13 占い師との再会
巨猿を倒した僕達は、任務の報告の為に、帰ろうとしていた。そんな時、バベル君の頼みで、アストライオスの中の空気を入れ替える事になった。僕がハッチを開けると、バベル君が結婚祝いと称して、フレーレさんを呼び寄せた。今更断る訳にもいかず、大人しくそれに従うと、僕はそれをチャンスと感じ、フレーレさんと話し合う。話し合いを続け、フレーレさんに、結婚の事を取りやめてもらった僕は、今日の朝の事もついでに聞くと、どうやら何も無かったらしい事を教えてもらえた。そっと手を握って来るフレーレさんと、少しだけ仲良くなった気がした僕は、王国へと帰って行く。僕は全員と別れ、先輩の元に報告に報告しに行った。そして僕は、先輩に報告し、バベル君の事も、変えてくれるように頼んだ……
アストライオスの性能を報告した僕は、フレーレさんとの待ち合わせの場所へ向かっていた。
その道中、朝出会ったあの占い師に、再び出会ってしまう。
「あの、ちょっと……」
「……ッ!」
あ、僕の顔を見ると、いきなり走って逃げだして行く。
やはり詐欺師か何かだったのだろう。
占い師のお婆さんを追い掛けるのだが、歳のわりに途轍もないスピードで、お婆さんが逃げ続けている。
まるで、何時でも逃げられる様に、鍛え続けている様だ。
「ちょっと、待ってください! 僕のお金を、返してください!」
「騙される方が悪いんじゃ、バ~カ、バ~カ! 追い付けるものなら追い着いてみるのじゃな! ひゃ~っひゃっひゃっ!」
僕も全力で走っているのだが、お婆さんに追い着く事が出来ない。
このまま追い続けていても、鍛えているお婆さんに何時追い付けるかも分からない。
むしろ振り切られる気がする。
フレーレさんとの待ち合わせにも、これでは遅れてしまいそうだ。
「今日はお前さんに付き合ってる暇はないんじゃ、諦めて帰るんじゃな、ヒャッハー!」
「クッ、仕方がない、今回は諦めるとしましょう。次回こそ、必ず捕まえますからね!」
僕はお婆さんとの追いかけっこを諦め、フレーレさんとの待ち合わせの場所へ急いだ。
待ち合わせの場所は、中央広場の噴水の前。
良く男女の待ち合わせの場所に使われている場所だ。
その噴水の前に、美しい女性が立って居る。
もちろんそれはフレーレさんで、さっき会った時とは違い、美しくコーディネートされている。
赤いドレスは胸を強調されて、長いスカートには動きやすい様に、長くスリットが入っていた。
左腕の甲殻の手が少し目立っているけど、それは仕方のない事だ。
「イバスく~ん、こっちよ~!」
「お待たせしましたフレーレさん。あの、す、素敵なドレスですね」
「ありがとう、二人に見繕って貰ったんだけどー、似合ってるのなら良かったわ。じゃあ早速行きましょうかー」
僕の腕を軽く握り、フレーレさんは、僕を引っ張って行く。
「え~っと、フレーレさん、一体何処へ行くんですか?」
「決めてないわー、だから、この辺りにある店とか、ちょっと見に行ってみましょうよ」
確かに、デートのプランなんて、朝起きてから考える時間もなかった。
フレーレさんとしても、それは同じだっただろう。
そんな楽しくなりそうなデートの矢先。
僕達を邪魔しようとする、黒い影があった。
その影は、僕達の後ろから追い越して、ズザザっと滑りながら目の前に現れる。
このお婆さんは、さっき追い掛けていた、お婆さんと同じ人物だった。
「おや、フルール、もしかして、その人とデートでもするのかぃ? このお祖母ちゃんに紹介してくれんかね?」
「あれー、レネンお祖母ちゃんじゃないの。ずいぶん久しぶりねー。えーっとね、この人はイバス君って言って、私の恋人なのよー」
「ほほう、なる程、この男が……ねぇ」
あっさり僕を恋人だと紹介するフレーレさん。
それを聴き、お婆さんは俺を見上げ、ニヤリと笑っていた。
とても嫌な笑い方だ、絶対何か企んでいる。
この人がフレーレさんの、実のお婆さんだとすると、少々面倒なことに、なってしまうだろう。
「あ、フレーレさん。俺、このお婆さんに、お金を……」
「きえええええええええええい!」
僕の発言を許さず、お婆さんは背中から取り出した杖を使い、殴りかかって来た。
「おわッ! 何するんですかいきなり! 怪我したらどうするんですか!」
「お前、ちょっとこっちに来い!」
グイっと引っ張られる僕は、お婆さんに連れられて、フレーレさんとの距離を開けられた。
ここなら話をしてもフレーレさんには聞こえないだろう。
「お前、もしワシの事を知って、フルールが悲しんだらどうするんじゃ! この場は何も言わない事をお勧めするぞぃ。分かったら大人しく、残りの金も寄越すんじゃな! もし断ったなら、ある事無い事フルールに言いふらしてやるぞ!」
このお婆さん、僕を脅す積もりかなのか?
フレーレさんと別れるのは別に構わないのだけど、このお婆さんの所為でフレーレさんを悲しませるのは、少し嫌だ。
「お婆さんこそ、フレーレさんを悲しませるのは止める事ですね。あんな詐欺みたいな真似事をして、手配書でも出たら、もう容赦出来ませんからね。僕だけじゃなく、大勢の人達に命を狙われる事になるんですよ? 少しは考えたらどうですか」
「お前は勘違いしておるぞ。ワシが騙したのは、お前が最初で最後じゃ。お前さんの顔を見ていたら、なんとな~くムカついてのぅ。ちょっと騙してやろうと思っただけじゃ! ワシが気に入らなくなるぐらいじゃから、女難の相というのも間違っていないじゃろうが!」
「あの薬と、百年前の話っていうのは?」
「ありゃワシ特性の滋養強壮薬じゃ。それにワシ、まだ七十五じゃもん、そんなん知っとる訳ないじゃろ! ヒャ~ッヒャッヒャ!」
クッ、このお婆さん、いきなり開き直ったじゃないか。
「じゃあ、お金を返してください。返してくれないと言うのなら、国に詐欺師として報告しても良いんですよ?」
「材料費でトントンと言うのは嘘じゃないわい。お前の払った分な、あれで丁度材料費が買えるぐらいじゃわい。まあ全部自分で摘んで来たものじゃがな。つまりお前さんは、あの薬を適性価格で買ったんじゃ、それで文句を言われる筋合いは無いわい!」
「うぬぬ、ああ言えばこう言う人だ。じゃあもうそれで良いですから、もう二度としないでくださいね。とっとと帰ってください!」
「何を言っとるか! 大事な孫の一大事なのじゃ、お前の様なヒョロっとしたモヤシが、ワシの孫と付き合おうとは片腹痛いわ! 覚悟するが良い、徹底的に邪魔をして、貴様達二人を別れさせてやるぞぃ!」
「へ~、そうなのですか? やれるものなら、やってみると良いです。出来るものならね!」
「ヒョッヒョッヒョッヒョッヒョッ!」
「ふっふっふっふっふっ!」
僕は別に、将来誰と恋仲になっても構わないと思って居るけど、それは今の状態が落ち着いてからにしたいと思っている。
もう少し、出来れば、平和になってからに。
そして、このデートの邪魔をされる事は、俺にとって別にマイナスではないのだ。
今日を乗り越える為にも、是非付き合ってもらうとしようか!
遠くで此方を見ているフレーレさんの元に戻り、お婆さんが、このデートに付いて来る事を宣言した。
「フルールよ、このワシもこの男に興味がある。ワシも連れてっておくれ。安心せい、邪魔などせぬよ、ヒョッヒョッヒョッ」
「お祖母ちゃんも、ついて来るのー? う~ん、私は構わないけどー、イバス君はそれで良いの?」
「ええ、僕も構いませんよ。じゃあ三人で色々周りましょうか」
「うむ、では出発じゃ!」
「そ、そうねー、じゃあ行きましょうか」
お婆さんが、フレーレさんの手を握り、そして、もう片方の手で、僕の手を掴んでいる。
若干フレーレさんの額から、青筋が出てる気がした。
イバス(王国、兵士)フルール・フレーレ(王国の兵士)
レネン(フルーレの祖母)
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