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episode:7-5【雨後の龍の子】

 俺に背を向けて、慌てた手付きで服を着直しているまどかを見る。シャツの裾で下着こそ隠れているものの、細い脚は付け根のギリギリまで見えている。


 浮気などするはずもないが、俺も男でついつい先程の光景を思い出してしまう。今も見えている白く柔らかそうな肌と羞恥に赤らんだ表情。


 一色ほどではないが変わっているところもあるが、それを差し引いても魅力的だと思える容姿もあり……そのせいで、一色への罪悪感が募る。


 浮気ではない。決して浮気など考えてもいないが。

 一般的に婚約者がいて、下着姿の女性を目にするのはセーフなのだろうか。

 いや、しかしながら性的なことが目的だったのではなく、まどかの過去を知る方法としての脱衣であったわけで……。

 でも実際に目にした時には性的な感情を覚えなかったのかと言うと、まぁ男なのでそういう目では見てしまう。


 セーフかアウトか……そんなことを考えている時点で誠実さが欠けているようにも思える。とりあえず秘密にはしようとか考えてしまっているし……。


「……まどか、一応聞くんだが……今の、誘惑じゃないよな?」

「えっ……あ、アキトくん誘惑……されてくれたの?」

「……そうは言ってないだろ」

「い、言ってるよ」

「言ってない」

「言ってる」

「……いいから服は着ろよ」

「あ、う、うん。……見れたら嬉しい?」

「余計なことは言わなくていい」


 真っ赤に顔を染めながらまどかは首をこてりと傾げさせる。

 まどかはミニスカートを履いて、ゆっくりと息を吐き出す。


「私も肌を見られるの恥ずかしかったんだから、あんまり変なこと言わないでよ」


 ……これ、俺が悪かったのか?

 若干の理不尽さを感じる。

 まどかは椅子を退けて通れるようにすると、ベッドの上で不自然に組んだ俺の脚を見つめる。


「……とりあえず、一緒にはいてやるから、怪盗の活動は無期限休止だ」

「……うん」

「……あと、一色のことだが……」

「どうしたの?」

「アイツ、多分まだ食事してないだろ。多分病院内にはいるだろうから、探して来て何か食わせておいてくれ」

「あー、うん。了解。アキトくんは?」

「入院食が出るだろ」

「いや、そうじゃなくて……手、使えないから食べれないでしょ?」

「あー、まぁ……点滴打ってるからそんなに気にする必要はない。一応、右手の何本かの指輪は動かせるしな何か不便があったら頼むから、気を使わなくていい」


 まどかは立ち上がって上着を羽織り直す。


「じゃあ探してくるね」

「ああ、俺は寝とく。何かあったら起こしてくれ」

「ん、了解。でも、夜寝れなくならない?」

「ほっとけ」


 やることがなさすぎて暇だ。まどかと一色が戻ってきたら勉強でも教えるか。


 まどかが部屋から出て行き数分。

 欠伸をして眠ろうとしたとき、扉に手が掛けられる音を聞いて目を覚ます。


 そちらに顔を向けると寝不足そうな顔をしたヨミヨミが気怠そうに立っていた。


「……大丈夫ですか?」

「お前よりかはな。アキト、少し聞きたいんだが……」

「今後の作戦とかだったらセーラに聞いた方がいいですよ」

「いや、それも気になるが、そうじゃなくてな。異能力の特訓で、セーラがアキトを頼ればいいと言っていてな」


 ああ、そのことかと頷く。

 不信そうな表情をしているヨミヨミを見ながら、ベッドをにじり登るようにして動かし、壁に背をもたれかけて座る。


「……異能力が使えないから、いいアドバイスが出来ない……とは言わないが、俺の能力はセーラの監修を受けて調整している」


 セーラに信頼をおいているからこそ、俺には懐疑的なのだろう。まぁ、セーラの論文や研究データを読んで知っているとは言えど、俺自身は使えない上に知って一月も経っていないぐらいだ。

 その不信は妥当すぎるものだろう。


「……おおよそ想像は付くが、セーラのアプローチは細かなコントロールと、正確な理論に基づいてより確実で安定した異能力ってところですよね」

「……まぁそうだな」

「セーラは合理的で正しい。正直に、俺よりも間違いなく正しい導き方を出来るだろうし、そもそも俺よりかヨミヨミさんが一人で考えて異能力の練習した方が合理的な結果を生み出せるとは思いますよ」


 ヨミヨミは椅子に座りながら訝しげに俺を見る。


「なら、なんでだ」

「俺は二人ほど真面目じゃないって話ですよ」


 微妙な間を置いてからヨミヨミの異能力をおさらいする。


「能力名は【イデアルスコープ】光を集めて発射するレーザーや、屈折や反射を利用して位置を誤魔化したり、あるいはそのまま集めた光を対象に当てて焼き尽くしたり出来る。弱点としては雨粒や埃で光が散ったり、雨雲や夜間で光量が少ないと攻撃手段がなくなることにある」

「……ああ」

「イデアルスコープ、日本語訳すると理想的な照準器とでも言えばいいか。確か、星を見るのが好きでそれによって発生した異能力」


 ここまでの説明が間違っていなかったかヨミヨミに確かめると、彼は微かに頷く。


「離れすぎているでしょう。星を見るってのと、レーザーを放つってのは」

「……いや、それはそういう使い方をしているだけであってな」

「初心に返って理想的な天体望遠鏡はどんなものかと考えると……。現実的なところ、今の良い天体望遠鏡は地球の大気によるブレが存在しないようにしている。大気のせいで光が屈折や反射、吸収されるのが一番の問題だからな」


 ヨミヨミが聞いているのを確かめてから俺は言う。


「理想的な天体望遠鏡から離れすぎているんですよ。本来目指すべきは大気やら塵やら……それこそ水分やらの影響を受けない望遠鏡のはずで、夜ではなく真昼間にレーザーを打ったりなんかするものじゃないはずでしょう」

「……そりゃあそうだが、そもそも、天体望遠鏡は戦うためのものではないから仕方ないだろ」

「まぁ、そうなんですが。……イデアルスコープの本質を思うと、少なくとも雨天という弱点は克服可能と思います」


 俺はトン、と脚を動かす。


「無理な話ではないはずです。ヨミヨミさんはその弱点は半ば克服していますしね」

「克服?」

「イデアルスコープのレンズですが、あれって何をレンズにしていますか?」

「……何をレンズにって、異能力だろ」

「異能力で、何をレンズにしているかって話です。光自身をねじ曲げているわけじゃなく、何かによって屈折や反射をするようにしているでしょう」

「……そりゃあ、空気じゃないか? 普通に空気中で使っているしな」

「空気なら風で散ってねじ曲がるでしょう。おそらくは空間自体というか、ヨミヨミさんがここをレンズにしようと思った場所にある物質がレンズになるのかと。まぁつまり、既にある程度は空気中にある水分やら塵やらは無視する力はあるってことです」


 イデアルスコープを正確に表すとしたら『光を操る』ではなく『光のベクトルや熱吸収を変化する空間を生み出す』だろう。

 そこには水や塵は関係なく、あるいは……他の物質もそうであろう。


「まず手始めに、透視でもやってみたらどうですか?熱吸収を起こさないようにするだけなんで、今までやっていたことと同じことですよ」

「……一応試したことはあるが、出来たことはないな」

「異能力は思い込みの問題ですからね。出来ると思えば出来るでしょうし、出来ないと思えば出来ないでしょう」

「理屈は分からなくはないが……。いや、やるだけやってみるか」


 俺は小さく頷く。……俺も怪我が治ったら、リハビリと、脚を引っ張らない程度の特訓はするか。

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