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2 巨石の墓場

勇者が現れたとの予言の調査にラグナードに向かう三人…………

 帝国から巨石の墓場と呼ばれる場所へと向かう三人。

 巨大なる主が居なくなった為、巨石の墓場は大変な危険地帯と化している。

 大小様々なキメラ達がひしめき合い、一センチの隙間ですら凶暴なキメラが飛び出す。

 護衛をするには少々骨が折れる事になっている。


「あの~、エルさん? 空が綺麗ですね、ほら太陽が輝いていますよ」


「そう……ですね……」


 そんな道中で、軽くカールソンさんが話しかけて来ている。

 私は周りを見ながら適当に返事をし、正直気が抜けるので話しかけないで欲しかった。


「あ、そうだエルさん、この指輪を見てくださいよ。綺麗な宝石が付いていて、貴方の指にピッタリですよ。差し上げますから、つけて見て貰えませんか?」


 要らないし、そんな暇はない。

 もうこの辺りには、もう何匹かの魔物の気配がしてきている。

 感覚だけだけど、此方を見られている気配がしていた。

 きっと襲い掛かる隙をうかがっているのだろう。


「ごめん……なさい……いら……ない」


「カールソンさん、エルちゃんには好きな人がいるんですよー、誘っても無駄ですって」


「えぇぇぇ、そうなんですかぁ」


「えっ……ちがっ……」


 フレーレさん、余計な事を言わないでください。

 変な誤解をされても困りますから。


「でもタイタンさん好きなんでしょ」


 嫌いではないです、まあ好きですけど……

 ハッキリ私が頷くと、カールソンさんがショックを受けた様だ。

 そんな私の耳元に、フレーレが囁いた。


「ちゃんと言っておかないとー、後々面倒になるんですよ」


 そう言う物なのだろうか?

 あまり経験のない私には分からない。

 でもこのカールソンという男が、その程度の事で諦めるのだろうか? 


「あ、何か落ちてますよほら」


 道には紙袋が落ちていた。

 前に通ったブリガンテからの、積み荷が落ちたのだろうか。

 それを見つけたカールソンさんが、馬車を止めておもむろに袋に向かって行く。


「ちょ……まって……」


 この場所にただ袋が落ちている。

 ただそれだけの話だけど、小さな魔物が隠れるとしても絶好の物なのだ。

 私達がこの場所を通るこの時間に、この場所にそれがあるのだけでも充分怪しい。


「待ってカールソンさん! 軽く触ったら駄目よー!」


 フレーレさんも馬車から飛び出し、カールソンさんのいる所に向かっている。

 もし罠だとしたら、あれを拾った者が狙われる。

 カールソンさんが袋を握った瞬間、左右から二匹のキメラが飛び出し、カールソンさんを狙って襲いかかった。

 キメラは中に隠れてはいないらしいが、あの袋自体を罠にしたのだろう。

 出て来たのは狼だろうか、しかし狼と言うには毒々しい瞳をしている。

 跳び出したフレーレさんが右の一匹を蹴り飛ばすが、しかし左のもう一匹が残されていた。

 これでは走っても間に合わない。


「……これで!」


 剣を投げて相手の頭を狙ったが、それは口の先に反れていく。

 しかしそれで狼が怯み動きを止めると、もう一度カールソンさんを狙って動き出した。


「さあ来なさい!」


 フレーレさんがカールソンさんの前に立ちはだかると、狼が後に飛び、威嚇の声を上げる。

 ウォォォォンと吠えると、そこら中から足音が聞こえ、この場に無数の狼が現れた。

 かなりの数で、まず護衛対象を護らないとならないだろう。


「…………!」


 私は腰を抜かしたカールソンさんの元に駆け寄り、狼達に牽制の炎を放った。

 適当に放ったそれは狼の中の一匹にぶつかり、そのまま燃えて動かなくなる。

 この程度の炎で倒せるのなら、一匹一匹はそれほど強くはないらしい。

 しかし数が多く、自分一人だけなら何とでもなるけど、横には護衛対象が座り込んでいるのだ。

 出来れば馬車にでも避難して欲しいところだが、動かすのは難しい。

 フレーレさんが放り投げてくれれば簡単だけど、敵の攻撃は暇を与えてはくれない。

 一匹斬り倒すと、その隙を狙い三匹、四匹目が襲いかかって来る。

 これは相当に厄介だ。

 私は炎を出して牽制しているが、多くの狼は私の体を刻んでいる。

 このまま護りながらの戦いは続けられそうもない。


「私……が……残る……」


 私ではカールソンさんを即座に馬車まで運べない。

 フレーレさんが私の言った事を理解して、カールソンさんを抱えて馬車に走った。

 馬車に到着すると、カールソンさんを中に押し込み、足となる馬を護ってくれた。


「こっちは大丈夫だからやっちゃってッ!」


 大量の狼が、上下左右あらゆる方向から、私を殺そうと取り囲む。

 女一人で勝てると思ったのだろうか?

 でも私はそんな事にはならない。

 邪魔な荷物カールソンが居なくなり、私に制限はなくなった。

 炎の剣を地面に突き立て、ただ動かずにジッと待つ。

 さあ何時でも私に掛かってくればいい。

 その瞬間がお前達が地獄に落ちる時だ。


「ギャウアア!」


 一匹の狼が我慢出来ずに飛び掛かった。

 それにつられて二匹、三匹と私に襲い掛かって来る。

 それを見ると私は、慌てず炎の翼を出現させ、体全体を包み込んだ。

 翼に熱が凝縮し、狼がそれに触れると、大爆発が巻き起こる。

 その爆発に巻き込まれた狼達は、無残な最期を迎えたのだ。


 まだ残っている狼も敵わないと悟ると、目を逸らさずに後ずさりして消えて行く。

 本当は追って全滅させた方が良いんだけど、依頼者を置いて行く事ができずに諦めるしかなかった。


「ああ、エルさん大丈夫ですか?! 怪我はないですか?!」


 見れば分かると思うんですが、ほら血も出てるじゃないですか。

 体中傷だらけですよ。


「だい……じょぶ……です」


「やはり貴方は私の天使だ、是非お付き合いをしてもらえませんか!」


「あの……おじさん……は……ちょっと……」


 私の趣味ではないのです。


「私はおじさんじゃないですよ! 貴方とお似合いの二十歳ですから!」


 カールソンさんが二十歳?

 正直どう見てもそうは見えない。

 そして歳が近いからといって、私はこの人と付き合おうとは思わない。


「ご……ごめん……なさい……無理です」


「カールソンさん、振られちゃいましたねぇ。私ならフリーですよ」


 フレーレさんはあんな事を言っているが、このカールソンさんには絶対興味などない。

 あの人は自分より強い人しか認めないから。

 戦争中に出会った敵の兵士の事を。今でも時々話しているし。


「え? す、すいませんフレーレ様、私には貴方様のお相手等とても務まりません。どうぞ許してください。ごめんなさい、お願いします」


 カールソンさんが、地に頭をつけて謝っている。

 フレーレさんの戦いを見て、彼女が怖くなったのだろうか?

 様付けまでしている。


 フレーレさんの戦いでは、一撃で相手の頭を吹っ飛ばし、腕をへし折り、鎧を紙屑のように拳で貫通するその姿、まかり間違って付き合ったのなら、一度怒らせただけでも命が危ない。

 浮気等しようものなら、きっと相手ごと地獄に送られてしまうんだろう。


「あららー、私も振られちゃったわー」


 悔しさなんて微塵も無い口調でそう返事をしている。

 やっぱり、揶揄ってただけですよね。

 私達が話している時にも、遠くから何か分からない遠吠えが聞こえる。

 たぶん先ほどの狼じゃないと思う。

 それ以外にも、他にもいくつか鳴き声が聞こえてくる。

 もう此処に留まるのは危険だ、先に進みましょう。


「行こう……」


 私が道の先を指差して合図を送る。

 二人は同意し、馬車に乗り込んだ。

 私も馬車に乗り込もうとして、自分の体がおかしくなっていくのを感じてしまう。

 何故か体が動かない。

 力が入らなくなって、私の意識が遠のいてゆく……。


「エ、エルちゃんッ! 大丈夫……」


「エルさんッ! ……」


 二人の声が、段々聞こえなく……。

 そのまま私は倒れたらしい。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 ブリガンテ国境の砦の中、この砦には何人かの王国の兵士も在中している。

 フレーレは倒れたエルちゃんを運び入れ、その兵士にエルちゃんの治療をさせていた。


「ねぇどうなのー?」


「これは毒の狼にやられた様ですね。大丈夫です、解毒剤はありますので」


 この砦の者も,何度も狼達にはやられていたらしい。

 毒消しの調合を急がせ、それが何とか完成した様だ。

 エルちゃんをこのまま放って置けば、死んでたと言っている。

 普通では無いとは思っていたけど、毒を持ってるなんて油断していた。

 毒の影響で、まだエルちゃんは眠ってる。

 ニ、三日もあれば回復すると言われ、フレーレは、カールソンさんに相談する事にした。

 カールソンさんが急がせるなら、私一人で護衛する事になるのだが……


「大丈夫です、エルさんの回復を待ちましょう、勇者が居るなら三日程度で居なくなったりしませんよ」


 良く分からないけど待ってもらえるのなら、このまま砦で休息を取ることにした。

 エルちゃんがちゃんと回復出来てから、この旅を続けようと思う。

 しかし三日間暇になってしまった。

 どうしよう、王国の兵士にでも戦いの相手をして貰おうかしら。


「え? 訓練? ご、ごめんなさい、俺では相手にならないですよ」


 近くに居た兵士に話しかけるが、訓練を断られてしまった。

 他の皆を見るが、目を逸らされてしまう。


 何故私と訓練したくないのかしら?

 皆は私の事を誤解している。

 何度かやり過ぎた事はあったけど、まだ誰も死んでないというのに。

 仕方ないからキメラでも探したいけど、毒の狼はなるべくやめておこう。

 私まで倒れたら間抜けになってしまう。


「じゃあちょっと、キメラ退治と行きましょうかー!」


ベリー・エル(王国、兵士)   フルール・フレーレ(王国、兵士)

カールソン(帝国新聞、平社員)


見た目の印象に惑わされる、犬類が毒など持ってないという思い込み。


次回→王道を行く者9予定

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