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14 出発準備

輸送任務を終わらせた俺達は、城に向かい魔法を覚え、野でその威力を試そうと、魔物との戦闘を繰り広げていた。敵は五匹、少し多いが、各自がそれぞれに受け持ち、襲い来る魔物に向かい、魔の力を開放した。剣に炎が宿り、敵を斬り付けると、敵の魔物が炎に包まれ塵と化して行く。力を得たのは俺一人ではない。ラクシャーサもその恩恵を受け、魔物にその力を発動したのだ。滝のような水が落ち、地に落ちると一気に蒸発して相手の体をゆで上げる。そして残りの一体にもう一つの魔法を発動させるのだった。土と泥を使い、ゴーレムと呼ばれる人形を作ると、石の剣で魔物の体を叩き割るのだった。魔法の性能を試した俺達は、隊舎へと戻ると、そこには大隊長が悠然と椅子に座り、俺達に命令した。マリア―ドに行き、国宝の宝石を持ち帰れと……

 任務によりマリア―ドに出発しようとしているのだが、隊舎の前につけてある馬車の前には、大量の荷物が積み上げられている。

 これはマリア―ドに向かう為に各自が用意した物だが、どう考えても量が多い。

 買いだされた食料や水から、調理器具、武器、着替えと玩具や、ヌイグルミまでもあるな。

 これはセリィのものだろうか?


 それと、この樽の山は酒か?

 酒を飲むのはドル爺しかいないが、これはどう考えても多すぎる。

 マリア―ドに着くまで飲みきれる量じゃないぞ。

 馬車一つに、これ全部は積み込む事は出来ないだろう。

 隊長として少し控えるように言っておくべきだろうな。


「全員荷物が多すぎるぞ。これじゃあ馬車を三台借りても積み込めないだろう」


 そんな俺の隊長としての意見に、ラクシャーサは何故か反論して来る。


「ちょっと待ってよマルクス、一番必要ないのはこの武器の山なんじゃないのか? これ一体何本持って来てるのさ、軽く百本はあるだろこれ。こんなに絶対必要ないだろ!」


 その言い分も分らなくはないが、俺にとってこれは必要な物なのだ。

 必殺と言える力をもつ魔法だが、その威力に耐えられる武器は手持ちにない。

 何度魔物と戦うかも分からないし、予備は十分に持っておいた方がいいのだ。


「いや、これは絶対必要なんだ。魔法を使う度に武器が壊れるかもしれないからな。このぐらいあった方が安心して戦えるだろう。気分で武器を変えて楽しむことも出来るし、絶対あった方がいい。因みに本数は百五十二本だ」


「絶対要らない! もしそんなものを持って行くなら、もう一台自分で馬車を借りるんだな! ガルス、適当に十本ぐらい選んで、後は全部捨てといて!」


「分かったよラクシャーサ。じゃあこれとこれと……」


「おい待て! 投げ捨てるんじゃないガルス! それと勝手に選ぶな! 選ぶなら自分で選ぶから!」


「ハッハッハ、確かにそんなに予備の武器は要らんな。どっこいしょっと、ふう、わしの分の荷物はすでに積んだぞ。残りは勝手にやってくれ」


 俺達が言い合っている間に、ドル爺は自分の酒樽を馬車に積んでいる。

 そんな重い物を積んでは、馬の消費が激しくなる。

 止めなければ。


「おい待てドル爺、その酒樽の方が、あきらかに俺の武器より必要ないだろう。その酒樽全て置いて行ってもらおうか」


「まあ待てマルクスよ、もし水や食料がなくなっても、酒があれば喉をうるおせたり栄養を得られるんだ。寒い夜にも体を温められるし、良いことばかりではないか。それに味も美味いからな」


「百歩譲ってそんな時もあるとしよう、だが明らかに十樽も必要ない! 一樽だけ残して、あとはこの場で降ろしてお貰おうか!」


「チィッ、儂も大人だ、隊長命令とあらば聞いてやろう。だがまずあの女共の着替えも降ろしてもらうぞ!」


 馬車の中には、もう積みこまれている俺達の着替えと、それとは別に、大量にあるラクシャーサとセリィの着替えだ。

 マリア―ドに向かう道中朝昼晩と毎回着替えても、まだ余る位の量が積まれていた。

 確かにこれも必要量を越えている。


「ラクシャーサ、俺の剣も降ろしたんだ、お前達の衣服も降ろしてもらうぞ。降ろしたくないというのなら、俺が放り出すからな」


「それは自分でやる! だから勝手に触んないでよね!」


 残りはセリィの玩具だが、ほんの少量だから良いとしよう。

 残っているガルスは、普通の量を持って来て、別に降ろす必要はなかった。

 降ろした荷物は隊舎の前に置きっぱなしにはしておけない。

 他のものは如何でも良いが、雨でも降られたら俺の剣が錆びてしまうのだ。

 隊舎の中に避難させなければ。


「じゃあこの必要のない荷物の山は、隊舎にでも押し込んでおくとしようか。よし、全員でやるぞ!」


「えっ? それ俺もやるの? 普通に持って来ただけなのに?!」


「まあ聞けガルスよ、こういうものは連帯責任というだろうが。お前も隊の一員なら、仲間のやった事にきちんと責任をとらんか! なあ、皆もそう思うだろう?」


「うん、セリィ手伝う!」


「偉いぞセリィ。こんな純真な子も手伝ってくれているんだ。ガルスは私達が大変でも、見て見ぬふりをするのか?!」


「ああ全くその通りだ。ガルス、隊長として命令する。お前は荷物運びを手伝うんだ!」


「えええええ命令まで使うの?! うう、分かったよ、手伝えばいいんだろ、手伝えば……」


 隊舎に余った荷物を運び入れ終えた時には、もうすっかり夕方になっていた。

 こんなことで時間が遅れるとは、約束の日にちに間に合うのだろうか。

 この任務を失敗でもしたら本気で不味いぞ。


 だが夜の移動は危険だし、神都からの夜の出撃は禁止されている。

 結局この日は出発できず、俺達は明日の朝に出発する事になってしまう。

 そして次の朝、俺達は今度こそ神都から出発するのだった。


「はぁ、じゃあ忘れ物はないな? ないのなら出発するぞ」


「うむ、儂は問題ない」


「私もだ」


「セリィも!」


「俺も問題ないよ」


 全員準備はいいらしい。


「よし行くぞ神英隊、マリア―ドに出発だ!」


「「「応!」」」


「お~う!」


 神都から出発した俺達は、まずマリア―ドとの国境を目指し、その手前にある町に進んで行った。

 小さな魔物との戦闘もあったが、特に問題もなく町にまで馬車を進めた。


 その町の名は、ホーリーゲートと呼ばれる町。

 大昔に、天に続く異界へと続く道が出来たという。

 今はその天に続いたという道の残骸というか、階段が二十段だけが残されている。

 上がり切った先の道はなく、異世界に続く扉も存在はしていない。

 結局伝説は伝説でしかなく、魔物が出現した今では、それを観光する者もおらず、ただ放置されているだけだった。


マルクス・ライディーン    (ラグナード神英部隊、隊長)

ラクシャーサ・グリーズ    (ラグナード神英部隊、後方支援)

ガルス・フリュード      (ラグナード神英部隊、前方防御)

ドボルホーテ・アルティマイオス(ラグナード神英部隊、遊撃兵)

セリィ・ブルーマリン     (魔物と人の娘)




次回→続き予定


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