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17 真相を目指す一歩

出会いの橋へ来た俺達は、ノーツの行方を探す為に周りに居る人達に聞き込みをしていた。何人かの聞き込みを続けると、ノーツが女を助けて貧民街の方へと走ったと聞いた。その足取りを辿り裏どりを取ると、俺達は一度帰り、次の日に護衛を雇って貧民街へ向かう事になった……

 護衛の四人を連れて貧民街に来た俺達は、手掛かりを探そうと辺りを探索していた。

 貧民街の中は、独特な臭いが漂っている。

 もちろん決して良い匂いではない。

 何かが腐った様な、糞尿が混じり合った様な、兎に角酷い臭いだ。

 それも当然だった。

 家がない者も多く、草場や、道にまで糞を垂らす者も多い。

 正常な空間で暮らして来た、ダイヤさんにはキツイ場所だろう。


 そんなこの区画を、如何にか整理しようと言う声もあるが、帝国の現状では、手をつけるのは難しかった。

 復興したばかりの帝国には、それを行うだけの金がない。

 税収も少なく、町の警備や警察の運営で手一杯なのである。

 この区画を立て直す為には、何十年か掛けて、少しずつ改善して行くしかないのだろう。


 ここでの問題の一つは、闇の仕事に手を出す者が多い、と言う事だろう。

 年に数回の闇の仕事で、この区画では暮らして行けるのだ。

 だから此処で暮らす者達は、普通の仕事に戻る事が殆ど無かった。


 そして最大の問題は、この区画に住む者達の、やる気の問題だ。

 例え道が綺麗になった所で、住む人々が、やる気にならなければ、何の解決にもならない。


 そんな場所で、俺達は住人に話を聞いていた。

 一人聞き込みをする毎に、俺の財布の中身が、ガリガリと削られて行く。

 正直もう帰りたいほどだ。

 何人かの人物に話を聞いていると、俺達の元へ怪しい男がやって来た。


「なあお前達、何を探しているのか知らないが、俺の情報を買わないか? 無暗やたらに、そこら中に話を聞いていたら、直ぐにスッカラカンになっちまうぜ? どうだい、悪い話じゃないだろう?」


「自分から売り込みに来てるんです、安くしてくれるんでしょうね? 無駄な情報だったら、お金は払いませんよ」


ゃあ、この町の事は、全部知ってるんだ。まあ任せて置けよ、俺を信用しろって」


「どうしましょうか、ダイヤさん? 話を聞いてみましょうか?」


「もし何か知ってるんなら、私がお金を払うよ! カールソンさん、この人に聞いてみよう!」


「そのお金は、もしもの為に取っておいてください。後々必要になるかもしれないので。この場は私が払いますの」


 ダイヤさんが、お金を出してくれるのなら、俺としては物凄く助かる。

 具体的に言うと、一週間後の食事を心配しなくても良くなる。

 だからと言って、今更ダイヤさんに出させるのは恥ずかしいので、それを制止して、俺がリギルに金を払った。


 話を聞くと、この男はリギルと言う名で、この区画に入って来る者に、たまに情報を売ってるらしい。


 俺は、この男にノーツの情報を伝えると、このリギルという男は、俺達をある場所へと案内した。

 案内されたこの場所は、ゴミ捨て場の中らしい。

 動物の骨や、魚の骨が、大きな穴の中に捨てられている。


「うッ……」


「あッ……」


 その穴の中心で、裸で眠っている人物が居た。

 その胸には、フェリス君の母親の時の様に、胸に剣が突き立てられて殺されている。

 凶器である剣、殺され方も同じだ。

 たぶんこの男がノーツなのだろう。

 聞かされていた特徴とも、一致している気がする。


 残念ながら、今の彼の状態は、生前の彼の状態とは変わっていた。

 これでは本人かどうか、今は判断出来ない。

 分かるのは、背の高さぐらいしだろう。

 背の高さとしては、特徴と一致していて、アーツよりも少し背が低いぐらいだ。


「カールソンさん、あれがノーツって言うんじゃないよね? あれはもう、どう見ても……」


「…………」


「私が違うって確かめて来る!」


 ダイヤは、ゴミ溜めの穴へと飛び降り、死体の元へと走って行った。

 俺も覚悟を決めて、それに続く。

 護衛達は穴に入らず、その場で留まっている。

 この中には入る気がないらしい。

 この穴に近づく人物が居たら、護ってくれると信じておこう。


 俺がその死体の元へ到着すると、ゴミの中でダイヤは泣き崩れていた。

 この人物が彼女の知ってる、ノーツだと確認できたのだろう。

 俺は、その場で後を向き、彼女が泣き止むのを待つ。


 三十分程泣き続けた彼女は、泣くのを止めて、ノーツの姿をジッと見続けている。

 その姿を見て、俺は意を決して、彼女に声を掛けた。


「ダイヤさん、あまりこの場所に留まっていては体に毒ですよ。一度上へと、上がりませんか?」


「待って、もう少しだけ!」


 彼女の表情は、何かを見つけ出そうと必死で探している様だ。

 このままダイヤの気がすむまで、見守るとするか……。


 それから更に三十分が経ち、彼女は死体を見続け、ダイヤがバッと立ち上がった。


「この人はノーツじゃない ノーツは、前歯が欠けていたし。この人は、アーツの方だわ……」 

「えええええ?! じゃあ家に居たアーツさんは、もしかしてノーツさん?!」


 確かに兄弟ならば、顔立ちも似ているだろう。

 特徴が一緒でも可笑しくはない。

 でも、言われた特徴とは大分違う気がするのだが、これはどういう事だ?

 兄を探してくれと言ったアーツがノーツで、この場にある死体がアーツ?


 う~む、少し、落ち着いて考える必要があるな。

 護衛の人達も、そろそろ帰りたがっている。

 彼女にとっては、何方が死んでいたとしても悲しみは同じはずだ。

 強引にでも連れて帰るしかないだろう。


「帰りましょうダイヤさん、護衛の人達も待っています。あとで警察にも知らせますから、さあ、手を!」


「…………」


 俺は彼女の返事を聞かず、ダイヤさんの手を強引に引っ張り、ゴミの穴の中から脱出した。

 そのまま護衛の人達に頼み込み、兄弟の家にまで見に行ってみたのだが、その家の中には、もう誰も居なかった。


 俺はダイヤさんを自宅まで送り届けると、一度帰宅して考えをまとめてみる事にした。

 自室に戻った俺は、愛用のパイプに火を入れ、今回の事件の事を考え直す。


 さて、色々おかしな事があったが、まずは兄弟の家に居た、あの男の事だ。

 あの男はアーツか、それともノーツか。

 答えは両方違う、だろうか。


 あの男がノーツならば、ダイヤさんや、その男が言った特徴とも一致するのだろうが、背と体格が、明らかに違っていた。

 あの死体が、アーツであったなら、背の高さは、大体ノーツと同じ位だ。

 何方が入れ替わったとしても、あそこまで変わる事はないだろう。

 つまり、あの兄弟ではあり得ない。


 そして、気になる事が、もう一つある。

 あの死体の殺され方の事だ。

 あれはフェリス君の母親が、殺された時と同じものだ。

 もしかしたら、犯人が同じと考えても良いかもしれない。

 犯人はフェリス君の父親により、捕らえられたと聞いていたが、逃げ延びた者が居たのだろうか?

 それであの兄弟と入れ替わったと見るべきかだろう。


 しかし、何処で入れ替わったのだろうか?

 教会に行ったのは、たぶんノーツだ。

 ダイヤさんが、ノーツにはあんな感じのものを書く癖があったと言っていた。

 ブリザード・フレイムだったか?

 弟には、そんな癖はないと思う。

 まあ明日にでも、ダイヤさんに確認を取るべきだろう。


 そうなると、橋で女を助けたのも兄の方だ。

 ん? 待て。

 逃げたのは二人とは限らないぞ。

 俺が出店で聞いたのは、男達に追われていた人物を見なかったか? だ。

 逃げていた人数までは、聞いていない。

 弟と合流したとも考えられる。

 逃げる途中で、偶然弟と会った。

 または、橋で弟と合流して、一緒に声を掛けていた。とか。


 何にしろ、これからノーツの行方を探す為には、あの男を追って行くしかないだろう。


「ふう……」


 俺は煙を吐き出し、明日の為に、眠る事にした。


カールソン(新聞記者)  ダイヤ(小物屋の看板娘)



次回→赤子予定


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