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episode:7-1【雨後の龍の子】

「……美しいな」

「ん、知ってるよ」


 そんなセーラと室生のやりとりから始まった室生蛸四郎への尋問。

 何故か参加させられているが、この状況の俺は大して役に立たないだろう。


 あーだこーだと言いつつも、俺はセーラに負けっぱなしで、こういう場に置いては一歩も二歩も劣っている。

 もしも男が暴れたら、という想定にしても、車椅子で運ばれているような現状だと護衛にもなりはしない。


「えーっと、じゃあ質問いいかな?」

「ふむ、それよりも写生していいかな?」

「えっ、突然のセクハラ?」


 いや、違うだろ。

 角に控えたリリィが不思議そうに首を傾げて俺に尋ねる。


「何がセクハラだったの?」

「……ジロジロと観察したからじゃないか」

「ああ、なるほどね」


 適当に誤魔化してから二人のやりとりを見る。

 室生は異能力者ではない、というのが一色の見立てだ。どうやって異能力者を見分けているのか言語化出来ないらしいが、おそらくは間違えてはいないだろう。


「えーっと、じゃあ、色々と聞いていこうかな」


 見透かしたようなセーラの横顔。普段のおちゃらけた雰囲気のままではあるが、どうにも……威圧感を隠し切れていない。

 隠してはいるが怒っている。……と言うように見える。


「画材はないかな。せっかくの機会だ。美しいものは描きたくなる」

「……あはは、照れるね。それで、まず所属は」


 セーラの言葉を遮るように室生は立ち上がってキョロキョロと周りを見渡す。ペンなどを探しているらしく、セーラの手に握られたそれに手を伸ばそうとして……リリィの手に握られていたペットボトルの水が動きその手を掴むように封じる。


「仲良くしたいなら、座ることをオススメするよ。……私達もね、ほんの少し……そう、ほんの少しだけ、怒っているからね」

「ふむ……では、絵を描くのは後日させてもらっていいだろうか」

「時間がある時ならね」

「所属か。……私の立場を簡潔に言うのは難しいところだな。セイレス・C・ラスリウネクスというものに直接雇われているというのが一番正確だろうか」


 その言葉を聞いた瞬間。室生の身体が水により吹き飛ばされて壁に叩きつけられる。

 思わぬ暴力に目を見開いてリリィを見ると、怒りと悲しみを綯交ぜにしたような表情を浮かべていた。


「リリィ女史。話は聞きたいから程々にね」

「……分かってる。それより」

「ああ、うん。セイレスは死んだはずなんだけどね」

「死んだ? ああ、何度か身体が変わっていたな」


 話に付いていけないが、因縁のある相手だということは分かる。

 室生は壁に張り付いたまま面白そうに笑う。


「魂を操る異能力者、セイレス・C・ラスリウネクスは死ぬような生き物ではない。死ねば他の生き物の身体を乗っ取って生きるだけよ」

「……魂を操る異能……何でもありだな。まぁ、今更か。セーラ、何か因縁があるのか?」


 あえて空気を読まないようにして尋ねると、セーラは首を横に振る。分かりやすい嘘……いや、拒絶か。

 軽く頰を掻いて、静観に戻る。


「ふむ、あれを恨んでいるのならば好都合だ。私もあれを始末したくてね」

「……始末?」

「そう、始末。あれは非常に鬱陶しい生き物でね。殺したくとも殺せないほど強く、数を集めて隙を襲って殺しても復活する。しかも身体を乗っ取られてね。何より、性格が悪い」

「あなたの雇い主なんじゃないの?」

「飼い犬が飼い主を恨んでいないとも限らないだろう」


 この男、嘘は吐いていないな。

 セーラは隠す気もない疑うような視線を室生に向けて、トントンとペンで紙を叩く。


「そもそもの話として、最終的な我々の目的はセイレスの討伐だ。裏切りではあるが、裏切りではないのだよ」

「……殺せないんじゃなかったの?」

「気がついているだろう。私の娘の絵だ。【連作:シンリュウ】。アレを見せることにより、精神を変容させ魂を操る異能力を封じる」


 セーラは室生の顔を見つめて、俺の方を一瞥する。


「嘘は吐いていないな。というか、何かを隠す様子はない。まぁ、俺の私見だが」

「……充分だよ。ちょっと今は冷静じゃないからね。うん、来てもらって良かった」

「冷静じゃないと分かっているなら冷静だろ。俺も少し聞きたいが……一色の絵はお前が持っているのか?」

「いや、同僚のアーツくんが保管しているよ。保管場所は知らない。どうにも信用がないみたいでね」

「……そうか」


 まるで兵器のような使い方だ。

 一応は一色の目的ではあるので確保出来るならしておきたいが……どうにも難しそうだ。俺でもこのおっさんのことは信用しないだろう。


「じゃあ、あの龍人は実験の結果?」

「ん? 龍人……ああ、竜生九子のことか。まぁ、そうだな。正直なところ、私はあまり人の心の機微やら策やらといったことに疎くてね、意外に思うかもしれないが」


 いや、見たまんまだろ。


「うーん、んー、何で裏切ろうと?」

「勝ち筋が見えなかったからだ。下手に退却して追われたら作戦がセイレスに露呈しかねないから勝てないなら裏切るしかなかった。……何だあの化け物は、反則だろう」

「化け物?」

「不機嫌そうな顔をした若い男だ。レーザーを発していた」

「ああ、ヨミヨミのことね。まぁ、正面からだと勝ち目はないよね」


 ああ、やっぱり敵からしても脅威か、ヨミヨミは。

 個人でしかないのでやれることに限界はあるが、それでも恐ろしいだろう。


「消耗戦になるのも、逃げるのも、勝つのも無理。ならば、もういっそ裏切ってしまおうという話だ。セイレスに恨みがあるのだろう。悪くない話だ」


 セーラはズレたアンダーリムの眼鏡越しにつまらなさそうに室生を見つめる。


「……本当に人の心の機微がわからないらしいね。貴方の言葉が全て本当でも、友人を傷つけられて「はいそうですか、仲良くしましょう」なんてなるはずがないよ」

「ふむ、我が息子はどうだ?」

「息子じゃねえよ。……お前は、嘘は言っていない。騙す気もない」

「当たり前だろう」


 満足そうに室生は頷く。


「……信用は到底出来ないな。今は仲間になろうとしているのが真実だろうと、都合が変わればその真実も変わる。信頼は言葉でもなければ真実でもなく、その人に置くものだ」


 深くため息を吐く。本当に愚かな男だ。絵に関しては良いのかもしれないが……あまりにも多くが抜け落ちている。


「室生蛸四郎。俺はお前を信頼出来ない」


 男の動きが止まる。不快な余裕ぶった表情も、あるいは瞬きが。

 ゆっくりと、男のひび割れた唇が動き、ボロボロの頬の皮膚を破きながらニヤリと笑みを浮かべた。


「……なぁ、私には絵の才能があったんだが。じゃあ才能とは何だと思う。才能の正体だ」


 室生の目が向いたのはリリィだった。彼女はつまらなさそうに答える。


「遺伝的な要因と環境の要因が合わさったもの」

「ふむ、お行儀の良い答えだ。否定もしようがないだろう。君はどう思う?」

「質問する方が逆転してるね。まぁいいよ、時間はたっぷりある。そうだね、結果じゃないかな? 結果的に上手くいった人は才能があったと呼ばれて、そうじゃない人は才能がなかった」


 セーラとリリィの答えに室生は満足そうに頷く。


「ほうほう、現実的というか、存外に捻くれた面白い答えだ。……私はね、持たないことだと思っているよ。主義を持たず、誇りを持たず、他の興味を持たず、友を持たず、妻を持たず、家族を持たず、技を持たない。一つのことに集中することこそが才能だと」


 一色はこの男に見捨てられていた。

 ……異世界の龍のみに集中させるために、他の全てを持たされていなかったからだ。

 一度、執着した物があれば、二つ目以降のものは完全な集中ではなくなる。龍への感情を持っているが故に、濁る。


 室生はそう感じているのだろう。

 不快だ。非常に、不愉快だ。


「私は才能がある。下手なことを考えない。欲を出さない。私から見た状況が変わらないように軟禁でもすればいい。私は情報の提供と絵を描くことだけをしよう」


 自ら提案する自分を拘束する案。


「……室生蛸四郎。俺は、才能とは死に様だと考える。どうやって大切な物を失っていくか、それを選択することだ」

「ほう?」

「お前は絵を描きながら死ぬことはない」


 室生は驚いたような表情を浮かべたあと、憎々しげに俺を睨む。


「……正面切って、非才と罵られたのは初めてだよ」

「交渉は決裂だね。タコくん、君はもういいよ」


 セーラは冷たい視線を室生に向けながらそう言った

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