7 燃ゆる鋼鉄の魔人
二回目のグラビトン捕獲作戦…………
グラビトン捕獲に失敗した俺は、一週間後再びイモータル様に呼び出され、グラビトン捕獲任務に向かう事になった。
今回は本気だ。
捕獲出来なければ本気で討伐する事になってしまう。
「さあバール出発しなさい」
イモータル様の命で出発しようとしたのだが、しかしそこへ伝令が入った。
「イモータル様、タイタンがエル殿の手により討伐されました。タイタンの死も確認してあります」
タイタンが死んだ?
それならこれからの対策も変わって来る。
もしかしたら俺は行かなくても良いかもしれない。
「……そうですか……それでは王都の中は安全になったのですね?」
「はい、メギド様もグラビトンも、以前動きは見られません」
ここは俺の意見を言うべき所だ。
「イモータル様、王都が確保されたのなら、グラビトンは放置しておいても良いのではないですか?
正門は使えませんが、外壁を崩して別の入り口を作れば王都に入れますよ?」
「グラビトンをあのままにしておく事は出来ません。彼だって仲間なんですよ」
気持ちは分かります。
しかし俺はその為に怪我したくありませんし。
「しかしそれをして、怪我や死んでいく人も仲間なんですよ。イモータル様、ここは放置の方向で行きましょう!」
「……もしかして、貴方が行きたくないだけじゃないのバール?」
「いえ、違います! 全くそんな事はありませんよ!」
しまった目をそらしてしまった。
このままでは不味い。
「王都の正門を内側から塞いでしまえば、正門を護っているグラビトンは入って来られません。住民にも安心です。こちらも怪我人が出ませんし、グラビトンも王都を守れて満足するでしょう!」
「……まあ考えておきましょう。じゃあ行ってきなさい」
「え? 考えるんじゃなかったんですか?」
「もちろん考えますよ。今回の作戦が終了したらですけど」
「……行ってきます」
どの道行かなければならないようだ。
今回出発するのは六人っと……タイタンの討伐に向かう予定だったべノム隊長の班だ。
ロッテさん、べーゼユールという天使、グーザフィアというもう一人の天使。
流石に十人は多いという事で、この中から選抜する事になった。
人が多くなればそれだけ動きが制限される。
大きな技を使っても、仲間が近くにいたなら巻き込んでしまう。
まあバランスが大切だって事だ。
俺はべノム隊長に丸投げしようとしたのだが……。
「お前がこの隊の隊長なんだからお前が決めろよ」
とべノム隊長に言われてしまった。
べノム隊長の方が上官なのに、面倒くさいな。
いっそべノム隊長を部下にして、日頃の恨みを晴らしてみるか?
「それじゃべノム隊長来てください」
べノム隊長を一人目として選ぶと、ロッテさんがこちらを見つめて来る。
何だ?
俺に惚れたのだろうか?
何か言いたそうにしている。
「私も行くッ、べノムとセットだから!」
まあ知っていたけど、何だろうこの敗北感は。
じゃあこれで二人目。
防御約としてブールにも来てもらうとしようか。
これで三人。
天使の実力の程は分からない。
俺は彼等の実力を見た事が無いし、見た感じだとグラビトンに通じる腕力を持ってるとは思えない。
外れて貰おうか。
先ほど歩いていたのを引き抜いたルルムムと言う女性。
特徴として、腹の下から獅子の体になっていて、その獅子からは、緑色の翼が生えている。
手に持つ大槌を扱うようだ。
頭に打撃を与えれば、気絶するのは証明済みだ。
彼女には頑張って貰いたい。
これで四人目。
まあこれで良いだろう。
「それじゃあこの四人で。じゃあ行ってらっしゃい」
「おめぇも来るんだよ!」
くっ、隊長め。
今回は部下なんだから、言った事を聞いてくれても良いのに。
やっぱり行かないと駄目なのか?
はぁ……めんどうくさい。
そして王国正門前。
相変わらずグラビトンが立ちはだかっている。
「どうするよ、隊長」
隊長はあんたで良いだろうと言いたいが、まあ良い。
「じゃあ捕獲してみましょうか。グラビトンは頑丈なんで、本気でぶん殴っても大丈夫でしょう。
もし死んでしまったらその時はその時で」
「いや殺すなよ。ギリギリまでは粘れよ」
「隊長、そんな事言ってると死んじゃいますよ? かなりきついんですからね」
その時、グラビトンが反応した。
こちらを敵と認識したらしい。
少し前傾姿勢を取り、剣をこちらに向けている。
「さあ行きますか!」
ブールは盾と言うには余りにもデカく、分厚い壁を前に構えて、グラビトンの前に突っ込んだ。
グラビトンの剣がその盾を避け、空いている部分を狙っている。
巨大な壁に阻まれたら空いている部分を狙う、それは簡単に読める事だ。
だから俺は槍でその進路を塞ぐ。
かなりの衝撃があって、俺はブールの体にぶつかるが、俺と二人の力により、巨大な剣の進行を阻んだ。
剣を止められたグラビトンに、べノム隊長の斬撃が襲い掛かる。
ガキャーンッ! ゴキャーンッ! キーンッ!
その攻撃で、グラビトンにダメージが入った様にみえない。
だが空を飛ぶルルムムが、後から頭を狙い巨大な槌を振り下ろす。
グラビトンの頭が揺れ、少しだけぐら付くが、剣を持たない腕を振り回し、飛んでいるルルムムにぶつけた。
「痛ったいわねこの野郎! もっかいお返ししてやるわ!」
ルルムムは空中で体制を立て直し、更なる打撃を与える為に大きく振りかぶった。
グラビトンの剣は、ブールの大盾と俺の槍で抑えられている。
それを何とかしようと、後へと下がって行く。
それをさせまいと、それに合わせて俺達も前に出た。
まだグラビトンは動けない。
そこへルルムムの打撃が一発!
「……なあ、これ俺要らなくねぇか?」
「べノムったら、全く活躍してないよね。当たってもダメージ無いし」
ロッテさんの魔法は凄かったが、こんな接近していたら使いようがない。
隊長は、まぁ、うん、何となく連れて来ただけですよ、はい。
「こらーべノム! 見てないで手伝え!」
ルルムムの言葉がべノムの心をを抉っている。
「いや隊長、邪魔だから来なくて良いです!」
ふっ、言ってやった。(後で怒られるぞ)
ブールのツッコミが来たが、飛び回られても本当に邪魔にしかならないのだ。
隊長の体ではグラビトンの剣は抑えられない。
かと言って、何のダメージも無い攻撃を当てる為に、ルメルメの進路を塞いだら、足手まといになるだけなのだ。
後で隊長のダメっぷりを隊の皆に広めてやろう。
ルルムムの何度目かの打撃が当たり、グラビトンの膝が折れる。
チャンスだ。
また頭を揺らしてダウンさせてやろう!
槍を頭にぶつけようとしたその時、グラビトンの体が赤く輝き出した。
「熱ッ! ちょっと熱いって!」
近づく事が出来ない。
俺の槍が熱でグニャリと曲がってしまう。
ブールもその熱さから、グラビトンから遠ざかっている。
なる程、ロープを焼き切ったのはこの技か!
こんな技があるなら捕獲は無理だしまた撤退するか?
「べノム隊長、これ捕獲無理でしょ。帰りましょ……うぉっと!」
正門から動かなかったグラビトンが、牙を向いて襲い掛かって来た。
一体何故?!
赤くなったら怒りで我を忘れるとか?
暴走してるのにそれっておかしいでしょ!
「もうやるしかねぇだろ! 今まであの技を出さなかったんだ、きっと何か不都合があるんだよ!」
「くっ、足手まといの癖に」
「うるせぇ、後で覚えてろよ!」
だが隊長に言われた通り、きっと何かあるんだろう。
「アーク・グラビティ!」
ロッテさんの魔法が炸裂して、グラビトンの体が少し地面へと沈む。
しかしそれを物ともせず、グラビトンは重力の檻から脱出してしまった。
動きが鈍ってる今がチャンスとブールが動き、盾を横にしグラビトンの体へと殴り付けた。
グラビトンの赤い体が凹んでいる。
これは、熱を放つ代わりに防御力が減るのか?
それなら逆に攻め時だ!
熱さを我慢出来れば……良し、今なら隊長でもダメージが通る。
ここは隊長に任せるとしよう!
「べノム隊長、今ならダメージが通ります! 今が隊長の出番ですよ! 足手纏いから脱出するチャンスですよ!」
「お前、こんな時だけ言うんじゃねぇ! クソッ、まあ仕方がねぇか、確かに何もしてねぇからな。
行ってやろうじゃねぇか!」
隊長がグラビトンの剣を狙い、マントが簡単に剣を斬り落とし、もう一撃で剣を握っていた腕を斬り裂く。
「うあっっちいぃ!」
攻撃した外套が燃えている。
隊長は背中をぐりぐりと地面に押し付け、その炎を消した。
形状はマントだが、あれは隊長の体の一部だ。
武器を失った隊長は、本当に何も出来ないでいた。
しかしグラビトンの武器も無くなった。
一回ダウンさせて、この場から逃げよう!
「ブール!」
俺の呼びかけに答え、俺とブールはグラビトンを押さえつけた。
「ルルムム熱い! 早く!」
グラビトンの掌が俺の頭を掴みあげ、握り潰そうとしてくる。
「ぬああああああああああああ!」
痛いし熱い。
しかもこのままでは禿げる!
これはイカン!
もうダメだ。
一度離れよう。
槍でグラビトンの腕を払った瞬間、ルルムムの大槌がグラビトンの頭に炸裂した!
頭の後ろをへこませ、その巨体が地面に崩れた。
「捕獲は無理なので撤退!」
仲間の意見も聞かず、俺はその場から立ち去った。
今グラビトンに止めを刺しても寝ざめが悪くなるだけだ。
王都にも影響は無いしな。
逃げ出した俺に、他の皆も付いて来た様だ。
まあロープで縛っても焼き切られるから仕方ないんだが。
巨大な鎖でも無理だと思う。
次もまた行けと言われたらどうしよう?
呼び出されても気づかなかった振りでもしようか。
バール (王国、探索班伝令係) ブール (王国、探索班伝令係)
ルルムム (王国、探索班) べノムザッパー(王国、探索班)
アスタロッテ(べノムの部下) イモータル(王国、女王)
次回→この続き






