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episode:5-5【龍心あれば水心】

 縛り上げた奴の手荷物を漁っていると、妙な物が幾らでも出てくる。

 明らかに違法な長さの刀剣や拳銃は当然のように、他にも伸ばせば10m近くありそうな異常な長さの鞭や、袋入りの砂糖、イースターエッグのように黄身と白身が抜かれた卵、酸素ボンベ……と、明らかに普通は持ち歩かないし、戦闘を想定していても持ち歩くはずのないものが取り出しやすい位置に収納されていた。


「……どう見ても異能力用の道具だよな。これ」

「そうだな。 とりあえず壊すなりはしておいた方がいい。アキト、少し離れてろ」


 ヨミヨミの言葉に頷いてその場から退くと、ヨミヨミさんの手の上に黒い球体が発生する。

 異様な姿のそれにもう一歩離れると、ヨミヨミさんは軽い口調でそれの説明を始める。


「これは、いわゆる完全なマジックミラーみたいな性質を持った球だ。光を集めて中に溜め込む。こうやってエネルギーを蓄えさせて……」


 黒い球体がゆっくりとヨミヨミの手から離れて、敵の荷物の方に向かう。

 それが荷物に触れ、ボシュッ、と音を立てながら押しつぶすように飲み込んでいく。


 少しして黒い球体が消えたかと思うと、何故か荷物までなくなっていた。


「……嘘だろ?」

「熱量でおおよその物体を蒸発させことが出来る。あ、アスファルトまで抉ってしまったな。レーザーに比べると遅いが、威力はピカイチだ」


 ……もしも人体に触れたら、そう想像してしまい、少し気分が悪くなる。

 それに、この技も結局、雨天だと光量不足や溜め込む最中の光が雨に取られてしまったりと威力が激減しそうだ。


 この人、とことんまで雨に弱いな。と、再認識してから、完全に怯えきっている様子の襲撃者たちに目を向ける。


「一応言っておくけど、妙なことをしたらこうなるって思っておいてくれよ。仲間を傷つける可能性があると判断したら、それが冤罪だったとしてもアレみたいに蒸発するからな。それを胸において、可能な限り、逃げたり逆らったりしそうだと、疑いを持たれるようなことは謹んでくれ。殺したくはないと思っているが、仕方ないからな」


 コクリと一人が頷いたのを見てから、一色の隣に戻る。怯えている様子ではあるが、俺が隣にいると少し落ち着くようだ。


 少しすると、大型の車が近くの道路に止まり、中から何名かの男女が出てくる。


「アキトさん、あの人たち、異能力者です」

「まぁ……味方みたいだから大丈夫だ」


 そこの代表者らしき人がヨミヨミと会話をしてから車の中に襲撃者を詰め込む。


「アキト、どうする? 一緒の車で行くか?」

「……あー、そろそろ一色の不安がまずそうだから、問題ないなら別の方法で行きたいですね。結局、絵を取りに戻る必要もありますし」

「なら、俺も道案内で一緒に行くか」

「ありがとうございます。一色が休めそうな場所ってありますか?」

「あー、俺もこっちの支部には詳しくないからな。まぁあるだろうとは思うが」


 流石に人が焦げた異臭の中に一色をおいていたくない。いや、他の人ならいいのかという話だが……。まぁ、絵に影響するとかどうとか、いくらでも言い訳は出来るだろう。


「アキトは、かなり岸井に甘いな。いや、当然かもしれないが」

「普通は女子供に気を使うものじゃないですか?」

「いや、お前はセーラとかには気を使ってないだろ」


 一瞬で言い負けた。

 頭を掻いてから、小さく頷く。


「まぁ、俺は一色を優先させますよ。好意があるからというのも否定しませんが、そちらの方が諸々の都合がいいですからね」

「その方がいいんじゃないかと俺も思うぞ。こういう危険な場で人のために尽くすやつは……人のために死ぬこともあるからな」


 ヨミヨミは俺から視線を逸らし、顔の汗を拭う。


「行くか」


 一度一色の家に戻り、ぬいぐるみなどの荷物を置いて、一色の絵だけを持って支部へと向かう。


「ずいぶんと大きい家に住んでるんだな」

「ああ、まぁ色々と。セーラと合ったときにでも話そうかと思っていたんですが……」


 一色に目を向ける。俺が得た手がかりと推測は、彼女には知られたくない。

 どの程度なら問題がないか、少し考えてから言葉を続ける。


「たぶん、一色の養父は……養父といっても一色とは面識がないそうですが、その男は一色以外にも多くの絵描きを育てるつもりだったようで、ああいう大きな施設を建てたけれど、一色の才能を知ってそれを止めたように見えます。まぁ、推測ですが」

「面識がない養父って……それはもう完全に他人だろ」


 まぁ俺の方がよほど保護者が出来ている。

 一色を狙う悪い(セーラなど)から守っていたり、不安がらないように一緒に寝たり、ご飯を食べさせたりと。


「へー、僕以外の僕みたいな人をたくさん作るつもりだったんですね」

「一色は、どうも思わないのか?」

「何も思わないこともないですが、んぅ……実感が湧かないというか。あまり重要なことには感じないというか」


 一色は自分の想いに合う言葉を探すように、ゆっくりと話す。


「今の僕は、アキトさんのものなので、関係がないことかと」


 一色は特に思い詰めたような雰囲気や、気を使う様子もなくそう話す。

 俺はその言葉に「嬉しい。とても嬉しい」と感じてしまう。一色の情操上、俺に依存しすぎるのはよくない発言であることは間違いないけれど……本音を言えば、一色を自分の所有物にしたいのだから、嬉しくないはずがない。


「一色は、俺のものじゃなく、一色自身のものだからな」


 努めて平静を装い、自身の欲望を隠しながらそう口にする。我ながら極めて非誠実だ。


「……特別に思いたい人から、どこかでまた聞きしたことがある言葉を向けられると、人が使っていた筆で絵を描くような収まりの悪さを感じます」

「あー、悪い。ああ、普通に嬉しい。嬉しかった」


 それでよろしい、とばかりに一色は頷く。

 俺たちがそんなやりとりをしていると、ヨミヨミが呆れたような視線を向けてくる。


「……案外尻に敷かれてるな」

「ほっといてください」


 ゆっくりとため息を吐く。


「……他の人はどういうものなんですかね。俺は惚れた弱みというか、一色に勝てる気がしないんですが」

「まぁ俺とリリィが戦うことになったらかなり分が悪いな。水を操る能力で濃霧を出されたら、範囲にもよるがそれだけで打つ手がなくなる」

「めちゃくちゃ雑な誤魔化し方をしましたね」


 そういう意味じゃないことぐらい分かっているだろう。それに、容易に人を貫ける威力のレーザーを防ぐのは並大抵の霧では無理だ。単純なエネルギー量により霧を蒸発させながら進むだけだろう。


 それが出来る能力者なのだとしても相応の水は必要なわけだし、時間もかかるだろう。元々雨やら霧でもなければ発動までの速さでヨミヨミが勝つだろう。


「まぁ、俺の方は付き合っているとか、そういうわけでもないからな。偉そうなことは言えない」

「はぁ、モテそうなのに不思議ですね。いや、ああ、アメリカ人だからですか。あっちは告白とかそういう文化じゃないらしいですし」

「……正直、文化の違いを引いてもよく分からないんだよな。ある程度、仲良くはしているつもりではあるが、そもそも仕事の繋がりだからプライベートとは別なのかもしれないというのもあるうえに、そんな頻繁に会ったり連絡を出来るわけでもない、ついでに家の問題もあったりでな……」


 ヨミヨミも色々と大変そうだと思いながら尋ねる。


「家って、家族相手にも秘密組織所属なのをバレないようにしなければならないのに、相手との繋がりがそれしかないみたいな話ですか?」

「ん? あ、ああ、いや、逆だな」


 逆? と俺は首を傾げ、隣で話を聞いていた一色も真似をするように傾げる。


「俺の家、有栖川は一応日本支部のトップって扱いで一族全員がなんらかの形で機構に所属しているから、バレるのが問題とかそういうのはない」

「……えっ。初耳なんですけど」

「セーラから聞いていないのか? 暦史書管理機構がどういう形態になっているか」

「あー、もしかしたら、まだ正式に所属しているわけじゃないから伏せていたのかもしれません。まぁ、組織内を自由に動き回れていたので隠していたわけでもなさそうですが」

「そうだな。一応、軽く説明しておくか。普通の組織に比べて少し複雑なところもあるが」

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