18 温度差って大変だ、健康の為には良くないよね
天使の兵士部隊に攻撃を仕掛けた僕は、王国軍に反撃のチャンスを与えた。もう一度と、盛大に剣を振ったアストライオスの剣に、べノム隊長が突っ込んできた。バーンと吹き飛ばされたべノム隊長だが、どうやら体は大丈夫らしい。デカブツは邪魔だと言われた僕は、フレーレさんを背負って地上に降りた。イモータル様による風の攻撃により、動けなくなっている敵機をぶった切り、敵の数は残り三機となる。僕は生き延びている隊長機を追い掛け、追って来た一機をフレーレさんが相手をした。僕が隊長機と斬り合おうとするのだが、バベル君が左手を発射して、敵機の頭へと直撃した。 パタリと倒れた敵機だったが、膝を突きながらも再び立ち上がった……
敵隊長機の、形が変わり始めた。
大きく開いていた翼が畳まれ、羽根の一つ一つから、輝ける金色の熱線が照射される。
「光玉の熱線に焼かれるが良い!」
「そう簡単にはやられないよ!」
十、二十、三十、四十、数が多すぎて、全てを避けるのは難しい。
両腕でガードして、避け続けるのだが、それでも熱戦はアストライオスに当てられ続けた。
アストライオスには、傷一つ付いてはいないのだが、中に居る俺達には、かなりの影響がある。
敵のこの攻撃は、アストライオスを攻撃する為の物ではない。
その内部に居る、僕達を狙ったものだ。
その熱戦により、アストライオスの内部にまでその熱が届き出している。
暑い、もうアストライオス内部の気温が、ドンドン上昇している。
もう五十度は超えただろうか?
まだ耐えられるレベルではあるけど、それも時間の問題だった。
これ以上の熱さとなれば、多量の汗を掻く僕達に、脱水等による症状が現れるだろう。
頭痛や吐き気は、戦闘に影響し始め、意識消失を招くかもしれない。
そうなれば、僕達が勝てる見込みは無くなってしまう。
「せ、先輩、このままじゃ不味いっす! 何とか反撃しないと、丸焼きになっちゃうっすよ!」
「そんなの分かっているけど、相手は近接戦闘を許してくれないんだよね!」
逃げ続け、攻撃を続ける相手に、僕はただ相手を追い、攻撃を受け続けている。
スピードも同等で、相手に追い付けず、攻撃すら出来ない。
「先輩、もう一回ボタンを押しちゃいましょうか? あれだったら相手に届くっすよ!」
「いや、あんなの何度も当たる訳が無いよ! そんなに速くもないし!」
「じゃあ空に逃げるっす! 相手はもう飛べませんから、追って来れないでしょう!」
「確かに、空に逃げるのは出来なくないけど、二度目に接近するのは容易くないよ? 出来れば今の内に!」
「でももう無理っす! このままじゃあ逃げられなくなるっすよ!」
後一分もこの状態を続けていれば、内部の温度は、七十度にまで達するかもしれない。
逃げるにしても、空に逃げる時間も、何分か掛かってしまう。
「クッ、そうだね、一度退避するしかないね。じゃあ逃げるから、もう一度ボタンを押して」
「わっかりました! いくっすよ!」
アストライオスを飛び上げらせ、敵機に四肢を向けると、バベル君が四つのボタンを、ポポポポンと軽やかに押した。
敵機に両手両足が、向かって行く。
バベル君は、熱戦が発射されている翼の部分を狙ったらしいけど、油断もしていない敵機に、そんな物が当たるはずがなかった。
相手は左腕のみを警戒し、それだけを躱すと、他の三つは手で振り払っている。
その間にも、僕達は上空の雲の中まで退避した。
四肢を壊されない様にと、直ぐにボタンを押して回収すると、機体が冷やされてから、再び僕は地上へと降りた。
ほんの少し胸のハッチを開けると、もう機体の内部も、少し涼しくなっている。
地上の隊長機はというと、町中に熱戦を振りまきながら、此方を見続けていた。
僕を発見した敵隊長機は、再びこの機体に熱戦を向けた。
「せ、先輩! また暑くなってきましたよ! で、でもそれより、お腹が痛くなってきました! 不味いです、出そうです! 何か出そうですよ!」
「ここで出すのは止めてよ! 絶ッッ対に止めてよ! そんな事になったら、この機体で戦えなくなっちゃうから!」
「で、でも先輩、この温度差じゃ腹も壊しますって。ヤバイっす、本当にヤバイっす!」
「クッ!」
とてつもなく不味い!
もしこんな所で発射されたら、百回ぐらい掃除してもらわないと乗りたくなくなってしまう。
どうしよう、ここで彼を一度下ろすか?
そんな事になれば、魔力の無い僕だけでは、アストライオスを動かせなくなってしまう。
敵機の彼女が、それを持って帰ってくれれば良いけど、たぶんそうはならない。
帰るなら、思う存分辺りを破壊してからだろう。
「じゃあ町まで送るから、それまでは絶対我慢しててよ! 絶ッッ対だからね!」
「おおおおぅ、分かってますよ先輩、俺っちだって、こんな中で、したくは、ないですからああああああああ!」
「本当に止めて! い、急がなきゃ、途轍もない事が起こってしまう!」
再び敵機から離れると、敵機の彼女が、僕達を嘲る様に盛大に笑っている。
「ハハハハハハ! また逃げ出すのか、愚か者めが、もう次は無いと思えよ! ハァハハハハハハハ!」
バベル君の状態も持ちこたえ、城前で彼を降ろすと、他に乗ってくれる人は居ないのかと辺りを探し始めた。
といってももう避難が完了している筈だから、人なんて居なかった。
僕は、城の中の誰かを呼ぼうとするのだが、城門は閉まって入る事が出来ない。
如何にもならず、無駄に長いバベル君の便意が収まるのを待っていると、僕の元に、知り合いである、あの四人がやって来ていた。
あの四人とは、アスメライ、エリメス、ルシアナリア、レーレさんの四人だ。
特訓から帰って来たのだろう。
丁度良い所にと思った僕は、水の魔法を使うアスメライさんの手を取り頼んだ。
「アスメライさん、僕と一緒に来てください! 貴女が必要なんです!」
「は、はい……」
何故か微妙に赤くなってる。
アスメライさんを連れて行こうとするのだが、他の三人がそれを阻止しだした。
「一体何故でございましょうか?! 私はこんなにもご主人様を愛しているというのに、何でそんな女を選ぶのでしょう? まさか、殺してでも奪い取ってくれと、そう仰るのでしょうか? 私はそれでも構いませんよ。むしろ大歓迎といっても良いでしょう!」
「ふ、ふ、ふふ、ふふふふふ……まさかアスメライちゃんに奪われるなんて、可愛さ余って憎さ百倍というものですか?! 良いでしょう、良いでしょう! 私がこの手でやってやります!」
「イバス様? これは一体何の冗談でしょうか? ええ、御冗談ですよね? そうじゃないと言うのなら、一切合切無かった物にしてあげましょう! お覚悟を!」
「ふ、愛を得た私に、負け犬三人程度どうって事ないわよ! さあ、行くわよイバス、私達の愛の力を見せてあげましょう!」
「いや違います。ていうか、今の状態分かっているでしょう! こんな事をしている場合じゃないんですって! ちょっと水の魔法を使って欲しいだけですから、良いからちょっと来てください! み、皆も一緒に来ても良いですから!」
僕が軽く説明すると、一気に三人の態度が翻った。
目をランランと輝かせ、やっぱりちょっとだけ怖かった。
「ええ、もちろんですわご主人様! この私の力を、どうぞ存分にお使いください!」
「イバスさん、もちろん私は信じておりました。では直ぐに出発しましょう!」
「イバス様、やはり私は貴方の力になりたいと思います! アストライオスに乗り込むと致しましょう!」
「ふっ、まあ良いわ、どうせ後で選ばれるのは私だし。さあ行きましょうイバス! 王国の敵を倒すわよ!」
「え? もしかしてまた四人で乗るんですか? 狭くないですか? ちょ、ちょっと待ってー?!」
僕は四人に引っ張られ、アストライオスの中に詰め込まれた。
イバス (王国、兵士) バベル(イバスの後輩)
ルシアナリア(元ランセフォーゼ)レーレ(猫化した女兵士)
エリメス (蜥蜴化した女兵士)アスメライ(エリメスの妹)
アストライオス(機械兵器)
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