギュッと縛り上げてから、俺のボサボサな髪を櫛で整える。
「櫛とかヘアゴムとか持ち歩いてるのか」
「女の子なら普通だと思うけど」
一色はそんなもの持ってないな。というか、一色は基本的に画材しか持ち歩かない。
「多少髪型を変えるだけでも見つかりにくくなるよ。あと、歩き方とかかな」
まどかは調整するように脚をトントンと動かして、普段より少し落ち着いた雰囲気に変わっていく。
「人間って足音だけで人を見分けられるからね。ヨミヨミくんぐらいになったら歩き方とかは変えておいた方が無難かな」
「……歩き方か」
「人の少ないところなら天井に張り付くのもありだけど、多いところだと発見されやすいから普通の行動を心がけること」
「そもそも天井に張り付けない」
「あと、先に発見するためだからってキョロキョロ探すのはダメだね。基本的には音頼りで、顔は普段通りにする」
……難しいな。基本的なことを言われているのだろうが、上手く出来そうにはないを
「まぁ、見つけるのは私が担当するよ。次に尾行のコツなんだけど、とにかく離れることだね」
「……まぁ、そりゃそうか」
「ちゅーするときはお互いに夢中になってるから、その時に近寄って見る感じだね」
「常習犯かよ……」
「もはや、ちゅーのプロと言っても過言ではないね」
「いや、経験ないなら過言だろ」
「……アキトくんはあるの?」
「ないけども」
「じゃあ、何度も見たことある相対的に私の方が上だね」
「どういう理屈だ」
ショッピングセンターに着き、地図に目を向ける。
「……知らない人が合流したせいでどうにも動きの想像が付きにくくなったな。案外ヨミヨミさんもリリィも人に合わせるタイプだからな」
「そんなに押しが強そうな人だったの?」
「温和そうに見えたが、恋人でもない男の手を握るぐらいだから、どうかな」
……まぁ、女性なんだし服の可能性が高いか。いや、若い子はこんなところでは買わないだろうか。
他にアテもないし、リリィが必要そうなものを考えると、やはり電化製品だろうか。
アメリカの規格とは違うだろうし、新しく買う必要があるだろう。
「とりあえず、家電を見に行くか」
ついでに一色に何か買って帰ろうか。絵の関係のものぐらいしか喜びそうにないが。




