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episode:4-12 【甘ったれ龍を穿つ】

 一色と食事をしてから、携帯ショップに向かう。なんとなく俺と同じ会社のところにきたが、まあそちらの方が色々と都合がいいか。俺の名義で契約するのだから、色々と割引も効く。


 一色は俺の後ろに隠れるように着いてきながら、周りをキョロキョロと見渡す。


「んぅ……どれも同じように見えます」

「中身は多少違うけどな。まぁ、外観が気にならないなら連絡用になら特別選ぶ必要もないか。俺と同じのにするんだな」

「えっと、そうします」


 ダラダラと長い説明を聞きながら、どう考えても不要な契約を断っていく。

 一色は難しい言葉や横文字で不安になったのか、表情を固めたまま動かない。


 なんとなく、一色が怯えるタイプの人間が分かってきた気がする。俺やまどかのように、ある程度は相手に合わせるような性格ならそんなに警戒しないが、この店員やセーラのように仕事で動いている人に対しては警戒しているらしい。


 いや、セーラは俺との距離が近いからかもしれない。何にせよ、一色はいざとなったら自分のペースに持ってこれる人には警戒心が下がるようだ。

 まぁ、だからといってずっと一色に合わせる必要もないだろう。今まで通り、合わせても問題ないところは合わせて、そうでなければ俺が主導で動くぐらいが良さそうだ。


 そんなことを考えているうちに説明が終わり、書類に目を通す。

 特に問題はなかったので諸々の手続きを終えて、スマホを受け取って外に出る。


「使い方、分からないよな。これが電源ボタンで、これが音量」

「ん、んぅ……なるほど? です」

「とりあえず、電話番号とメールアドレスの登録だけしておくか。セーラとかにも勝手に教えていいよな」

「は、はい。難しそうです……」

「電話ぐらいなら簡単だ。とりあえず連絡先はもう一通り登録したから、このアイコンを押して、連絡先から電話を掛けたい奴のとこを押せばいい」


 一色に説明をしてから手渡すと、彼女は恐る恐るといった様子で画面を触る。

 すぐに俺のポケットから初期設定のままの呼び出し音が鳴り、俺はそれを手に取って耳に当てる。


「も、もしもし……」

「もしもし」

「に、二重に聞こえます!」

「そりゃな……。とりあえず切るぞ。近くにいる俺に掛けても仕方ないだろ」


 一色は面白そうにスマホを眺めたあと、別の人物に電話を掛ける。まぁ、おそらくまどかだろう。

 俺はともかく、一色は暦史書管理機構の奴とはそれほど親しくしていない。


 一色は恐る恐る耳にスマホを当てて、反応があるのを待つ。


「あ、もしもし、えっと、いえ、違います。僕です、僕」

「……一色、詐欺のやつにみたいな言葉になってるぞ、そのスピーカーのアイコンを押してくれ」


 一色は俺の指示に従ってスマホを操作すると、ここ数日で聞き慣れた少女の声が聞こえる。


『えっ、本当に誰? クラスの子?』

「……あー、まどか、悪いな」

『ん? アキトくん? ということは、シキちゃんか、さっきの』

「あ、は、はい。一色です、スマホを買ったのでご連絡させていただきました」

『オッケー、登録しておくね』

「……まどか、やっぱり高校生だったか、クラスの子って」

『あっ……ま、まぁ、気にしないで』

「ちゃんと学校行けよ?」

『行ってるから大丈夫だよ。今は夏休みだし』


 あそこから通えるような高校か。いくらか候補があるが……昨日出かけたときに、あの辺りをよく見知った様子だったことを思うと、おそらく……と一つの候補に絞ることが出来てしまう。


「……お前、結構なお嬢様だったんだな」

『んぇ!? えっ、な、なにが!? なんのことかな!?』

「慌てすぎだろ。そんないい育ちでなんでこんなことをしてるのか……」


 いや、逆か。貧乏だったらこんな道楽は出来ないだろう。


「おほん……と、怪盗さんの方はどんな感じですか? 元気に盗んでます?」

『いや、しばらくはシキちゃんの絵以外は休業かなぁ。私まで離れるわけにはいかないし。雨が降らない限りは龍人も出てこないから、夏休みの宿題をちまちまやってるよ。全然分からないから進まないけど』

「……あー、巻き込んだせいで勉強が遅れたか?」


 今まではまどかが盗んだせいでこんな状況になっているといった考えだったが、一色が元々シュイロンの絵を描くために育てられたのだったら話は変わる。

 まどかが盗まなかろうが、一色の絵は奴等の手に渡っていたはずだ。


『いや、そういうわけでも……まぁでも、うーん、どうかなぁ』

「テレビ電話で良ければ教えるが、18なら受験も近いだろ」

『えっ、教えれるの? アキトくんが?』

「……一応歳上だぞ。ある程度ならな」


 まどかが通っているであろう高校の勉強から問題なく教えられるだろう。

 俺とまどかが話していると、一色が手持ち無沙汰になったからか、俺の服の袖をくいくいっと引っ張る。


「あ、買い物の時間がなくなるからまたな」

『あ、ばいばい。シキちゃんも』

「ん、お騒がせしました」


 まどかの方から通話が切られて、一色はムッとした表情を俺に向けてから、不思議そうな表情に変えて首を傾げた。


「あの、アキトさん」

「どうした? 何かあったか?」

「あの、僕……アキトさんに怒ってるんですけど、なんで怒ってるのか謎です」


 そんなことを俺に尋ねられても困る。

 一色を置いて話し込んだことか、いや、それぐらいは今までもあった。

 だとすると、今のことではなく少し前のことか? 夜寝るときに一色の手や腕、頰や髪などを勝手に触ったことか?

 いや、それとも昨日、一色の下着をベタベタと触り回してしまったことか。


 無理な告白や交際してもいないのにプロポーズしたこと。隠し事がバレたのに無理に隠したままにしていること。家に無理矢理押しかけて同棲を開始したこと。


 ダメだ、昨日今日のことだけで、怒られる原因があまりにも多すぎる。


「……まぁ、悪い」

「えっ、何がですか?」

「色々とな。一色には迷惑をかけていると思って」

「……よく分からないけど、いいですよ。えっと、アキトさんの日用品を買いに行くんでしたっけ」

「その予定だが、 一回帰ってもいいけどどうする? 俺の買い物だから、一色が付いてくる必要もないしな」

「えっ、いえ、アキトさんに重いものは持たせられないですから」


 怪我が治っていなくとも、一色よりかは体力もあるのだが……。と言っても一色が言うことを聞くことはなさそうだ。

 さっきから店の出入りをするのに、パタパタと動いて扉の開けて俺が通るのを待つぐらいだし、本当に俺が全然動けないと思っているのだろう。


 スマホの充電器などの入った袋も持たせてくれず、手持ち無沙汰である。


「……まぁ、最低限の物だけ買うか」


 重いものを買って一色に持たせるわけにはいかないので、一色の家の近くでも買える日用品などは諦めて、服の着替えを一着と寝巻き代わりのジャージ、あと肌着や靴下ぐらいでいいか。

 欲を言えば色々欲しいが、一色に買い物袋を奪われることを思うと、これが彼女の持てる限界だろう。

 飲食物は重いので諦める方が無難か。


 チェーン店の服屋に入り、適当に無地の服や無難な物を選んでカゴに入れる。


「んぅ、この前に比べて、選ぶの早いですね。疲れてます?」

「そりゃ、俺の服だしな。一色のを選ぶわけじゃないし、適当でいい」

「……えっと、そういうものですか?」

「そりゃそうだろ」

「僕のを買うって言ったら、迷ってくれるんです?」


 周りを見渡してから首を横に振る。


「それならまた別のところで買うな」


 ここのは生地が薄かったりすることもあるので、一色に着せて下着が透けたりしてしまっては事だ。

 適当に購入を済ませて店から出る。案の上、一色が持たせてくれなかったので、これ以上の買い物は難しい。


 さっさと帰って、他に必要なものはまた後で買いに行くことにする。

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