6 騙す事で救われるのなら、俺はそれを躊躇わない
俺はフェリス君を説得して、新聞社に戻った。俺はフラウ先輩に事情を説明すると、先輩は王国から助っ人を呼び出した……
新聞社に黒い男べノムがやって来て、もう一人の女とフラウ先輩が、一触即発の雰囲気を漂わせていた。
「貴女、昔の女が軽々しく私の旦那を呼び出さないで!」
「へぇ、軽々しく呼び出されちゃうんだから、もしかしたらまだ関係が続いてるのかもしれないわよ? ねぇべノム」
「俺に同意を求めんな! お前と続いてたら、ロッテを連れて来るわけないだろ。ロッテもいちいち反応すんな、今はただの友人だ、本当にそれだけだって!」
なにか大変そうだ。
この男の元の姿は、人とは違うというのに、何故こんなにモテているのか意味が分からない。
ここに良い男が居るというのに、この世の中は間違ってると思う。
しかし、何時までもこんな話に付き合ってる訳にはいかない。
フェリス君の為にも、話を切り出さなけらば。
「皆さん落ち着いてください! 今はそんなくだらない事を言い合ってる場合じゃないでしょう! 事は帝国の運命を、いえ、それだけじゃありません、王国の未来をも左右する話なんですよ?! 男のことは他の時間に話会ってください!」
「煩い、ちょっと黙りなさいカールソン、今は女同士の決着をつける時なのよ! 多少姿が変わったからって、私が身を引くとでも思ったの?! この女を叩き伏せて、奪い返してやるわ!」
「やれるものならやってみなさい! このロッテちゃんが、返り討ちにしてあげるから!」
「フェリス君が危ないんだから、落ち着いてくださいって。彼女の命も危ういんですから!」
「「煩い!」」
「ええええええええええ……」
「ああなったら止まらないからな、まあ放っておくしかないだろうぜ。俺が話を聞いてやるから、ちっと場所を変えようぜ。この場所に居たら巻き込まれるしな」
二人の女が取っ組み合いの喧嘩をしだす中、俺達は別の部屋へと移動して、この人に事情を話した。
「つまりあれか? フェリスって奴の親父が、王国を潰す仲間を集め出したってことか? 本当に喧嘩なんてしてる場合じゃねぇじゃねぇか。あの二人を止めときゃ良かった」
「ええ、そうなんですよ。もしそんな集団が増えて行ったら、本当に何かをし兼ねないんです。フェリス君を助けるのに、力を貸してくれませんか?」
「その娘を救うのは良いんだが、簡単に屋敷を潰すのは止めた方がいいぜ。縛られた娘が、屋敷を破壊したら、それはそれでおかしいだろうが。逃げ隠れたと思われても不思議じゃないぜ」
「で、ではどうすれば!」
「そうだなぁ……。その屋敷を破壊する理由があれば良いんじゃねぇのか? 例えば、帝国の国に魔物が侵入して、その屋敷に逃げ込んだとか」
「国の中に魔物なんて入れたら、この町は大変な事になりますよ?! それに、魔物がそんなに上手く動いてはくれないでしょう。屋敷に逃げてくれるとは限らないし」
「そりゃあ大丈夫だ、俺が姿を変えれば何とかなると思うぜ。それなら町の被害もねぇだろ?」
「なるほど、ではそうしましょう。しかし本当に平気ですか? 結構危ないと思いますよ。かなりの数の攻撃が飛んで来ると思いますし」
「平気だぜ、まあ俺にドンと任せときなよ」
計画は綿密に組み立てられ、俺はあの屋敷から、フェリス君を避難させた。
そして次の夜明け。
主演べノムにより、この作戦が実行されたのだった。
帝国の正門付近。
俺は人気のない道を歩いている。
朝も早い、まだ誰も起きては居ないだろう。
門を護っている兵隊以外は。
そんな朝っぱらに、姿を変化させたべノムさんが、私の横を通り過ぎて行く。
俺はスーッと息を吸い込み、全力で力いっぱい叫んだ。
「魔物だあああああああああ、魔物が出たあああああああ! 魔物が出たぞおおおおおおお! 真っ直ぐ東へ進んでいるぞおおおおおおおおお!」
静かな朝に、俺の声だけが町中に響き渡った。
俺は正門を護っている兵隊の動きを見つめる。
望遠鏡を覗き込み、べノムが変化した魔物を探しているらしい。
一分後、敵の襲撃を知らせる警鐘は鳴らされなかった。
今鳴らしたら、逆に混乱すると思ったからだろうか?
代わりに門方向から、武装した大勢の兵士達が、べノムさんを追い掛けて行く。
俺の仕事は、もう殆ど終わった様なものだ。
後は彼に任せるとしよう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
作戦により、俺は帝国の中を疾走している。
「ぬおおおおおおおおおおおお!」
思ったよりも帝国の警備が厳しい。
通路上には通行人も見当たらないから、やりたい放題だ。
大量の矢や、火や石などの、魔法の攻撃も飛んできている。
やはり帝国にも、魔法を使える者が流れて行ったらしい。
見つかる為に走っているから、あまり速度は出せない。
これは結構キツイぞぜ。
簡単に安請け合いするんじゃなかった。
流石に地の利のある警備兵達は、俺が向かう進路に予想を立て、前方の進路をふさがれてしまった。
「絶対に通すな、上から捕獲ネットを投げろ! 急げ、急げ!」
俺が魔物だと思っているから、目の前でも作戦を言ってやがる。
完全に戦略が丸わかりだ。
普通魔物が言葉を理解するとは思わないわな。
俺は投げられたネットを切り裂くと、作られた人の壁を飛び越えて、目的だった屋敷へと向かって行った。
屋敷に到着した俺は、入り口の扉をぶちやぶると、警備兵が到着するのを待つ。
兵隊の姿が見えると、目的の二階への扉に飛び込んだ。
今この屋敷にはフェリスは居ない。
警備兵が来る前に、俺は魔物の姿に変わり、裸で縛られたフェリスの体までを変化対象にした。
これで魔物の口に咥えられている様に見えるはずだ。
俺はそのまま警備兵を振り払い、帝国の国から脱出を果たす。
あれだけの人数に見られれば、その内噂は広まるだろう。
ボロボロの屋敷で、女が魔物に攫われたってな。
一階にあるというフェリスの母親も、あの兵達にきっと調べられる。
後は、フェリスの居場所をどうするかってことだけだな。
カールソン (新聞記者) フェリス (記者の後輩)
フラウ (新聞社の先輩)べノムザッパー(王国から呼び出された男)
アスタロッテ(べノムの妻)
次回→ 続き予定。






