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6 森の大蟲

ブリガンテから三人はハイヤハイヤの森へと進んだ…………

 三人はブリガンテを出発し、ハイヤハイヤの森へと向かう。

 この森の鳥の鳴き声が、ハイヤハイヤと聞こえたのが由来だそうだ。

 バール森林より深く、道から外れれば、脱出する事は不可能なほどに広い。

 辺りには獣の声や、鳥の鳴き声であふれかえっている。


「お二人共、この森を抜けるとラグナードの領内に入りますよ」


 ラグナードは今回の旅の目的地で、カールソンさんを置いてこれば旅は終われる。

 私達二人ならば飛んで飛んで帰るのも不可能ではない。


「ラグナードってどんな国なのー?」


「そうですねぇ、ラグナードは神の信仰と共に成長して来た国で、噂では天界との交流が有るとか無いとか。私としては、たぶんないとは思いますがね」


 天界が本当にあるのか知らないけど、本当に天使とか居るのでしょうか?

 王国に天使が来たという変な噂なら聞いたことがあるけど、たぶん嘘だろう。


「ふ~ん、そうなのね? それにしても大きな森よね。敵がいっぱいいそうだわ。ねっ、エルちゃん!」


 何で嬉しそうなんですかフレーレさん。

 そんなに魔物と戦いたいんですか?

 私はあんまり戦いたくないんですけど……。

 一応適当に返事をしておこう。


「そう……ですね」


「おや、あれは何でしょうか」


 前方から何か向かって来る。

 ラグナード方面からの馬車の様ですね。

 かなり急いでいる感じですが、何かあったのでしょうか?


「お前達、急いで戻れッ、魔物がこっちに向かっているぞ!」


 こちらに向かって来た馬車から、男の叫び声が聞こえた。

 敵が来る?

 私は馬車を飛び出し、空に上がる。

 走って来た馬車の方向を見ると、巨大な物が道なりにいくつも転がって来ていた。


 馬車よりも大きく、道を塞ぐぐらいには大きい。

 あの大きさでは相性が悪い。

 燃やしたところで勢いは止まらないし、格闘オンリーのフレーレさんでは、なお更でしょう。

 私はカールソンさんの元に急ぎ、元来た道を指さした。


「あっちに……!」


 あれはダメです、急ぎましょう。

 カールソンさんは、私の合図を理解し、馬車を急ぎ反転させた。


「何あれ、岩なのー?!」


 フレーレさんが外の様子を馬車の窓から覗いている。


「カールソンさん急いで! 追いつかれたら潰されちゃうわよッ!」


「分かってますよッ、でもこれで全速なんです!」


 森の入口が近いが、丸い魔物は馬車の後まで迫っている。

 どうにもならないと分かっているが、私は剣を構えて飛び立とうとした。


「エルちゃん、ちょっと退いて!」


 馬車の後ろで剣を構えていた私を退かして、フレーレさんが馬車の後ろの出っ張りに立ち、タイミングを見計らっている。

 潰されるギリギリ、フレーレさんの足の届く距離に岩が来ると、そのまま背中を馬車に預けて岩を蹴り上げながら押し込んだ。


 ほんの一瞬だけ岩の勢いが落ちた様な気がした。

 蹴り付けた勢いがフレーレさんの背中から馬車に伝わり、車体の重量から解放された馬がその勢いを増した。

 速度を上げる馬車は大岩を振り切り、馬車は森の入り口まで戻ってきている。


 無敵ですね流石ですねフレーレさん!


「出口よ、馬車を道から外してッ!」


「は、はい、分かりました!」


 馬車が街道から反れると、後ろから道沿いに大岩が走って行く。

 近くに先ほど警告をしてくれた馬車も居て、無事に助かっている様だ。


 この馬車が居なかったら、危ない所でした。

 有り難うございます、貴方のおかげで助かりましたよ。

 でもあんなのが何時も来るのなら、もうこの道は使えないですね。

 一応何か知ってるかもしれません。

 まずは助けてくれた人に話を聞こうと、私がフードを被り近づくいて行く。


「だい……じょ……ぶ?」


「え? ああ、大丈夫だ。あんた達も無事だった様だね」


「それは良いんですが、この道はあんなのが毎回通って行くんですか?」


 後から来たカールソンさんが事情を聞いている。


「いや、この道は何度か通った事があるが、初めての経験だよ」


 初めてなのですか?

 なら通り抜けて行ったから、もう戻って来ないのかな?


 私はそう思ったけど、どうもそうはならなかったらしい。

 少し待つと後から音がして、あの大岩が戻って来ている。

 気付かず進んでいたら潰されていたかもしれませんね。


 でもあれ最近出現したんでしょうか?

 あんなのが居たらとても邪魔ですよ。


「貴方達、どうやって此処までこれたのー? 良く途中で潰されなかったわね?」


 確かにそうですね、私も気になります。

 あの馬車はどうやって抜けられたのでしょうか?


「ああ、実はな……」


 話を聞くと、どうやら途中で避難できる場所がある様で、そこに避難してしまえば潰されずにすむらしい。

 でもあれも生物のはずです。

 永遠に動き続けている訳ではないでしょう。

 夜辺りに眠っているなら、その時間に抜けられれば良いのですが。


 その辺りの事もフレーレさんが聞くが、分からないと言われてしまいました。

 しかし夜走るとしても、夜は夜で危険なキメラ達が徘徊しているかもしれません。


「どうしようかエルちゃん」


「ん……」


 私達は相談して夜に馬車を走らせる事となり、あの岩よりは戦えるキメラを選びました。

 主にフレーレさんの意見で。


「それじゃあ行きましょうかー!」


 嬉しそうですねフレーレさん。

 でも私、夜は余り得意でないです。

 炎を出すと変な虫が寄って来たりするからです。


「じゃあエルちゃんお願いねー」


「……うん」


 どうせこうなるだろうと思ってた私は、空から炎の光で馬車を誘導して進んで行く。

 でもどうせこの光に釣られて、敵が現れるのは分かっていますよ。


 予想なんてするまでもなく、相手にならない普通よりも巨大な蟲が私の炎に突っ込んでくる。

 放って置いても炎にまかれて死にますが、自分の体に当たるので結構痛い。

 ハッキリ言ってちょっとイラッとします。


「エルさん、後ろからデカいのが来ましたよ。気を付けてください!」


 カールソンさんの指摘で後を見ると、今までより大きい蟲が此方に向かって来ていた。

 測らなくても分かる、あれは私より大きいサイズだ。

 大剣を使い、その蟲の頭から斬り付けてみるのだけど……。


「かたッ……」


 頭を殴られ、蟲が少しふら付くが、その甲殻に傷も付いていない。

 体制を立て直し、蟲は私の周りを飛び回ってタイミングを窺っている。

 大きさの割に、相当な速さがあるらしい。

 関節の付け根を狙いたいが、中々当てさせては貰えなかった。


 どうしよう?

 簡単に勝つ方法は有るが、積極的にやりたい方法じゃない。


 迷いながらも剣を振るが、やはり固い甲殻に弾かれた。

 やっぱり、やらないと駄目なんだろうか?


 何度か剣を叩きつけるが、蟲にダメージはない。

 このまま続けていても埒が明かない。

 やはりやるしかない様ですね。


 私は蟲と同じスピードで空中で飛ぶと、蟲が炎に向かって飛び込み襲い掛かる。

 蟲は脚で私の体に掴みかかり、炎の熱でそのまま燃え上がった。


 ジュウジュウと燃える蟲の臭いに、このおぞましい腹の付けねが凄く嫌だ。

 蟲と抱き合うなんて、トラウマになりそうです。

 でもそれもすぐに終わる。

 炎で、直ぐに蟲の薄翅が燃え、私は蟲と一緒に落下して行く。

 もう蟲は動かないが、このまま地面に激突したら私も死ぬかもしれない。

 こんな奴と一緒に死んでやる訳にはいかないのです。

 動かない蟲の脚の関節を斬り落とし、私はなんとか空中で脱出する事が出来た。


 今思い返してもゾワゾワしている。

 もう二度とやりたくないです。



「エルさん大丈夫ですか!」


「……だい……じょぶ……」


「その内私の子供を産むんですから、体は大事にしてくださいね!」


「…………」


 この男は頭がおかしいのかもしれない。

 その内ストーかーとかになりそうで嫌だ。

 機会があったら抹殺しようか?

 私の表情を察したのか、カールソンさんはちょっと怯えていた。


「い、嫌だなぁ。冗談、冗談ですよ、ほんとに!」


 本当に冗談だろうか、信用出来ない。

 この間も男と寝ていたし、性別は何でも良いのかもしれない。


「あそこに休憩出来そうな場所がありますよ。一度休憩しませんか?」


「駄目よー、今の内に森を抜けないとまたあの岩が来るわ!」


 フレーレさんの言う通りです。

 あの岩は私達では相性が悪くとても無理です。

 それに休憩している間にも、他のキメラが来るともしれません。


「いきま……しょう」


 行きたがらないカールソンさんを説得し、馬車を飛ばして先へと進む。

 道を進んで行くと、そこに何か巨大なものが幾つか横たわっている。

 よく見ると巨大な蟲の体で、良く眠っている様だ。


 この色は、あの大岩に似ていた。

 此奴が丸まっていたのだろうか?

 出来れば今の内に倒しておきたい。

 しかし見るからに堅そうで、私の剣が通じるとは思えない。


「エルちゃん、この虫の触覚と目を潰しておきましょう。それでなんとかなるかもしれないわ」


 フレーレさんの言う通りにしましょう。

 うまく行けば、朝になっても襲って来ないかもしれません。


 何時でも動ける様に、馬車を準備して、蟲達の目と触覚を潰していく。

 その攻撃で気がついた蟲は、辺り構わず暴れまわり、味方同士で同士討ちを始めた。


「今の内に逃げるわよ~」


 私はフレーレさんの意見に頷き、馬車の前を飛び進んだ。


「森の出口が見えて来たわ。もうちょっとよー!」


「やっと この森を抜けられる。もう二度と来たくはないですよ」


 残念ながら、帰る時にもう一度通らないといけないのですよ。


 そう思い後を見ると、暴れる蟲達が何時までも戦いを続けていた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 蟲達の襲撃を乗り越え、私達は森の出口に近づいていた。


「ほら見えてきましたよ。あれがラグナードの国境です!」


 長く伸びた巨大な壁、それが最初の印象だった。

 ここからはラグナードの領に入ります。

 私達のこの姿は目立つし、敵となりそうな国の中です。

 フード付きのローブの着用は必須になるでしょう。

 しかしこの国境を通るには、確実にフードを脱がされてしまう。

 そうなればきっとひと悶着起こるに違いない。

 そんな事になるよりはと、馬車はカールソンさんに任せて、フレーレさんを抱え、国境の先で待つ事にした。


ベリー・エル(王国、兵士)     フルール・フレーレ(王国、兵士)

カールソン(帝国新聞、平社員)


虫の裏側気持ち悪いです。

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