9 勇者
ラグナードに到着し勇者の探索を始める…………
私達は道を進みラグナードの首都へとやって来ていた。
やっと到着したと、カールソンさんが馬車から飛び降り背伸びをしている。
「ふいぃ、長かったけど、やっとラグナードの町にたどり着きましたよ」
確かに此処まで至る道のりは長かった。
でもここからが本番なのだ。
カールソンさんは仕事で情報を集めないとならないし、私達も勇者というのに興味がある。
魔王と言われるのは私達の王のメギド様だし、べノムにも調べる様に言われています。
つまりそれも任務の内なのです。
「じゃあ情報集めをしましょうかー」
「えっ、手伝って貰えるのですか? もしかして私の魅力にメロメロなのですか? でも駄目ですよ、私にはエルさんが居るんですから」
「この人ぶん殴っても良いのかしらー?」
フレーレさんの問いに、私は正直に頷いて殴ることを推奨した。
私も少しばかりイラっとしましたからね。
「じょ、冗談ですよぉ、フレーレ様そんなに怒らないでください」
「もういいから、その勇者って人の情報を集めましょうかー」
「はい、すみませんでしたフレーレ様!」
勇者の情報は簡単に集まった。
この国では相当有名な噂だった様で、実は勇者が現れた、ではなく、勇者が現れる、が正解の様で、この国の占い師が神託を授かったのだそうだ。
そしてこの占い師、結構な確率で予言が的中する事で有名らしい。
的中率は八割を超え、当たらない方が珍しいのだとか。
だからこそ、勇者の噂なんてものも町中に広まっているのでしょう。
「という事は、もうすぐこの国に勇者が来るって事ですよね? これから現れるとなると、本人を直撃取材できるかも知れませんね」
その勇者が魔王を倒すのなら、魔族と言われる私達は敵と認識されるのでしょうか?
敵対して戦うとなれば、ちょっと厄介かもしれませんね。
「でもどうやって見つけるのよ。何か情報はあったのー?」
「赤い髪が目印らしいですよ」
赤い髪、それだけでは手掛かりには薄い。
この場を見るだけでも、何人かそんな髪をしている者を見かける。
少し推理してみましょうか。
勇者と言われる者は赤い髪で、この国に現れるらしい。
現れるのなら旅をしているのでしょう。
旅をしているのならやはり武器を持っている可能性が高い。
武器を持っているのならば、傭兵や兵士、年齢としては老人ではないでしょう。
老人ならば白髪と言うはずだ。
このキメラが徘徊する時代なら、絶対小さな子供じゃない。
子供が旅をするのは滅多になく、奴隷商人に連れられるぐらいでしょうね。
この国は王国と違い奴隷を容認しています。
国の入国時の検査でもチェックされ、赤い髪の子供が居たのなら騒ぎになりますね。
むむむ、これだけではまだ全然絞れていない。
全然情報が足りないですね。
「他はないの? 男だとか女だとかー」
「性別は分かりません。ですが時間的にはもう現れても良い頃です。私達が入国した頃に日付が指定されていた様でしたし」
私達の近くに他に馬車は居なかった。
森ですれ違ったのは、ラグナードから出て来たものでしたし。
だとすると、マリア―ド側から入国したのでしょうか?
「ああそうだ。ここ北にあるメンドラの町には、勇者にしか抜けない剣があるんだそうですよ。近くの教会に置かれているみたいです」
そっちに行った可能性もあるかな?
一度行ってみてもいいかもしれませんね。
「その町……いきま……しょう」
「メンドラに行くのですか? 本当は一緒に着いて行きたい所ですけど、私はここで情報を集めていますね」
私達はカールソンさんと別れ、メンドラの町に走って行く。
二人で移動するなら馬車は要らない。
使わない方がずっと早いのです。
私が空を、フレーレさんは脚で走りメンドラに向かうのでした。
「んーついたわ! さてとエルちゃん、剣は教会に置いてあるって言ってたわよね?」
「……うん」
私は頷き、直ぐに教会を見つけた。
いえ、探すまでもなく、町の中で随分と目立っていました。
その相当大きな教会に歩き、剣の居場所を探しています。
「さあ剣は何処かしらね?」
祈りを捧げている人、司祭に話を聞いて貰っている人、色々います。
でもこの近くには目的の剣らしきものは見当たらない。
奥にしまっているのかな?
「あの、すみません。生まれて来る子供に祝福をお願いしたいのですが」
キョロキョロ探し回っていると、一人の女性が司祭の元へ歩いて行きますね。
その司祭に剣のありかを聞いてもいいかも知れません。
「なるほど、剣の試練に挑もうとするのですね。ではお布施をくだされば案内をいたしましょう」
情報を聴いた私達は、少しお布施を払い、剣の間と言われる場所に案内を受けた。
「じゃあ私は他の仕事がありますので、終わったら司祭の誰かを呼んでください」
抜けない自信があるのでしょう。
案内してくれた司祭が部屋を出て行ってしまいます。
私達は道を進み、台座にある剣を発見しました。
綺麗な剣です。
剣筋に赤い色が塗られ、手入れもちゃんとされていますね。
これが勇者の剣なんでしょうか?
「試しに抜いてみましょうかー? 私が勇者かもしれないし!」
フレーレさんが勇者ですか?
フレーレさんなら剣とかなくてもメギド様を倒せそうですよ?
接近出来ればですが。
「むー、抜けない。これ本物なのかしらー?」
フレーレさんの力で抜けないのなら、相当深く刺さっているのでしょうか?
私も試してみましょうか。
剣の柄を持ち上に引き上げると、ズズズっと音を立てて少し抜けてしまう。
「…………」
……これは駄目です。
これでは私が勇者にされてしまいます。
フレーレさんはまだ気づいていない、このままもう一度押し込みましょう。
「勇者は何処にいるのかしらねー、ここで待っていればやってくるのかしら?」
「さあ……?」
大丈夫です。
フレーレさんにはバレていません。
私が勇者とかありえませんし、そもそも王国に敵対する事は考えた事も無いですよ。
「あっ、抜けたわ! ほら」
一度抜いたからでしょうか?
それともただの偽物だったのか。
「試し切りしてみるわよー! んーと、この台座でいいわよね? ……えいッ!」
フレーレさん、剣の刃が斜めになってますよ?
そんなふうに斬ったら剣が……あっ!
ガンと台座にぶつけられた剣にヒビがはいってしまっている。
「エルちゃんどうしましょう。剣にヒビが入っちゃったわー」
もうこの剣はもう使えません。
炎の熱でくっつけて隠蔽しましょう!
私は剣を掴み、炎で錬鉄を行っている。
表面の模様を崩さないように、剣の内部にだけ熱を伝え、ピッタリと剣をくっつけた。
表面にある模様の凹凸も目立たない。
これで完璧でしょう。
「台座に刺して、これで大丈夫よね?」
軽くくっ付けただけなので、変な力が掛かったらすぐ折れたりしそうですよ。
早く逃げてしまいましょうフレーレさん。
教会内に戻ると、先ほどの女の人が祝福を受けていた。
この人も赤い髪だけど、流石に勇者じゃないですよね?
「では貴方の名前と、その生まれて来る子供の名前を教えて貰えますか」
「はい、私はリーン。この子はリーゼと名付けるつもりです」
リーンと名乗った女の人が跪き、司祭が祝福の言葉を述べていた。
「では貴方方二人に、天の祝福を……」
私達はその全てを見届け、この町を脱出した。
ラグナードの町でカールソンさんと合流するが、目ぼしい情報は何もなく、それから一週間が経った。
これ以上の滞在は無駄だと判断して、私達は国に戻る事にします。
「国に帰るんですか? じゃあ私も用意をしますね」
「え? 何言ってるんですかー、私達の依頼はこの町に届ける事までですよ?」
カールソンさんがこちらを見ている。
私は頷き、笑顔で手を振って別れを告げた。
「ちょ、待って! 置いて行かないでください!」
「お帰りになるなら、この町で護衛を雇ってくださいねー。じゃあ私達はー、新聞社の人には伝えておきますからー」
「ちょっとまって~~~~ッ!」
カールソンさんは本当に置いて行きました。
私達二人なら、フレーレさんを抱えて空から山を越える事も出来ます。
たぶん二日もかからないでしょう。
それじゃあフレーレさん、王国に帰りましょうね。
熱を操る私には、高い山の気温もへっちゃらなのです。
フレーレさんにもその恩恵を与え、王国には特に何事も無く帰る事ができました。
帝国の新聞社にも勇者の事を報告出来たので、これで依頼達成ですね。
私達はそのままべノムの自宅を訪ね、報告に向かいました。
「お疲れさん、どうだったよ? 勇者ってのは居たのか?」
「結局見つからなかったわー。一週間も滞在したのにね」
「……ねっ」
占い師は八割当たると言っていたが、その二割が今回のだったんですね。
「居ないのならそれで良い。現れたのなら、そいつが敵になるって事だからなぁ。所でテメェ等、家の社員が置き去りにされたと文句が来ていたが、一体どうなってるんだ?」
「送ったら依頼達成でしょー? 勇者の事も調べたし、貴方からも送って来いって言われただけだものー」
「護衛引き受けたなら、普通は帰りもやるもんだろうがッ! 今からラグナードに行って帝国まで送ってやれよ!」
「でももうラグナードから出発してるかもしれないわよ?」
「良いから行って確認して来いよ! 無事送り届けるまで帰ってくんな!」
むう、仕方が無い。
もう一度ラグナードまで戻るとしましょうか。
私達は急いでラグナードに戻ると、カールソンさんが路上で寝ていました。
所持金もなくなって、路上生活をしていたみたいです。
少し痩せていて、こう見ると結構カッコいいのかもしれません。
……私は無理ですけど。
ベリー・エル(王国、兵士) フルール・フレーレ(王国、兵士)
カールソン(帝国新聞、平社員) ベノムザッパー(王国、探索班)
リーン(元帝国の兵士)
次回→王道を行く者達予定






