24 魔に輝く赤い大蛇
象の魔物を退治し、またレリーフに腕を突っ込む作業が始まる。張り切っていたメイも、今はエルに喋りかけるのに夢中らしく、また俺が腕を突っ込むことに。どうもメイの奴は、女に夢中になって駄目になるタイプかもしれない。レリーフからはそこそこの奴も出て気はしてるが、俺達の実力ならそれほどでもなく進んでいる。もう何回手を突っ込んだのかも分からないぐらいになった頃、向う側に行った連中がつけた印が見え始めた。頑張って手を突っ込んで進み、最後の一枚。蛇のレリーフに手を突っ込むと、階層中央に巨大な赤い蛇が出現したのである……
敵との距離はまだ遠いが、シャーと口を開ける大蛇からは、毒気の様な生臭い臭いが漂って来ている。
嗅ぐだけで頭痛と吐き気、意識までもが遠のきそうなほどで、時間をかければ本当にそうなってしまいそうな気がする。
「……うッ」
「くせぇ、こりゃあ毒か? あまり嗅がない方がいいかもな」
「このぐらいなら平気です! この僕の活躍を見せてあげます!」
エルと俺は顔をしかめているが、メイだけは平気らしい。
そういう力を持っているのか、それとも単に鈍いだけかは知らないが、効かないのなら頼もしい戦力ではある。
あいつの活躍を期待させてもらうとしよう。
「じゃあ早速退治させてもらうぜ! 行くぞテメェ等!」
「はい、戦闘開始です!」
「……ッ!」
まず動いたのは炎弾を操るエルだ。
遠距離から炎をぶつけて攻撃を続けている。
ただその鱗や鬣には炎は効かず、熱がっている雰囲気もない。
それだけならまだしも、炎を浴びた赤い鱗が妙に光って何かを予感させる。
無駄な予感だと思いたかったのだが、蛇の瞳が輝きを増し、大きな口から炎が溢れる。
グオオオオオオオオオオオオンンンンン!
「ぬおおおお!」
「おおおおおわッ!」
蛇から吐き出された炎は、さっき与えたエルのものより激しいものだった。
俺は退避し、メイもそれを余儀なくされている。
「……クッ!」
エルの力で炎を逸らし、その熱を防いでくれてはいる。
しかし今後もこうなるのなら、もう炎を使った攻撃はやめた方がいいのかもしれない。
その炎の熱が鎮まると、先ほどの鱗が輝きを失っていたのが見える。
「エル、炎はやめとけ! こいつ炎を跳ね返す力でも持ってるのかもしれないぞ!」
「……む!」
「だったら僕が! はああああああああ、ギガス・ライトニング!
炎が効かないとみてメイが渾身の雷の魔法を放った。
両腕から発せられた相当強力な一撃で、赤い蛇の全身を覆い尽くす。
だがバチバチと肉を縮めるかに思えたそれでさえ、蛇は平然と反撃を始めている。
それだけで終わればまだ良かったのだが、また鱗が輝き出し、蛇の口内から光が溢れた。
放たれる電撃はメイのものよりも更に巨大となって俺達に向かって来ている。
「このッ、またか!」
「……うあ」
「え、エーテリオス・シールドオオオオオオオオオオオ!」
ギリギリの所でメイの防御魔法が間に合ったが、電撃の余波だけでも相当なものだ。
俺は二人と相当はなれていたのだが、この体も痺れそうになる程だった。
「あ、危なかった……」
「……クッ!」
二人共無事らしい。
だが電撃まで扱うとなると、魔法系統は全部反射するのかもしれない。
だとすると、あとは武器での攻撃ぐらいしかないだろう。
「おいメイ、象の時に使ってたやつ、あれ使わねぇのか?!」
「弱体ですか……一発二発なら使えなくもないですけど、まさかそれも跳ね返ったりしませんよね?」
可能性はありそうだ。
もしそんなものが来たら、俺達の方が不利なるなんて馬鹿な事にもなり得ない。
止めといた方が無難だろうか?
「これは駄目そうだな、接近戦で挑むしかねぇな」
「はい、ですが無理に動けば、こちらがやられそうではありますよねぇ」
赤い蛇はこちらの動きを観察するように、チロチロと舌を出し、蛇の頭が左右に動き続けている。
その動きは相当素早く、誰を狙っているのかも分からない状態だ。
このまま仲間の到着を待つのも良いが、何もしなけりゃ笑われそうだ。
「おい、こっち来いや、この蛇野郎!」
俺は蛇の狙いを逸らす様に、仲間の二人と距離を開けた。
蛇の動きが大きく変わり、俺と二人を見比べている。
俺の挑発に乗るかとも思ったが、どうも上手くは行かないらしい。
放っておいても敵にはならぬと判断したか、奴はメイとエルを敵と定めた。
武器さえ持たず、今の小さい俺では、虫程度に思われても仕方がないか?
あの象の魔物もそうだったが、この俺の事を舐めすぎてる気がしてならねぇ。
少々頭に血が上りそうだが、この機会を利用させて貰うしかないだろう。
「俺の事は無視かよこの野郎! じゃあ遠慮なく行かせてもらうぜ! うおらあああああああああ!」
飛び出した俺は、テカり輝く鱗へ斬撃をくらわせる。
だがそれも虚しく、振り下ろした斬撃は、ガンと硬い鱗に弾かれて腕までもが弾き飛ばされてしまう。
「グヌッ!」
これじゃあ舐められても仕方がないが、それで終わらせてやるつもりはねぇ。
二人が引き付けている間に何か手を打たなければ。
「弱点といえば目ぐらいだが……」
相手の眼球でも狙ってみるかと考察するが、敵の動きはそれをさせる程には優しくはない。
無理に狙えば、むしろ俺の方が食われてしまいそうではある。
今俺がやれる事といえば、あの鬣ぐらいなら剃り落とせるだろう。
まあそれでどうなるとも思えないが。
俺が手をこまねいていると、やっとのことであの三人が到着したらしい。
「おお、こいつは随分と大物だのう! このワシのやる気が出て来るわい!」
「ふぁいやふぁいや!」
「あ、隊長だ。そこにいるとなんだかハエみたいですよね。いえ、そんなことより臭いですね。隊長、へでもこきましたか?」
「してねぇから! だが良い所に来やがったな、こいつを退治するのに手を貸してもらうぞ!」
「へ~い」
「やるぞ者共、かかれい!」
「ふぁいやああああああああああああああああ!」
「あっ、ちょっと待ておい! そいつ魔法系統を跳ね返すんだが……って遅かったな」
「ふぁい?」
俺の話を聞く前に、ランツの全力近くの炎がぶつけられてしまった。
それにより蛇の鱗が輝き、あの二人の居る位置から焦げ臭いにおいが漂っている。
「おわあああああ、ちょ、ちょっとべノムさん、僕達に恨みでもあるんですか?!」
「……ぶっころ!」
たぶん蛇が炎でも吐いたんだろう。
だが二人共無事らしく、声が聞こえていた。
「俺じゃねぇよ! 今あの三人が援軍が来たんだよ! まあちょっとタイミングが合わなかっただけだ、気にすんな!」
「いや気にしますよ、危ないじゃないですか! おわわわわ!」
「……こっち!」
俺に意識を向けたメイに、蛇が襲い掛かっていた。
だがどうやら、エルに引っ張られて助けられたらしい。
「あ、ありがとう御座いますエルさん」
「……ん!」
蛇は兎も角、メイはなんか今後も尻に敷かれそうな雰囲気だった。
べノムザッパー(無力となったマスコット)
ベリー・エル (無口な女)
バール (女好きの馬鹿)
黒井明(振られ男)
ダルタリオン (戦い好きな元上官)
ランツ (制御不能野郎)
次回→微妙に収まりが悪いので続き予定
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