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17 中庭での息抜き

レイバースが連れて行かれ、私は部屋に戻った。そこには本物の友達が来ていて、シャーンは凄く嬉しそうに遊んでいる。私は眠くなって目を閉じようとするけど、レーレは私の頭を叩いて邪魔をして来る。私は寝そうになるもそれを見続け子供が帰る時間になる。その時間にお母さんに呼び出され、部屋に向かって行く。お母さんからは魔道研究所という所にシャーンを預けると聞かされ、私もそれに同行することになる。私は早速そこに連れ去られ、部屋に閉じ込められてしまった。でもそこまで不便はなく、美味しい料理とかを食べて楽しく暮らしていた……

「私シャーンと外で遊びたい!」


「ああ確かに、こんな部屋に居たら息が詰まっちゃいますもんね。施設の外に出るのは許可が出ないと思いますけど、中庭だったらいけるかもしれませんね。一度上司に相談してみます。ではお食事をどうぞ」


 私は食事を配膳してくれるアビゲイルさんに、外に行きたい事を伝えた。

 アビゲイルさんは四十歳ぐらいの女性で、お話とかも聞いてくれる優しい人だ。

 反応は随分良く、この感じなら出れるかもしれない。

 それはとても嬉しいけど、今私はもっと嬉しい事がある。

 扉の下から入れられた食事のプレートに、見た事があるデリシャスな物が乗っているのだ。

 今回は肉じゃなく、小さな骨まで取り除かれた、大きなお魚の白身である。

 その身は煮られ、味の良さそうなソースがかかり、結構なボリュウムがあった。

 これは食いでがありそうだ。


「お、お魚だああああああああああああああああああ!」


 私は両手で拳を握りしめ、背を丸めながら絶叫した。

 前に食べたお肉も美味しかったけど、魚の魅力には一歩及ばないのだ。

 私は食事のプレートを手に取り、目当ての魚に噛り付く。


「美味い!」


 ホロホロと崩れる身と、ソースの味、魚の臭みは最高に食欲をそそらせる。

 ガブガブと食い進めていくが、シャーンの食欲はないらしい。


「お姉ちゃんお魚好きなんだね。僕あんまり好きじゃないから、お姉ちゃん食べていいよ」


「うん食べ……シャーンも食べないと駄目だ! 私お野菜食べた。シャーンもお魚食べないと駄目だ!」


 いくらお魚が好きでも、私はシャーンの分を奪ったりはしない。

 もし残ったらその時に食べるとしよう。


「う~ん分かったよ、僕も食べる」


 シャーンもお魚を食べ進めている。

 苦手と言っているけど、そこまで不味そうにはしていない。

 もしかしたら私が好きだからと、自分の分をくれようとしたのだろうか?

 私はシャーンの頭を撫で、他の物も食べ進めていく。

 全てを平らげると、充分にお腹を満たした。


「美味かった。ご馳走様だ!」


「うん、ごちそうさまでした!」


 二人でのんびりと食休みをしていると、アビゲイルさんがプレートを下げに戻って来ていた。

 その食器プレートを持ち、アビゲイルさんがさっきの答えを聞いたらしい。


「ああ、さっきの話ですけどね、上司に聞いてみたら出ても良いって話でしたよ。時間はかぎられていますけど、今から出て見ますか?」


「シャーン、どうする? 今から外に行くか?」


「うん、行きたい!」


「分かった、じゃあ行こう!」


「はい、ご案内しますね。ついて来てください」


 アビゲイルさんに案内された中庭には、今人は誰も居なくなっている。

 たぶん休みの時間は終わってしまって、この施設で働いているんだろう。

 アビゲイルさんも元の仕事に戻って行き、私達はたった二人でこの中庭に取り残された。

 中庭はあの部屋とは比べ物にならないぐらいに随分と広く、周りはこの施設の建物で囲まれている場所である。

 私が壁から全力で走ったとしても、十秒ぐらいかかるぐらいは広い。

 芝生が敷き詰められて、石ころとかは見当たらない。

 シャーンが転んでも怪我もしないだろう。

 子供が遊べそうな遊具は置いてないけど、少し大きなボールが転がっている。

 向うの世界で言うサッカーボールぐらいの物だ。

 あとはここで働く人たちが使いそうなベンチぐらいしかない。

 一応日向もあるし、寝たら気持ちがいいかもしれない。


「お姉ちゃんボールで遊ぼう!」


「うん、遊ぶぞ!」


 ちょっと眠かったけど、私はシャーンと走る事を選んだ。

 シャーンから投げられるボールに私がじゃれ付き、弾いたボールを二人で追い掛けている。

 楽しい時間は長く続き、明らかに三時間ぐらいは越えた辺り。

 アビゲイルさんは少しだけと言っていたのに、誰も呼びに来ないのを不審に思い始めた。

 もしかしたら自分達で帰った方がいいのだろうか?


「シャーン、部屋に……」


 そう言葉に出そうとした時、この近くから何者かの気配が動いた。

 この気配はアビゲイルさんのものではなく、私の感じた事のないものだ。

 私達を呼びに来たのかと思ったけど、この感じは違う雰囲気を感じさせる。

 中庭の扉の前で立ち塞がり、こちらを見張っている感じがする。

 もしかしたらと、あの青い奴等なんじゃないかと、ちょっとだけ嫌な予感がしてきていた。

 私はボールで遊ぶのを諦め、シャーンの横へと配置につく。


「お姉ちゃん?」


「シャーン、動くな! なんか変な感じがする!」


「う、うん」


 私の気配探知の力では、扉の奥に居る奴を探知するぐらいで精一杯だ。

 あの壁や扉が私の聴覚を防いでいる感じがする。

 そのまま待ち続けていると、その扉が少しだけ開かれた。

 私は戦闘体勢を維持したまま、何が来ても良い様にとシャーンの前に立ち続ける。

 でも、何時まで経ってもその扉はそのままなのに、私の体に変調をきたした。

 頭の中をとろけさせるようなこの香りは、マタタビというものだろうか。

 凄く気持ちがいい。

 私はその場で寝ころんで、ゴロゴロと体を地面に擦り付けている。


「お、お姉ちゃん?」


「私なんか酔っぱらったぞ。逃げろシャーン」


「え~!」


 マタタビの匂いの為か、体に力が入らない。

 私はもう戦意を無くしたと同じだろう。

 相手は私の状態を見定め、小さく開いた扉を全開にしている。

 その扉の奥からは、青い髪の男が現れた。

 長く少しクルリとした髪は、肩のあたりまで伸びている。

 普通にしていれば精悍な顔立ちだけど、シャーンを見てにやけているのが気持ち悪い。


「クックック、貴様が猫であることはもう把握済みだ! 猫であるならば、マタタビにはめっぽう弱いだろうと思えば、やっぱりその通りだったなぁ! これで王子は俺達の物だあああああああああ!」


「お、お姉ちゃん……」


「ふにいいいいいいいいい……」


 だけど私は、全く動く事が出来ないでいる。

 ここに漂う匂いも強くなっているらしい。

 なんとか首を動かして周りを見ると、他の三つの扉も開き、そこからもマタタビの匂いが漂って来ていた。

 私達と言ったから、他にも仲間がいるのだろう。


「王子、これからは我々が、いえ、この青の電雷の一人、青の触欲のスメラがお守りしましょうぞ!」


「やだああああああああ!」


 シャーンが中庭を走り始めるけど、その男に追い詰められている。

 でも動けない私は、シャーンが攫われるのを見て居るしかなかった。


モモ     (天使に選ばれた猫)

シャーイーン (王国の王子)

スメラ    (シャーンを狙う奴)



次回→続き予定。

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