episode:5-8【龍心あれば水心】
「写真、星とかが多いですけど、お好きなんですか?」
「ああ、星は好きだな。見ているだけで心が凪ぐ。まぁ、星の写真は撮るだけ撮って見返したりはあまりしないが。こういうスマホのアルバムは趣味が出るよな」
「へー、そうなんですか。アキトさんはどんな感じです?」
一色が興味深そうに俺を見る。
一瞬、見せて問題のある画像や動画などを保存していなかったかなどを考えてから、スマホを取り出す。
「あまり面白いものはないぞ」
「僕、気になります」
アルバムを開いて一覧を見せる。
「バスや電車の時刻表とか、メモ代わりの写真ばっかりだな」
「まぁ、特に撮りたいものとかないので」
「てっきり、岸井の写真ばかりかと」
「それは……なんて言うか、撮っていいか聞きにくくてな。ほら、絵に誇りを持っているから写真はあれかと」
「僕は別に気にしませんよ?」
「……水族館で撮ればよかったな」
続いて一色がスマホのアルバムを開くが、何故か初期設定のままのホーム画面の画像が大量に保存されているだけだ。
「……一色、これは?」
「よく分からないです。動かそうとボタン押してたらこうなりました」
「二人とも似たもの同士だな」
まぁ予想通り、意図的に撮った写真はなさそうだ。一色の場合、普通に写真を撮るのよりも絵を描く方が早く正確なので必要性が低いと思っているのだろう。
まぁ、それでも絵より取り出して見やすいという利点はあるが。
「ん、そういえばアキトさんは妹さんの写真はないんですか?」
「特に撮るような機会もないしな。気になるならSNSをやっていたはずだから検索すれば出ると思う」
そんな会話をしながらやるべきことを済ませて、あちらに戻るために電車に向かう。
空いている車内で妹の写真を探すためにSNSを検索すると、実名でやっていることもあって簡単に出てくる。
「あー、これだな」
「ん、アキトさんに似ていますね」
何か近況を友人に報告しているらしく、兄である俺が突然知らない人と結婚すると言い出していることに驚いているということが書かれている。
まぁ妹からすれば驚くのも当然かと思っていると、ある一文に目がいく。
『お母さんからの命令で東京に偵察に行けるー! やったぜー! 東京行ってみたかったから嬉しい!』
「……あ、妹さんくるんですね」
「いや、いや……先に俺に許可を取れよ。家にいる予定なかったぞ」
というか、偵察って……一色を見にだよな。それに他の投稿も見てみると、俺の家に泊まる予定だったらしい。
「僕、お姉ちゃんって呼ばれてます……。ん、んぅ……家族がいないので不思議な気分です」
妹の気が早い。いつ見にくる気かと思っていたら、明日らしい。
「……明日か。明日……明日!? 明日って、明日か!?」
「どうした、アキト」
「あ、いや、実家から明日、妹が俺の家にくることを妹のSNSで知りまして」
「連絡とかなかったのか?」
「はい。多分取り繕えないように隠れてくるつもりだったみたいで……」
「急に大学生の息子が結婚するとなると、無理にでも見にくるか。どうするつもりだ?」
「……流石に当日になったら連絡が来ると思うので、その時に「今日はバイトでいない」とでも言おうかと」
「逃げる気満々だな」
「いや、流石に書類も何もなしに一色を見せて「俺の嫁だ」とはちょっと……。年齢が証明出来るものがないと最悪通報されるので」
ヨミヨミは電車の窓の外を眺めている一色を見てから親に視線を戻す。
「言い訳を聞いてもらえる関係じゃないのか?」
「そもそも会うのが面倒ですし」
「……日帰りじゃないんだったらアキトの家に泊まるつもりなんじゃないのか?」
「……どうしたらいいんだ」
「岸井を機構の方に預けていたらいいんじゃないか?」
一色と一緒に妹に会うと年齢のことで突っ込まれかねない。まだ誕生日が来ていないから15歳だし、見た目や言動はそれよりもよほど幼い。
けれど、妹が目的を達成せずにでも納得して帰ってくれるものか……。
「最悪、夏休みが終わるまで居座られるな。その後も理由を付けてやってくるはずだ」
「仲良いんだな」
「いや、違う。アイツは目的を達成しない限りは何があろうとあきらめない。自分が損をしようが、自分に得がなくとも、いくら無駄が出ようと歪むことがない。アイツはそういう奴なんです」
「お前みたいだな。時雨の血がそうさせているのか」
味方に回しても別に役には立たないが、敵に回せばひたすらに厄介だ。
「観念して紹介したらいいんじゃないか? 遅かれ早かれ紹介はすることになるだろ」
「いや、可能な限り、一色の良い印象を与えるために時間がほしい。明日はない、が、状況を整えるのに俺の家に長居させるのも問題だ。……貯金を下ろして、ホテルに泊まってもらうか。泊められない理由作りは、まどか辺りに家を荒らしてもらって泥棒が出たとかにして」
「時雨の血が出てるぞ。目的のために犠牲を払う時雨の血が。どう考えても普通に紹介した方がいいだろ」
「呪われた一族みたいな言い方はやめてください。……あー、セーラとかに頼んで一色の評価が上がるように手伝ってもらったらいいか」
ヨミヨミは「往生際が悪いな……」と俺に呆れたように言いつつ、少し考える素振りを見せる。
「そもそも評価というのは、結婚に反対されないためだよな。それならしっかりした様子を見せればいいんじゃないか?」
俺は親指で、窓の外を凝視している一色を指差す。
「……悪い」
「俺の母は、普通の口うるさい母なんです。絶対に色々言われるので、手回しをしておきたいんです。万が一にも、妹に悪いように報告されたら……。もう買収していいように言ってもらうのが一番か……?」
「買収はやめとけよ。普通に家事をしているところ見せるとかでいいんじゃないか?」
「ん、んぅ? 予定通りご飯作りましょうか?」
一色は一応俺たちの話を聞いていたのか振り返ってそう言う。
「岸井は料理が出来るのか。それなら妹に振る舞えば」
「ん、任せてください。旅行先でプロの料理人さんからレシピを習ったものですからね。間違いないです」
自信満々に言うが、一色の言う旅行先って異世界である。
「……異世界か。賭けになるな」
「いっそ、まともな料理を諦めて、手先が器用なことを生かして芸術的なフルーツカットを出すのはどうだと思います?」
「妹の好感度は稼げそうだな。SNSが好きなら、それに載せる画像として映えそうなものを振る舞っていくといいかもしれないな」
「……なるほど【傷のある手】ですね」
「無差別テロはやめろ。時雨の血に呑まれるな」
ヨミヨミさんとあーだこーだと言い合って、ラテアートとパンケーキアートなどが妹にウケそうだということで決定する。
一色もやったことはないが、これなら出来ると自信を持っていたので大丈夫だろう。一色は基本ポンコツだがこういうのには強い。
「あー、せっかくだしリリィにも振る舞ってくれるか? 女子供だし多分好きだろう」
「ああ、いいですよ。ヨミヨミさん達はバイト先の社員ってことで。嘘にはなりませんし」
「バイト先の社員……いや、まぁ事実だけど。まぁ」
「バイト先の社長の息子さんって紹介でも」
「社員の方で」
ヨミヨミの顔は女性受けが良さそうだし、外国人であるリリィという人物もミーハーである俺の妹にとっては好物だろう。
これは……かなりいいんじゃないだろうか。兄に会いに来たら、イケメンと美女の友人がいて、オシャレなものを振る舞われる。
一色が小学生、しかも3.4年生辺りにしか見えなくとも、それのインパクトを超えるオシャレさを演出出来るかもしれない。
不安は変人であるセーラや、オシャレさのカケラもない角の存在だが……まぁ知らせなければ会うこともないだろう。
ついでに、まどかも呼んだら妹と年齢の近い女性もいて完璧な布陣だ。一色の子供っぽさと変人さ以外は。
あ、あと、一色は本名の軽葉流華の方を名乗ってもらわないとダメだな。自己紹介の練習をする必要があるか。




