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episode:6-1【水は低きに流れ、龍は高きに飛ぶ】

 集まりについて来ようとしたもみじを半ば強引に引き離してからいつもの暦史書管理機構の入り口に向かう。

 思ったよりも遅くなったが、約束の時間には十分間に合った。


 部屋に入ると既に全員揃っており、ペコペコと謝る一色と共に席に着くと、待ちきれないといった様子のセーラが俺達にジュースの缶を渡す。


「では、みんな集まったし早速……リリィ女史の到着を祝って、かんぱーい」


 セーラの声に合わせて角が持っていた缶ビールを挙げるが、挙がっているのはセーラと角の持っているビールだけだ。


「ノリ悪いよー、みんなー」

「歓迎会なんだったら、その歓迎されてる奴のノリに合わせろよ」


 一色が挙げるべきかどうか迷った様子を見せているため、挙げなくてもいいと軽く手で抑える。


「もー、アキトくんはすぐそうやってー。リリィ女史も楽しい方がよかとですばい?」

「セーラは変わらないね」


 リリィはオレンジジュースを片手に微笑む。


「リリィ女史もお酒を飲みねえ」

「それより、どんな状況なの?」

「おおよそさっき言った通りだよ。とりあえずの目的は、龍人の保護と価値観を変えることにより異能力を変質させる絵【連作:シンリュウ】の回収。多分それで相手も退却するしね」

「……それで本当に解決するの? 上手くいっても、別のところで活動するか、時間を置いてまた来るだけだと思うけど」

「まぁそれはそうなのかもしれないけど、だからといって未知の国であるイーデンに攻め入って暴れるなんて出来ないからね。そもそもあっちに行くことすら出来ないし。相手の人的なリソースも無限じゃないから限界はあるはずだしね」


 リリィはヨミヨミに目を向ける。ヨミヨミは一度俺に目を向けてから、頰を掻きながら話す。


「事実として、敵対する相手を根絶やしにするのなんて現実的じゃない。問題を先延ばしにしているというならその通りだが、それ以上は難しいな」


 気を使われているな。俺としてはありがたいが、リリィが不満そうにしているのでヨミヨミに助け舟を出すか。


 トン、と手に持っていたコーラの缶を机に置く。


「角はどう思う? 一応リーダーだろ?」

「んー? まぁヨミヒトの言う通りだろ。現実的に考えれば、追い出すのが限界。全面戦争なんてしてられるかって話だし、嬢ちゃんもそれは望んでないだろ」

「それはそうだけど、ずっと危険をおいておくのは性に合わないというか……」

「まぁ、不安なのも分かる。俺もだ。……どうしよう」


 なんだこのおっさん。

 ヨミヨミに同意するところまでは想像通りだが、予想以上に投げっぱなしで適当だ。

 まぁ想定通り、リリィの意識は角の方に向いたのでヨミヨミと意見が合わずに拗れることはないだろう。


「ところで、何で攻め入ることが出来ないんだ、セーラ」

「んー、それはね、異能力で方向感覚とか色々狂わせて飛行機でも船でも辿り着けなくさせてるからだよ」

「……そんなに広い規模のことが出来るのか? 異能力は」


 島の大きさにもよるが、ヨミヨミの数キロの範囲の光を奪うどころの規模じゃないだろう、それは。


「人によるけどね」

「……それに、それは個人の力に頼っているよな。そいつが生まれる前や死んだ後はどうしているんだ」


 少しして、一色の絵のことを思い出す。


「まぁ、なんとかして後継者を作っていってるんじゃないかな」

「……ああ、なるほど。そういうことか」


 一色の絵による異能力の操作は、異能力を変化させる方法の一つということか。他にも何かしらの方法で、特定の物質に対して強い思い入れやトラウマを植え付けるなどして異能力を身につけさせることぐらいは出来そうだ。

 例えば、拷問とかか。


 セーラがわざわざ言葉を濁したということは、おそらくは非人道的な手法なのだろう。

 だとすると、そんな連中に狙われる可能性がある一色は……。いや、一色は【連作:シンリュウ】を描き終えた後に放置されていたんだ、大丈夫なはずだ。


「……セーラ、後で話がある」

「んー? えー、早速浮気? さいてー」

「あ、アキトさん!? そ、そんなことしないですよね!?」

「するわけないだろ」


 不安そうに俺の手を掴んでいる一色に呆れながら、まどかに目を向ける。


「現実的な落としどころは分かったんだけど、理想的なのもそこなの?」

「んー、理想的なのかー。アキトくんはどう思う?」

「俺としては、さっさと一色との婚姻届を役所に出すのが理想的だな」

「……アキトくんの色ボケポンコツ度が上昇してる。シキちゃんだけに。というか、もうさっさと出してきなよ」

「いや、あと数日は無理だ。一色の年齢の問題で」


 ……母親がなんと言おうとも無理矢理にでも結婚はするわけだし、可能な限り早く結婚してもいいか。親に紹介するのと順序が前後することにはなるが、母親には紹介した後で結婚したみたいに言えばいいだけだ。

 うだうだと親を説得してる時間も勿体ない。


 一色と結婚か。いや、書類の問題だけで今と何か変わることがあるというわけではないが、想像するだけで顔がにやけそうになる。

 こんな可愛い女の子と夫婦になれるなんて、それ以上の幸せは存在しないだろう。


 一色はぼーっとしていたまどかの方を見て、不思議そうに首を傾げる。


「怪盗さん、どうかしましたか?」

「んぇっ!? い、いや、スピード婚だって思っただけだよ」

「えっと……ダメなんですか?」

「いや、ダメじゃない。ダメじゃないよ」


 パチパチと、一色は瞬きをしてからジッとまどかの顔を見つめる。

 まどかは気まずそうに苦笑いを浮かべ、自分の頰をかいた。


「……あー、その、ほら、お金がなくて、ご祝儀とか送れないからどうしようかなぁって」

「学生婚ならあまりそういうこともしないだろ。周りが経済的な余裕がないことが多いから。まどかやヨミヨミさん達も気にしなくていい。祝い事をするような仲でもないだろ」


 俺がそういうと、セーラが首を横に振る。


「いやいや、私達はもう仲間なんだし、お祝いはするよ?」

「……一色と一緒にいても誘拐にならないように紙切れを提出するだけだ」

「またまたー、それなら養子って扱いでもいいわけだしね。照れ隠しでそういう風に言うのは逆に恥ずかしいよ?」

「……ほっとけ」


 俺はセーラのやりとりを途中で切り上げて一色の方に目を向けると、彼女は目を忙しなくキョロキョロと動かして顔を青ざめさせていた。


「一色、大丈夫か? 顔色が悪いぞ」

「え……あ……す、すみません。えっと、大丈夫、大丈夫です」

「……また間違えて酒を飲んだわけじゃないよな?」

「あ、たぶん、飲んでないです」

「……風邪か?」


 一色の様子がおかしかったので彼女の髪をかきあげて額に手を当てる。少し体温が低い気がするが、それほどおかしいわけじゃない。


 不安に思いつつ、一色の脈を測っていると、ガタリと椅子が引かれる音が聞こえてそちらを向く。


「まどか、どうかしたか?」

「い、いやぁ……えっと、その……用事あるの、忘れてて」


 一色と同じようにおかしな様子のまどかが、ペコペコと頭を下げてから逃げるように部屋から出ていく。

 まどかが鞄を忘れていることに気がつき、それを渡しに行こうと立ち上がると、一色が俺の手を握っていたことで動きが止められる。


「一色、どうかしたのか?」

「あ……」


 一色は俺に問われてから、手を握って俺を引き止めていたことに気が付いたらしい。

 自分の行動に驚いたような表情をしてからパッと手を離し、瞬きを繰り返す。


「……ぼ、僕、なんで……アキトさんを、止めたんですか?」

「やっぱり体調が悪いんだろ。不安になったとかで……」

「い、いえ、元気なはずです。あ、あれ……あっ、か、鞄、ないと、怪盗さんが困りますよね」

「ああ、渡してくる」


 まどかの出て行った方に向かって外に出る。

 暦史書管理機構の中を小走りで移動して出口の方に向かうが、一向にまどかの姿が見えない。

 歩いていたならすぐに追いつくかと思ったが……。


 なかなか見つからず、ついに施設の外にまで出てきてしまった。


 ポツリ、と頰に冷えた水滴が落ちる。天気予報ではなかった小雨。

 空に雨雲がかかっているせいか、普段の夜よりも一層に暗い。

 視界の奥に見慣れた少女の横顔が見えて、名前を呼びながら駆け寄る。


「まどか。鞄、忘れてるぞ」

「えっ……アキトくん……あ、えっと、ありがと」


 雨に濡れたまどかの胸が少し大きく動いている。やはり彼女も走っていたらしい。


「何の用でそんなに急いでるんだ? 雨も降っていて危ないから、よほどじゃないなら帰るのは止むのを待った方がいい、どうしてもと言うならタクシーを呼ぶか」

「……そ、そうだね。えっと、じゃあタクシーを呼んで、それまでそこのコンビニで時間を潰そうかな」

「いや、時間を潰すなら組織の中でにしてくれよ。雨の中だと不安だ」

「……う、うん。でも……」

「でもじゃねえよ。もしものことが起きたらどうするんだ」


 まどかの目元に雨粒が落ち、たらりと、頬を伝っていく。


「……もしものことが……起きたら」


 近くを通り過ぎた車が水溜りを跳ねて、俺とまどかの足元を濡らしていくが、彼女は気にした様子もなく続ける。


「もしものことが起きたら、本当に……本当に、本当の本当に……一色ちゃんじゃなくても、同じようにしてくれた?」


 いつかのことが視界を過ぎる。怪盗ではなく、まどかを名前で呼ぶキッカケになった問い。

 俺が答えずにいると、まどかは顔を俯かせる。


「……嘘吐き。……同じように、好きになんて……なってくれないくせに」


 まどかの頰から垂れた雨粒が、ピチャリ……と落ちて水溜りに混じる。そこら中で同じ音が鳴っているはずなのに、妙によく……その音が響いた。


 逃げるように走っていくまどかの背を見て、俺は何も言うことが出来ずに立ち尽くした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] だんだんと伏線が回収されているところ あとやっぱりシキちゃんが自分の感情をまだ理解出来ていない所がいいですね [気になる点] 「セーラの声に合わせて角が持っていた「ら」缶ビールを挙げるが」…
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