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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

歩く鎧の異世界冒険記

作者: 猫鎧

人生初めての小説執筆をさせていただきました。もしお時間がおありでしたら読んでいただければ幸いです。

「ではこちらが今回の報酬となります。いつも丁寧な仕事をしてくださりありがとうございます。次回も是非よろしくお願いしますね」


「あぁ」


 何時も通りのやり取りに何時も通りの報酬を受付嬢から受け取り鎧の男は冒険者ギルドを出てあてもなく歩き出しながらふと物思いに耽る。


(冒険者…か)


 とある事故に会い運悪く死んでしまいこのアーガストヘルムという異世界に転生してから冒険者として日々を過ごして早くも10年の時が過ぎようとしていた。

 始めは冒険者という職業に憧れを持ち、自分にはこれから様々な物語が待っているのだと年甲斐もなく興奮もしていたがある事件をきっかけにいつのまにかそんな憧れもどこかへ消え失せ、今ではただ毎日を惰性で送るだけの存在へと成り果ててしまっていた。

 

 このままではいけないと心の奥底では焦燥感を燻らせていることは自覚しているが、日本という国で平和に過ごした男にとってこの世界はあまりにも残酷すぎた。

 

 冒険をしようとしても彼には冒険者として致命的な欠点があった。

 彼はある特別な条件を持って転生したためあらゆる攻撃に対して反応し、防御行動を行えるだけの能力と人並み外れた強靭な"肉体"を手に入れた。が、同時に自身の攻撃が攻撃目標にほとんど当たらないという致命的な欠点も併せ持ってしまっていた。

 

 あらゆる攻撃に対し防御が行えるのだからたとえ攻撃が不得手だとしても、最前線に立ち仲間を守りながら戦えばいいと思うだろうし実際に彼も最初は異世界ということでどこか浮かれていたのか冒険者パーティに入れてもらいとくに考えずに実際にそれを実行してしまった。

 結果的に言えば彼は盾役としての役目を全く果たせず自身以外の仲間の命を目の前で失うという最悪の結果となった。

 当たり前だが魔物は何も考えずに一番前にいる相手だけを狙うなんてことはなく、きちんとした知能を持ち脅威である冒険者たちをどう殺すか常に考えを巡らせている。そんな魔物が防御しかできない木偶の坊などまともに相手をすることなどあり得ず彼を途中から完全に無視して他のメンバーを狙って行動し始めた。

 まだまだ駆け出しだった彼らはまさか魔物が一番前にいる盾役を完全に無視して一斉に後衛を狙いにくるなど思ってもいなかったのか完全にパニックとなりまともにやり合うこと無くあっさりとその若い命を散らすこととなってしまった。

 彼は仲間が魔物達に食い殺されるのをただ見ていることしか出来なかった。攻撃が一切当たらないのだから彼にできることなど何もなかったのだ。

 そもそもこの世界において盾役などという職業も役割も存在はしない。なぜなら挑発といった風な敵の注目を自身に集めるようなスキルが存在していないからだ。いくら前衛が頑張って敵の嫌がることをして注目を集めようとしても敵が後衛職を驚異と感じたならば容赦なく後衛を狙うことだって当然ある。

 しかし転生したてでこの世界に関する知識がろくになくゲーム感覚で浮足立っていた彼と、冒険者として駆け出しで同じく知識に乏しかった彼らはそんなことは知らずその人生に幕を閉じ、深いトラウマを植え付けられることとなった。

 それ以来パーティを組むことが出来なくなってしまった彼は誰もやりたがらない下水掃除や大した儲けにならない薬草採取といった雑用をこなす日々を送っていた。


「何が冒険者だよ…笑っちまうよな。やってることはただの便利屋じゃねぇか。」


 首にかけた冒険者としての証であるくすんだ灰色をしたタグを見つめながら誰に言うでもなく自傷気味に独りごちる。


(このまま宿に帰ってもどうせまたやけ酒してしまうだけだろうし気晴らしにでも薬草でも摘んでくるか)


 冒険者は基本的に冒険者ギルドに掲示された依頼を受注して達成報酬を受け取るが薬草などのような常に需要がある素材は依頼を受けていなくても依頼を受けたときと同じように買い取りをしてくれるので彼はよく気晴らしに薬草採取をしていた。

 あらゆる攻撃にたいして防御行動を行える彼にとって近隣の森程度であればどこに行こうとも脅威ではなく、深部まで採取しに行くことが出来るのと頻繁に採取を行っていたためにその採取技術は冒険者ギルドの職員内でも評判が高いものとなっていた。が、自身に対する評価に一切興味を持っていなかった彼がそれを知る由もなかった。

 いや、正確に言えばパーティ全滅以来冒険をすることをやめてしまった彼にはあらゆることへの興味が完全に無くなってしまっていた。

 慣れた足取りで薬草の採取ポイントへと到着しいつものように薬草を採取しようと腰を屈めたその時であった。


 「きゃあああああぁぁぁっ!!!!」

 

 女性の恐怖に染まりきった悲鳴が辺りに響き渡りそれに続いて狼らしき遠吠えが複数続いた。

 

 「…グレイウルフか」


 (今の遠吠えを聞いただけでも5、6匹以上の群れか…。襲われているのが何人なのかは知らないがもう陽も落ちかけている森の中だとかなり不利な戦闘を強いられている可能性が高いか。…このまま帰っても寝覚めが悪いし間に合うかは分からないが行くだけ行ってみるか。)

 

 しばしの逡巡の末グレイウルフと思われる魔物に襲われている冒険者を助けに行くため悲鳴が聞こえた方向へと駆け出す。

 

 「なっ…!?まずいっ!」


 現場に到着した彼の目に映った光景は想像していたよりも遥かに危うい状態であったため、考える暇もなく反射的に剣を抜き取り、そのままの動作で今にも先程の悲鳴の主である少女へ噛みつかんとしていたグレイウルフへと剣を振るった。


 「…ッ!グルルッ!」


 彼の攻撃はもちろん当たることはなかったが突然草むらから現れ剣を振るってきた彼の攻撃を避けるためグレイウルフが大きく後ろへ飛び跳ねたことで少女への危機は一先ず凌ぐことに成功した。

 しかし、最悪の事態はなんとか凌いだというだけでグレイウルフ5匹に囲まれており状況は最悪のままである。

 

 

 (俺一人ならなんとでもなるが負傷者を守りつつ5匹を相手にするのは流石に厳しいか。考えろ…このままだとあの時の二の舞だ…それだけはなんとしても避けなければ)


 一瞬以前仲間達を失ったときの場面が脳内にフラッシュバックしかけたが頭を振るい強引に現実へと引き戻し、最善の手を必死に考える。

 が、どんなに考えても攻撃を当てることもできず自身へと敵の注意を集中させるようなスキルも持ち合わせていない彼には彼女を守りながらこの場を切り抜ける方法が思い浮かばなかった。

 そうこうしているうちにこちらを警戒し睨み続けているだけだったグレイウルフ達がいくら待っても動きを見せない彼に焦れたのか二匹のグレイウルフがこちらに襲いかかってきた。


「おらぁ!こっちに来やがれ犬野郎!」


 一匹が彼に向かって猛スピードで飛びかかったが難なく盾で防ぎそのまま弾き飛ばし、すぐ様側面から飛びかかってきたもう一匹も同じ様に盾で弾き飛ばそうとするが盾にしがみつき離れようとしないため思わず地面へと押し倒しそのまま重量を利用し圧殺する。

 

 (…!そうか…流石にこれだけ近ければ攻撃は外さないのか…、これならいけるかもしれない)


 「さぁ、もっとかかってこいよ糞犬ども!」


 盾で押しつぶすというあまりにも強引な手段ではあるが相手を倒す手段を見つけた彼はあと1、2匹殺すことができればグレイウルフも撤退するだろうと判断し、先程と同じ様に大声を出し相手を自分に飛びかからせようとする。

 そしてその誘いに乗るように残ったグレイウルフ5匹が一斉に走り出した。

 正面から飛びかかって来たグレイウルフを盾で突き飛ばし難なく対処するがその隙を突くように左右から二匹が同時に襲いかかってくる。左腕と右足に噛みつかれるが焦ることなく噛みつかれた腕を勢いよく地面に叩きつけ噛み付いていたグレイウルフはそのまま絶命してしまう。

 足に噛み付いていたグレイウルフは足を思いっきり振るとあまりの勢いに噛み付いていたグレイウルフがそのまま飛んでいき木にぶつかり同じく絶命した。

 

 残り一匹だと思った瞬間、その残った一匹が少女のほうへ駆けていく。


 「おい、避けろ!!」


 咄嗟にそう叫びつつ追いかけるが、見ると少女はどうやらとっくに体と精神の限界だったらしく気絶しているようで動ける状態ではなかった。

 

 (くそ…っ!間に合わねぇ!!俺はまた助けられねぇのか!!また…またあんな思いをしなきゃいけねぇのか!クソッ!クソクソクソッッ!!!)


 「くそがああああぁぁぁっ!!!!こっちを見ろってんだよおおおおぉぉぉッッ!!!」


 思わず今まで心に溜めていたモノを全てぶち撒けるかのように大声で叫びながらグレイウルフを追いかけていると、突然自分の中から何かが抜けるような奇妙な感覚に襲われる。

 不思議に思いながらも今はそんなことを気にしている場合ではないと瞬時にグレイウルフのほうへ意識を戻すと想像もしていなかった光景が目に映り思わず足を止める。


 (なんだ…?さっきまで俺のことを完全に無視していたってのに、これは一体どういうことだ…?)


 彼が困惑するのも無理はないだろう。先ほどまで錯乱し少女を襲うことしか考えていなかったグレイウルフが足を止め、彼のほうへと振り向き目を充血させ涎を垂らしながらしきりに吠え続けているのだから。

 その様はまるで積年の恨みを抱いていた相手を前にした復讐者と対峙しているかのように彼へと釘付けになっていた。

 

 (さっきの何かが抜けるような感覚…あれが何か関係しているのか?しかしこれはチャンスだな。これならあの子を無事守りきれるかもしれない…!)


 などと思っていると様子がおかしいグレイウルフが真正面から一心不乱に飛びかかり顔に向かって噛み付くが彼はそれでも焦らずにそのまま両腕でグレイウルフを抱き締め、そのまま徐々に力を込めていく

 彼の人並み外れた怪力によって骨が軋み始めるがそれに抵抗するようにグレイウルフは噛み付いたままの頭をがむしゃらに振り回す。  

 

 「こっちはフルプレートだから牙は通らないし相手が悪かったな。それに…」


 グレイウルフがあまりにも噛み付いたまま自身の頭をめちゃくちゃに振り回すのでついには彼の装備していた兜が外れてしまう。


 「それに…残念だったな。俺は人間じゃないからそんなもんじゃ死なないぞ」


 兜が外れ鎧の中身が顕になるがその中身は空っぽであった。それもそのはず、彼は人間ではなくリビングアーマーなのだから…

 兜が外れたと同時にグレイウルフもついには圧力に耐えきれなくなったのか口から血を吐きながら事切れてしまった。


 

 全てのグレイウルフを倒し終えた彼は人心地つくと倒れている少女の元へ向かう。

 辛そうな顔をしながらうなされているようだが軽く見たところ命に関わるほどの怪我はしていないようでホッと安心しながら少女をおぶってゆっくりと街への帰路に就く。


 「身につけているものを見たところ冒険者のようだがこんな小さな子まで冒険者としての仕事をしなければいけないなんて、つくづくこの世界は残酷だな…」


 誰に言うでもなくそんなことを一人呟きながら鎧は歩いていく。

 

 


 次の日、いつものように依頼を受けるため冒険者ギルドへと入ると依頼張り出しの掲示板の前に昨日助けた少女の姿があった。

 受けられそうな依頼を探しているのか難しい顔をしながら張り出されている依頼書を眺めているようだった。

 

 「…おい。何をしているんだ?」

 

 昨日まさに死ぬような体験をしたばかりだというのにその明くる日にはまた冒険者業を再開しようなどと冒険者としてそれなりに経験を積んだ者でもそうそうできるものではないその異常な精神に驚いた彼は思わずそんな言葉を少女にかけてしまっていた。

 すると彼の声に気がついた少女は慌てた様子で彼の前まで駆けてくる。


 「き、昨日私を助けてくださった冒険者さんですよね!?えと、その…昨日は危ないところを助けてくださり本当にありがとうございました!」


 「あぁ。たまたま居合わせたから助けただけだからあまり気にしないでくれ。それで?何をしていたんだ?」

 

 「は、はい。私でもできそうな依頼はないかなって思って…探していました」

 

 あんな目にあったすぐだと言うのにもう今日にでも新しく依頼をこなそうとするなどもはや正気ではないのではないかと驚きを隠せず、彼は抱いた疑問を聞かずにはいられなかった。


 「…どうしてあんな、少しでも運が悪かったら死んでいただろうって事があった直後なのに冒険者を続けられるんだ?怖くないのか?」

 

 すると少女は彼の質問に対して真っ直ぐ彼の顔を見ながら答えた。

 

 「私には、夢があるんです。昨日のことがトラウマになっていないと言えばもちろん嘘になりますし今さっきも依頼書を見ていただけで怖くて震えが止まりませんでした。でも、それでも叶えたい夢があるんです」

 

 「………」

 

 確かによく見ると少女の杖を握る小さな両手は微かに震えているようだった。しかし、彼はその真っ直ぐ澄んだ瞳の奥に確か信念が宿っていることを感じ取り思わず言葉を失ってしまう。

 そして暫く呆けた後に彼は少女にこう言った。


 「なぁ、その叶えたいっていう夢の手伝いを…俺にやらせてもらえないか?」

 

 「……え?」

 

 「見たところ一人なんだろ?なら俺と組んで一緒に冒険者をしないか?君は後衛職の魔術師だろう?俺は前衛だ。役に立つはずだ」


 どうしてそんな提案をしたのか自分自身理解できていなかった。しかし、少女の瞳を見た瞬間自分の奥深くで日々燻っていた何かに火が灯ったような気がした彼は、その火付けの原因となった彼女の夢を叶える手助けをすることで今までずっと死んでいた自分に何か変化が起きるのではという直感めいたものを無意識のうちに感じ取っていたのかも知れない。

 そんな彼の提案に少女は初め困惑して言葉を失っていたが、すぐに意識を取り戻し前のめりになりながら興奮気味に答えた。


 「ぜ、是非っ!!是非お願いします!」


 「そういえばまだお互いに名乗ってなかったな。俺の名前はアレク、ただのアレクだ。君の名前は?」


 「わ、私はアリシアって言います」


 「じゃあアリシア、これからよろしくな」


 「はい!こちらこそよろしくおねがいします!」


 そう言って二人はお互いの顔をしっかりと見据えながら握手を交わした。

 


 


 「あ!そういえばアレクさん。私のことを子供だと思っているようですけどこれでも私、立派に成人していますからね!」


 「……え?えええぇぇっ!?」


 そう言うとアリシアと名乗った少女はエルフ特有である尖った耳を僅かに動かしながら少しだけ自慢気にしていた。

 

 これが後に鋼鉄と氷精と呼ばれその名を世界中に知らしめる存在になる…かもしれない二人の出会いの物語

 この度は『歩く鎧の異世界冒険記』を読んで頂きありがとうございました。

 前書きでも少し話しました通り人生で初めての小説執筆ということで、非常に拙く読むに堪えない作品に仕上がってしまっているかも知れません。そんな作品を最後まで読んでいただいたこと、感謝の念に堪えません。

 

 結構前からなろうで素敵な作品をよく読ませてもらっており、「自分でこんな風にキャラクターや世界を考えて好きなように動かせるなんて楽しいだろうな」と作品を読むたびに思い続けておりまして、物は試しだと今回この作品を書かせてもらった次第です。

 ですがいざ書いてみようとすると他の作者様方のような素敵な言い回しが全くといっていいほど頭から出てこず、たったこれだけの量を書くだけでもかなりの期間を要してしまいました。実際に書いてみて改めて小説作家という職業の方々がいかに凄い人たちなのかと思い知らされました。


 本当は最初から連載として投稿しようと思っていたこの作品ですが、導入をどのようにすればいいのかが全く分からず、遅々として進まなかったのでその辺りをばっさりカットしたものを試しに読み切りとして投稿させていただきました。

 主人公アレクがどのような条件を受け入れ”攻撃がほとんど当たらない”、”あらゆる攻撃に対し防御行動ができる”といった尖った性質を持って転生したのかという説明も導入でするつもりだったのですが説明説明で書いてる自分でもどうしてもつまらないと思えてしまうんですよね…。

 アレクとアリシアに対し愛着も湧いてしまっており、できれば連載にしたいと思っておりますがどうにもこうにも上手くいかない状態が続いており自身の文才のなさを情けなく思う日々です。


 それでは長々としたあとがきまで読んでいただきまして本当にありがとうございました。

 感想、誤字脱字や文章等のご指摘がもしおありでしたら是非ともよろしくおねがいします。

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