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episode:7-8【雨後の龍の子】

 異能力による治療と自然治癒。

 一応は身体が動くが……副作用を心配してか、あるいは俺が無茶をしないように釘を刺すためか、最低限動かせる程度だ。


 一応走ったりも出来なくもないが、傷が開く恐れもあってあまり無理は効きそうにない。


 病室で身体をほぐしていると、最近ずっと入り浸っていたまどかが珍しく、まだ昼にもなっていない時間だというのに外に出ようとしていた。


「どうかしたのか?」

「……ちょっと今日は大切な用事があってね」


 いつになく真剣な表情。俺はそれに応じるように心持ちを変えながら彼女の顔を見つめる。


「……大事な用事?」

「うん。……これはある筋からの確かな情報なんだけど」


 まどかは俺達以外の誰かがいないか、目線を動かすことで確認し、俺の耳元に唇が触れそうなほど顔を近づける。


 吐息のこそばゆさと女性がすぐ近くにいる照れ臭さに耐えながら、次の言葉を待つ。


「……ヨミヨミくんと、リリィちゃんがデートするみたいなの」

「ッッ! いや……どうでも、いい」


 真面目な話かと思ったら、ものすごくどうでもいい話だった。一切の関心が湧かない。勝手にしていろよって気持ちで埋め尽くされている。


 女子供というのは何でこんなに他人の好いた腫れたが好きなのか……。


「えっ!? アキトくん興味ないの!? 洋物とイケメンだよ!?」

「洋物というな、洋物と。そもそもの話、デートの日程なんて知ってもどうしようもないだろ」


 個人的には一色の周りにいる男に恋人や配偶者が出来たら安心出来るってぐらいで、あとは友人が上手くいったら嬉しい程度のものだ。

 コイツは何を言っているのだと呆れながら見ていると、まるで鏡のようにまどかも俺を呆れた様子で見ていた。


「えっ、覗きにいくよね?」

「いかねえよ。覗きはやめろ」


 まどかは信じられないものを見たという様子で、俺の肩をポンと叩く。


「いや……あのね、アキトくん。別にバラしたりしないよ? シキちゃんも今はお絵描き中でいないしさ」

「いや、興味ないからな」

「アキトくん、君はちょっと勘違いしているみたいだね」

「勘違い?」


 人のデートを覗きたいという変態性欲が原因ではないということだろうか。

 二人の何かの秘密を探るとかのつもりなのだろうか。


 再び俺がまどかを見つめると、彼女は凛々しい表情を俺に向ける。


「この前、二人を見てたらね。何度も目を合わせては離しててってしていたの」


 ……なるほど、アイコンタクトによるやりとりがあったのか。

 俺がそう考えていると、まどかは頷く。


「あの二人……多分、今日……ちゅーするよ。興味出てきたでしょ」

「……あまりに……どうでも、いい」

「えっ、いや……ヨミヨミくんとリリィちゃんだよ? 美男美女カップルだよ? ちゅーするの見たいでしょ」

「いや、そんなもん見て見てどうするんだよ」

「見たら興奮するでしょうが!」


 ……えっ、何で俺怒られてるの?


「行くよ、アキトくん。ちゅーするのを見にね!」


 えっ、何で俺も一緒に行くことになっているんだ。


 まどかに連行され、病院の屋上から双眼鏡で外の様子を探る。

 まぁ……覗きはまだしも、まどかの尾行や隠形の技術を学べるいい機会か。


「……これ、ヨミヨミさんが出てくるまでずっと見張るのか?」

「ちゅーを見るためには忍耐が必要なんだよ」


 まどかはそう言いながら俺に飴をいくつか渡す。


「……なんだこれ」

「ご飯だよ。長期戦になるからね」

「……手慣れてるな。覗き趣味」

「ふふ、師匠と呼んでもいいんだよ」


 何故飴なのだろうかと思っていると、俺から双眼鏡を取ったまどかが説明をする。


「あまり物は持ちたくないからね。パンとかおにぎりだと目立つし、案外水分量が多いからトイレが近くなるんだよね」

「本気になればなるほど気持ち悪いな」

「小さい割にカロリーも取れるし、飴は覗きのために作られていると言っても過言ではないね」

「製菓会社に謝れ」

「お、洋物がきたよ」

「だから洋物とは呼ぶな」


 目を凝らして見ると、肉眼ではよく見えないが確かに金髪の人間がいるのが分かる。

 あれはリリィか。と認識しているとまどかは双眼鏡を覗きながらグヘグヘと笑う。


「いつもとは違うスカートなんて履いちゃってまぁ……意識してるねぇ」

「ああ、そう」

「むっ、ヨミヨミくんが来たけど、いつもと変わらない服装……!? ヨミヨミくんの方は意識してないのかな」


 いや、この前、ヨミヨミはリリィのことが好きだと言っていたし、単純にファッションが分からなかっただけだろう。


「……これは、んー? リリィちゃん怒ってる? 遅刻でもしたのかな。いや、時間的にはまだのはずだし、リリィちゃんもさっき来たばかり……」

「……やっぱり帰っていいか?」

「ダメ。……っ! あ、えっ……うそ……」

「どうしたの?」

「べ、別のカップルがちゅーしてる」

「……そうか」

「わぁ……えっ、まだ昼前なのに……大胆……。うわぁ……」


 まどかはハァハァと息を荒くしながら双眼鏡に夢中になっていた。

 コイツいつか捕まりそうだな。と思ったが、そもそもが怪盗だった。


「アキトくん、大変だ」

「どうかしたか」

「二人を見失ってしまった」

「……そっすか」


 帰りたい。が、逃してはくれなさそうだ。


「……ヨミヨミさんの性格を考えると、あまり奇抜なところは行かないだろうな。この時間だったら昼食に向かうぐらいだろう。この病院の近くで待ち合わせたみたいだが、駅は普段の出入り口からは反対側だから電車での移動はないだろう。……時間帯を思うと昼食の後にどこか遊んだりするだろうから、ある程度の方向は分かるな」

「おお、流石はプロのストーカー」

「ストーカーではない」


 スマホを取り出して地図を開く。


「ふむ……昼の後に向かう施設がある、駅とは反対側の飲食店……この辺りかな」


 まどかはピッと指でスマホを操作する。


「……いや、真っ昼間からホテル街に行くことはないと思うぞ」

「えっ、あっ……じゃ、じゃあ、どこら辺かな」


 まどかは顔を赤くしながら俺に尋ねる。


「本命は買い物だな。何だかんだとリリィはこの国に来たばかりだし、物を揃えたいところだろう。対抗は……方向的にカラオケとかか?」

「大穴は……さっきの、なるほどね」

「ないと思うぞ、賭けてもいい」


 方向はこちらの方、距離はここら辺までで……そんなに混むところは選ばないだろう。

 そうなると……四ヶ所ぐらいまで絞れる。それを一度に見渡せる場所は……。


「この建物の上だな。ここに移動するぞ」

「了解!」


 ザッとまどかは立ち上がり、俺に手を伸ばす。


「……いや、大丈夫だからな」


 そう言いながら手を借りると、まどかはクスリと笑う。


「行こっか」


 爽やかな顔をしながらの出歯亀だ。

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