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episode:5-4【龍心あれば水心】

 

 ヨミヨミはゆっくりと立ち上がり、煽るように敵に目線を向けてから俺たちについてくるように言う。

 怯えている一色の頭を軽く撫でながら外に出る。


 天気は晴れ。真夏の晴天は光を操る能力者であるヨミヨミにとって最も有利な状況だ。雨天であれば光量の不足で威力が減衰し、雨粒や水滴で拡散するせいで威力が発揮出来ないレーザーも十全に使え、雨でぼやけてしまうらしい幻影も完璧に扱える……らしい。

 セーラ談ではあるが、十分に信用出来る。


 ゆっくりと人気のない方向に入ると、背後から声が聞こえた。


「こんなに簡単に諦めてくれるとはな、泳がしていた甲斐があった」


 物陰か。日本人にしか見えない男の姿に少し驚くが、色々な人種が混じっているのならば日本人に寄った容姿のものがいても不自然ではないか。


「……アキト、どういう状況だ?」

「あー、自他の戦力差に気がついていないみたいですね」


 ニヤリと笑みを浮かべた男が物陰から出てきて、俺は深くため息を吐いて一色の手を引く。緊張したらしい一色が俺の手を握り返すが、俺としてはむしろ……拍子抜けだ。


「つまり、俺達は相手の策に乗ってしまったということか」

「まぁ、そう言えばそうですね。ああ、なるほど、セーラがミスをした理由が分かりました。あいつも俺も、相手を過大評価しすぎるきらいがあるようで」


 背後からも足音が聞こえる。五人程度に囲まれた状況だが、まぁ……なんと言えばいいのか。やっぱり拍子抜けだ。


「はじめからどの道破綻してる作戦とか、予測しようがないですからね」


 俺の言葉にヨミヨミが頷く。

 彼に向かって拳銃が向けられるが、発砲されるより前にヨミヨミの姿が突如としてその場から搔き消え、拳銃を向けた男の背後に現れる。


「……五人は厄介だな」


 男がヨミヨミの気配に気がついて振り向くより先に、ヨミヨミの手が男の頭を掴み、容赦なく壁に叩きつけた。鈍い音が響き、男の体がずるりと地面に落ちる。


「五人ともなれば、流石に運ぶのに時間がかかる」


 瞬時に敵も理解したのだろう。たった五人程度ではヨミヨミさんには勝てないということが。


 次の瞬間に敵はヨミヨミではなく俺達を人質に取ろうと狙って動くが、敵の動いた方向に俺達はいない。

 ヨミヨミさんが使う、光の屈折による幻影によるものだろう。


 敵が幻影に気がついた次の瞬間、ヨミヨミさんの周りに光る幾何学的な模様の陣が発生し、それから発せられた光線が敵数名の足を穿つ。


 いや、穿っていた。文字通り、何の比喩でもなく光の速さによって行われる攻撃は人の認識能力を優に超える。

 俺が放たれた光を認識した頃には、既にほぼ全員が倒れ伏していた。


「……は?」


 それ以上に混乱したのは、たまたま運が良く、ヨミヨミとの直線状に仲間という遮蔽物があり攻撃が届かなかった敵だろう。


 何があったのか、どうなったのかすら分かる前に自分以外の全員が倒れた。

 五対一、それもヨミヨミは二人の足でまといを背負っていたはずなのに……である。


 恐怖すら、脅威と認識することすら、あるいは人間が最速で動ける電気信号の反射ですら、理解出来ないほどの速さ。


「……いや、これは、なんで」


 俺はゆっくりとその男の後ろに移動して、後ろからきゅっと首を絞めて落とす。一応、意識の確認のために瞼を無理矢理開けて瞳孔を確認してから男のしていたベルトを取って腕を縛り上げる。


「……お前、何をするかと思ったら……首を絞めて失神させて……ずいぶんと手際がいいな。セーラから、人を攻撃するのが苦手なお人好しと聞いていたが」

「……? いや、失神するだけで外傷が出ないようにしてますし、ヨミヨミさんのレーザーを食らって脚が焼け溶けるよりもこっちの方がマシでしょう。治るとは言っても怪我をしたくはないでしょうし」


 敵とはいえど、情けぐらいはかける。俺がそう言うと、ヨミヨミさんは何故かドン引きした様子で「そ、そうか」と頷いた。


 次に様子を見たほうがいいのは……脚が焼けている三人よりも頭を打った方か。火傷は傷口から菌が入ることによる感染症が恐ろしいが、急を要するのは頭部の打撲による脳出血だ。


 一応意識はあるらしいが、突然の衝撃のせいでか吐き出している言葉は日本語ではなく別の言語だ。英語……ではないな、ラテン語だろうか。確か今は母語としている人間はいなかったはずだが……まぁ、考えても仕方ない。


「……視界ははっきりしているか?」

「は? あ、ああ」

「今日の日付は?」

「八月の、六日だ」

「曜日は分かるか?」

「火曜日」

「……とりあえず、拘束するが、抵抗するなよ。頭を打ったやつの首を絞めたら血管が切れて即死する可能性がある」


 無抵抗の男を先程と同じように縛ってから、壁に寄りかかるように座らせる。

 しばらく様子を見る必要はあるが、ひとまず置いておいて次だ。


 ヨミヨミのレーザーは全員の片足ずつを的確に射抜いており、貫くまでは至っていないが、歩けなくなる程度の火傷を負わせている。普通の治療だと切断するしかなさそうだ。

 ズボンも同様に焼け溶けており、皮膚にべったりと癒着して異様な匂いが漂っている。


「……あー、ちゃんとした設備のあるところで治療の必要があるな。二時間以上もかけて手遅れになるわけにもいかないし、ヨミヨミさん、近くに病院並みの施設があって使っても問題ない場所ってありますか?」

「……俺にはお前がよく分からない。まぁ、とりあえず連絡をしておく」

「どこですか?」

「管理機構の近くの支部だ。三十分もあれば合流出来るだろう。元々そちらに運ぶつもりだったしな」


 結構近くに支部があるな。それなら十分に間に合うか、多少の問題があっても俺がいたら大事にはならないだろう。

 まぁ、大事になっても仕方ないと諦めるが。


 明らかに人権を無視して好き放題やっている奴が相手だ。全力を以って助けてやるが、それでも及ばないなら仕方ない。

 圧倒的な力を持ったヨミヨミさんと言えど、未知の異能力相手だと速攻で全員を沈める必要があったので、この状況も必然だったし、むしろわざわざ脚を狙っているのはかなりお人好しだとすら思える。


 一通りの応急処置を済ませてから、全員を一か所に纏める。


「アキト、やりたいことってなんだったんだ?」

「ああ、完成した一色の絵を見せる。どういう効果が出るのか分からないから、味方で試すわけにもいかないし、異能力者の必要はあるしでチャンスがなくてな。ぶっつけ本番で龍人に見せるのよりかはマシだろう」

「……異能力が変化するほどの価値観の変容が起きるかどうか……か。岸井を侮るわけじゃないが、正直なところ疑問には思う、本当に絵でそのようなことが起こるのか」


 ヨミヨミはそう言ってから、腕に付けていた時計を見る。


「俺はあまりこちらに長居出来ないからな。最悪タクシーを使うが、明日の朝にはあちらに戻りたい」

「何かあるんですか?」

「前も言ったが、アメリカから来る奴の迎えだ」

「別にヨミヨミさんが行く必要はないかと。龍人に対抗出来るような異能力者なんですから、危険はないでしょうし」

「……いや、まぁ、それは……そうなんだが」


 歯切れの悪いヨミヨミさんは、頭を軽く掻く。


「こちらの支部の人が協力的ならまだしも、非協力的だと、最低限の検査と治療の後、あっちに送る必要がありますけど……それにもヨミヨミさんの協力は必須ですし」

「……まぁ、何というか。どうにか出来ないか?」

「出来ないことはないですが、そんな無理に急ぐ必要があるのかと」


 確かセーラの話だとリリィという水を操る異能力者だったはずだ。龍人の性質上雨天時の戦闘が基本になるためヨミヨミとは反対にかなり有利に戦える人材とだけ聞いている。


 リリィ……女性か。

 言いにくそうなヨミヨミさんの様子や、先程のフードコートでのプロポーズの言葉を気にしていた様子などから察する。


「……恋人か何かなんですか? アメリカから来る人は」

「いや、恋人というわけではないが。まぁ……なんというか、早く会いたいとは思っている」


 一色の方を一瞥してからうなずく。


「なら、善処します」


 散々世話になっているので可能な限り手を尽くしてもいだろう。好きな女の子に会いたいという気持ちはよく分かる。さっさと効率よく動いてやろう。

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