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6 五体の魔物達

ミーシャは城に向かっている。裏切者が居ると報告をする為に。色々と情報を聴きながら推理してみるが、今のミーシャには何も思いつかなかった。最近城に勤め出した人物に絞り込み、まず料理人のハンセンの所に向かって行く。よく分からなかったミーシャは、ハンセンを牢に放りこみ、次はゲルトハイムを探しに行った。王に呼ばれたと聞いたミーシャは、王の元に向かうのだが、行き違いになり再び研究所へ向かう。そこで事件が起きた、そのゲルトハイムが、王を石に変えてしまったのだ。助けようと飛び出したミーシャも、その薬の影響で石へと変わってしまう。意識を失った彼女だが、幸運にも目を覚ました。しかし両足と片腕が石とかし、もう駄目なのかと思われたが、自身の体を切り裂き、逃げる事に成功した。しかしもう一度振り返り王を見た時、彼女の心が一気に変わった。裏切者のゲルトハイムを倒す為に、彼女は知恵を絞ってそれに挑んだ。何とか打ち倒す事に成功したミーシャだが、その体はボロボロに変わっていた。命の時間が消えそうな時、フーラはその場に到着した…………

「王城は目の前だ! 進めい、全軍進めい!」


 帝国の兵士が叫び、最早王都陥落は目前だった。

 剣がぶつかる音、何方かの兵士の叫び声。

 地獄絵図が展開されて行く中、戦場が一瞬にして、静まり返えった。


 ……遠くから何かの音が聞こえた。

 悲鳴、獣の声?

 とにかく何かが聞こえたような気がした。


「何だ? 一体何が……」


 悲鳴と混乱が広がる戦場で、この兵士は何も分からず動けなかった。

 その兵士の元に、何者かが向かって来ていた。

 その何者かの後には、波の様に帝国兵の悲鳴があがっている。


 動かなければと恐怖が襲うが、最早意味がなくなっていた。

 留まるしか出来なかったその兵士は、寝転がってしまった自分の体を見続けている。


 それは帝国の兵が溢れかえる戦場で、突如現れた。

 五体の異形が王城の前に突然と。    


 まず一体、城門の前に青く巨大な巨人が現れた。

 三メートルはあろうかという巨大な外見と、鎧には体中に四角く突起したものが生えていて強靭である。

 自分の身長の二倍ほどある大剣を持ち、軽く振り回し始める。


 二体は空に現れた。

 黒の外套がいとうを羽織り、自由に空を滑空する魔物だった。

 体にはからすの羽根を生やしていて、それが人間ではない事を証明している。

 城を下にして空中に浮かび、その速度は人の目にはとらえ切れぬほどで、動く度に何者かの悲鳴が聞こえていた。


 三体目は敵兵のど真ん中に飛び降りた。

 体は全身が毛むくじゃらの獣の様な怪物だった。

 大岩を軽々と持ち上げ、敵兵士へとそれをぶん投げている。


 四体目の女形の異形は、もう一体と寄り添うように城から飛び出した。

 その肌は、白よりも白い色を持つ美しき化け物で、左目のみが金色に輝いて見える。


 五体目は人の様な悪魔だった。

 女形の化け物と共に現れ、雷雲を従えている。

 右の頭から捻じれた角を生やし、浅黒い羽根を生やしていた。

 城の中央に居る姿は、まるで絵画と見紛う程だ。


 その五体が現れ、王都の戦局が一変する。

 最初に動いたのは、巨大な青い巨人だ。

 敵の攻撃など物ともせず、目の前の道をただ真っ直ぐ突き進んで行く。

 剣のただ一振りで、塊あう敵兵三十人をぶった斬った。


「俺はクラノスと呼ばれた門番だ。王都の入り口で、最初に斬られた王都の兵士、門番だ」


 決して人では持つ事が出来ない大剣を、易々と天に掲げて彼は宣言を始める。

 誰に宣言する分けでもなく、自分自身に向かって。


「俺が王都を護ると誓ったのだ! それが一番初めに斬り捨てられ、何も護る事が出来なかった男だ。だが力を得て、今この場に戻った。人を捨てた故に、我が名を改めとしよう。俺はグラビトン、その重みに耐えきれず、押しつぶされてしまった怪物だ」


 帝国兵の一人がハッと状況を理解した。

 誰も動こうとしない味方に向けて、大声で命令を下した。


「何を訳の分からない事を言っている! 全軍怯むな! 行け、進めぃ!」


「いい機会だ。試してみたかったのだ自分の能力を。さあ、来るがよい!」


 剣、槍、弓、ありとあらゆる種類の武器が、グラビトンに叩きつけられる。

 名剣の一撃、必殺の一矢、鎧の隙間に入り込む槍でさえ、全て悉く。

 無尽蔵に、限りが無い程に。

 進軍する敵兵の波に、グラビトンは一切の動きもみせず、攻撃を全て余すところ無く受け止めきった。


 三分。

 それが彼が耐えきった時間。

 たかだかそれだけの時間だが、敵に囲まれたこの状態での三分は、普通ならば自殺していると同じものだ。

 だが帝国兵は彼を何一つ傷つける事が出来ずに、その攻撃は終わりを告げる。


「余りにも壮絶な攻撃ならば反撃しようとも思っていた。しかし傷すら付く事が無く、動く必要さえなかったらしい。どうやら俺は自分で思っていたよりも、随分と堅くなってしまったのだな」


 自身の腕を広げ、城門の守護者として、大声で言い放った。


「この先に進みたいのならば、この俺を殺して行くが良い! もしやれるのであれば、この道を通らせてやろう! それが出来るものならな!」


「これで終わりだと思うな! やるぞ貴様等!」


 圧倒的な人数と、万すら超えるその差でも、彼にとっては蟻の一撃にしか過ぎなかった。

 最早永遠とも呼べる攻撃すら耐え忍び、彼の後ろは無人の野が続く。



 二体目のからす様な魔物が疾走した。

 ただ空を飛び、鋭き刃の如き外套がいとうが踊る。

 その勢いは、放たれた弓の矢よりも速く、黒の外套が人を紙の様にを斬り刻む。

 誰一人彼を止める事が出来ず、その姿は異形と呼んでいいものだろう。


「クラノスの奴は、無駄に張り切っているな。俺にはあんな攻撃を防ぐ力はなさそうだ」


 空中で気持ちよさそうに飛び回る彼だが、化け物の体になった事を少しだけ後悔していた。

 動く度に感じる体の違和感、自身の体やその動きも、何もかもが違うものに感じる。


「それでもだ、この力を実際に使ってみると楽しくて仕方が無いのさッ!」


 黒のからすが、空中を舞い踊る。

 触る事も出来ぬその速さに、誰もが凍り付く。


「俺の名はフランツだ。ただの新兵だった者よ。戦士に憧れ兵士を望み、それを叶える力さえ持っていない力無い人間だった者さ。力に憧れ兵士になったが、帝国兵に簡単にぼろ負けした男だぜ」


 彼は地を見ると犇めきあった兵達に疾走すると、後方には鎧すらも切り裂かれた兵の残骸だけが残されていた。


「あいつに倣って俺も名を変えるか? さて、どうするか。……思いついたぞ!」


 彼は空中で止まり、その場で叫ぶ。


「うおおおおおおおおおお、注目しやがれ! 俺は斬り裂く者、全てを斬り刻む猛毒の刃だ! 故に、べノムサッパー、そう呼びやがれ!」


 彼その者が一つの武器となり、襲い来る敵全てを斬り裂く。


 三体目の獣は興奮していた。


「うがあああああああああああああああッ!」


 その腕で、建物の壁や屋根を無理やり引きちぎり、全力で投げ付けている。

 その腕で掴むありとあらゆる物が、今の彼の武器となった。

 それが襲い掛かる敵兵であってしても。


「俺はッ、元からこの体も。……心も、全て王国に捧げている。今は全力で叩き潰すのみ!」


 全てが破壊された。

 人も、建物も、踏みつける道すらも。

 何もかもを破壊しつくし、敵の大群を相手に大きく叫ぶ。


「俺こそがグラント、王国兵士長のグラントよ! だが魔物の力を持った俺に、その名は相応しくないだろう!」


 帝国兵が引きずり込まれる程に、彼は空気を吸い込んで行く。


「聞けえぃ、者共よおおおおおおおおおおお! 俺の名を聞き逃げ失せるがいい! 我が名はタイタン、全てを破壊し蹂躙せし者よ!」


 獣の咆哮が響き渡る。

 その声を聴いた者は、逃げる事すらもできはしなかった。



 四体目の魔物はモジモジしていた。

 水色に変わった髪と白い肌、金色の瞳の魔性の美を備えた者。

 彼女は生き残った事がとても嬉しかった。

 好きな人に逢えて楽しかった。


 自分の姿が変わった事など気にもせず、隣に居るもう一人に口付けをした。

 少しだけ満足して、もう一度した。

 それから余韻を楽しんだ後、戦いの事を思い出す。


「私は生き残れて満足なの。好きな人と一緒で幸せなの。だから、邪魔する帝国の人達は、もう帰ってもらうわ!」


 彼女が魔法を展開していく。

 王国の全てに風が流れ、一つの大きな渦が現れた。

 それは彼女が唯一の使える風の魔法である。


 膨大に膨れ上がったその魔力を操り、風と言うには激しすぎる暴力的な竜巻を生み出した。

 逃げ惑う敵の兵を飲み込み、天空へと弾き飛ばす。

 叫び落ちる人の雨は、ただ絶望を与えるのみであった。


「私の名乗りの時間かな? 私はミーシャよ。ただ恋をした女の子。好きな人と居られて幸せでした。……でもミーシャの体は砕けてしまったわ。右手も両足も無くなってしまったわ」


 それでもとても嬉しそうに、彼女は踊りながら喋り出した。


「体を無くして生まれ変わった私には、新な名前が必要よね。私は愛を捧ぐ者、永遠の愛を誓う者、だから私はイモータルと呼んでね。……さあ、永遠の恋の唄を奏でましょうか」


 彼女の瞳には、ただ一人の男しか見えないようだった。



 五体目の悪魔は動かなかった。

 動く必要が無かった。


 右腕をゆっくりと天に向けると、天空にあり得ない程の魔方陣が形成される。

 魔法は天を動かし、晴れ渡っていた空にも黒雲に覆われ、雷鳴が嘶く。

 風に飲まれなかった幸運の敵兵は、降り注ぐ雷光により、誰一人助かる事はなかった。

 その悪魔は王都の正門に飛び立つと、町の外に居た帝国の兵共に宣言する。


「皆の者聞くが良い! 我こそはフーラ、魔法王国レメンス王の息子だった者だ! 誓った言葉すら守れもせず、戦場に立ち尽くした愚か者よ!」


 大きな翼を一杯に広げ、帝国兵を威嚇する。


「愛しき者を護れもせず、ただ人に当たる事しかしなかった馬鹿者よ!」


 円陣の稲光が、光を増して嘶く。


「親父は……国王は、逝かれてしまった。……だが王国はまだ滅びてはいない。今この時より、俺はこの国の王として即位する! 人であった名を捨て、相応しき我が名はメギド。神を業火で焼き尽くす者だ! さあ宣言は終わった。命がいらぬ者はこの王都に入るがいい。この王自らが焼き殺してくれるぞ!」


 一人の帝国兵が、地面に震えながら、怯えながら、逃げ出して行く。


「あああああぁ……魔……王……魔王だああああああ、逃げろおおおおおおおお!」


 それを見た怯えた兵共は、蜘蛛の子を散らす様に逃げ始めた。

 一人として留まる者はおらず、帝国兵は撤退していく。


「生き残れたか……だがまだ終わってはいない」


 メギドは、城に残された国民に向かい、自分の思いをぶちまける。


「俺の体は魔物になってしまった。そんな者が王として相応しく無いと言う者もいるだろう。悪魔の体を見て恐怖する者もいるだろう。何も咎めはしない、我慢が出来ぬ者達は王国から出て行ってもらっても構わない。決断しろ、この国に留まるか否か!」


 この発言により、国に残る者や国を捨てる者、様々な思いが交差する。

 魔法を使う者達は、王国の秘宝であった魔法は、世界に広がって行く事になった。


 帝国の兵士が、誰一人見えなくなった頃。

 タイタンが王になったメギドに進言した。


「王よ、最後の一人がキメラ化に成功致しました!」


 メギドの眼前には、魔物の大群が犇めきあっている。

 角の生えた者、蛇の様な者、翼が生えた者、炎を纏った者、右腕が鎌になった者、様々な者達である。

 力は充分以上に溢れ、そして反撃の時間が始まった。


「これより帝国に進軍を開始する。向かい来る者には一切の容赦をするな! だが女、子供、民間人に手出しは許さん! いいか覚悟せよ、鋼鉄の心をもって力を制御しろ。俺達の体は変わってしまったが、心まで魔物になる必要はないのだ! 覚悟を決めたか皆の者。では最初の王命を下す!   


 ……さあ……全軍ッ……進めええええええええええええええええええええ!!」


「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」


「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」


 魔物達は圧倒的な力を持って、帝国に向けて進んで行く。

 その力の波は、もう誰も止める事は出来ないだろう。



 そしてこの三日後に、ただ蹂躙されて帝国の城は壊滅した。


フーラ、改名、メギド(王国、王子)      ミーシャ、改名、イモータル(王国、兵士)

グラント、改名、タイタン(王国、兵士長)   クラノス、改名、グラビトン(王国、新兵)

フランツ、改名、べノムサッパー(王国、兵士)

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