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25 ブリガンテの条件 戦争の終わり (第一部終了)

ブリガンテに到着し王に面会する。しかし協定の条件としてキメラ討伐を依頼された……

 べノムはロッテとレアスより先行して砦に戻り、置いて来たフォロックを訪ねた。

 その男は倉庫に縄で縛られたまま、そのまま放置されている。


「み、水……」


 どうやら水さえ貰えなかった様だ。

 随分と酷い事をするもんだと思い、自分が縛ったのだと思い出す。

 死なれたら困ると、腰に下げた水筒を取り出した。


「おい、生きてるか? お前には聞きたい事があるんだが」


 フォロックの縄を解いて水を与えると、余程喉が渇いていたのか浴びる様に水を飲み干している。

 水筒に大量に入っていた水が、全部なくなってしまった。


「ひ、酷いですよ。危うく死ぬところだったじゃないですか」


「悪いな、お前を城に連れて行く訳には行かなかったんだ。まあ許してくれよ。それでなぁ、お前にちょっと話があるんだが」


 ベノムが怯えていたフォロックに尋ねたが、キメラの居場所は点々としていて分からないと言っている。

 フォロックにそのキメラの特徴は聞いて、仕方なく空からそのキメラを探すことになる。


 特徴としては人型、ただその大きさは人間ではありえないぐらいに大きく、二十メートルを超える大きさがあるという。

 背中には無数の刺が生えて、口から上にはマスクの様な物を被っているらしい。

 二つの国をまたいでとなると探索範囲が広すぎて中々見つからない。

 ベノムはブリガンテに居るであろうロッテ達の元に戻る事にした。


「遅いですわ馬鹿鴉がらす。この状態が見えなくて?」


 どうやら探す必要がないらしい。

 ブリガンテに戻ると、そこが魔物との戦場になっていた。

 目標のキメラが、ブリガンテの町に入ろうと暴れている。

 その魔物を相手に、ブリガンテの兵と、ロッテ達が戦っていた。


「何でこんな事になってるんだよッ!」


「知らないわよ~、気が向いたから来たんじゃないの?」


 分からないのなら理由はどうでも良かった。

 あの魔物を、このままにはしては置けない事だけは確かだろう。


「おいレアス、魔法でやっちまえよ」


「言われずとも何度か試しました。ですが駄目ですわ。使っても何故か弾かれてしまいますの」


 魔法が弾かれるとなると、レアスは兎も角ロッテは戦力外だった。


「ロッテ、お前は後方で兵士達を回復してやれ。前線はお前には無理だ」


「ん、分かった、気を付けてねべノム」


 ロッテに真剣に返事をされると、べノムは調子が狂ってしまう。

 だがこの状態なら仕方ない。

 ブリガンテの兵達も、剣や矢を使い戦っているが、その魔物には中々効果が見れない。


「行くしかねぇッ、行くぞコラァッ!」


 べノムが走り飛び出した。

 巨大な相手の額に向かって外套がいとうで斬り付けたのだが、その斬撃が弾かれる。

 硬いのではなく、何か壁の様な物が攻撃を防いでいるらしい。


「防御結界かよ!」


 結界と言っても、これほど何度攻撃されても防げるものではないはずである。

 だが五回、十回と斬り付けるが、その結界は消える気配がない。

 そもそもブリガンテの兵士から、何百という攻撃を食らっているのだ。

 これで消えないのであれば、もう無敵と言っていいだろう。


「なら他の場所を……おわっ」


 人型からの攻撃が来る。

 巨大な拳が迫るが、幸いそれほど速くなく、攻撃を躱す事は出来た。

 しかし、その拳が通り過ぎた後に、爆風が巻き起こる。

 その空気抵抗かなにかで、巨大な腕に引き寄せられてしまう。


「グハッ……」


 べノムはその暴風に巻き込まれ、通り過ぎた腕に引き寄せられ、跳ね飛ばされた。

 直撃ではないにしろ、巨大な物体にぶつかれば相当に痛いだろう。


「いッてぇなこの野郎!」


 ベノムは膝の裏を狙ってみるが、それでも駄目だった。

 また攻撃が弾かれてしまう。


「どうするんだこれ。魔法が効かなくて直接攻撃も効かないんじゃ、もうどうにもなねぇぞ!」


 レアスも参戦しているが、爪で斬り刻もうとしても弾かれている。


「鴉ッ、わたくしは背中に回ります。貴方は正面から引き付けなさい!」


「分かった、後ろの刺には気を付けろ」


「鴉如きに心配されるとは、わたくしも落ちぶれましたわね。汚名返上して差し上げますわ!」


 レアスが背後に回り込み、巨大な魔物に攻撃を開始した。


「さあ、始めますわよ」


 とはいえ、刺に隠れて敵の頭すらも見えない。

 背中にまでも結界があったならもう手はみつからないのだが……。


「邪魔な刺ですこと。……ッダーク・スラッシュッ!」


 レアスは魔法を使い、四本の闇の刃が人型の刺を狙い踊り狂う。

 キキィンと音を立て、刺に当たると、霧の様に消えてしまう。

 ダメージは殆どなさそうである。


「此方には結界が無いようですわね。でも魔法で効かないのなら、もう直接斬り付けるしかないですわね!」


 刺の一本を狙い、レアスは自身の爪で斬りつけた。

 魔物の刺に傷がつくが、切断するまでには至らない。

 だが、何度か続ければ切崩す事もかのうだろう。


「もう一度ッ!」


 六回も斬り付けると、一本が根本から切断された。


「やれましたけど、これは少し大変ですわね……?!」


 その時人型が大きく動いた。

 その動きと連動してレアスが刺の海に突っ込み、その体を刻まれてしまう。


「きゃああああああ」


 悲鳴を上げ、ズタボロになりながらも、レアスはその場から何とか脱出した。

 再び一つだけ折れた、刺の場所まで戻ると、次の刺を斬り付ける。


わたくしを舐めないでもらいますわ! この程度で逃げ出すのなら、兵士などには志願してはいませんわ!」


 二本目を斬り落とし、三本目を狙っている。

 六本を斬り落とす頃には、周りが少し歩ける程度には広がった。

 その間も何度か刺に突っ込み、体が血だらけになってしまい、衣服はボロ布の様になってしまう。

 人型の背中の斬り裂かれた広場に、レアスが爪を突き立て抉り、肉を引き千切っている。

 攻撃されている人型は、傷を気にする様子がない。


「この程度では傷にもなりませんか? ではそのまま気づかずに、死になさいな!」


 レアスが抉った傷を、爪で更に広げ抉る。

 何度か繰り返すと、背中の痛みで人型が暴れ出した。

 レアスは必死でしがみつき、隙を見ると、また傷を抉り出しす。

 人が入れるほどの大きさになると、躊躇わずに侵入し、臓器を爪斬り刻む。

 体内に侵入してしまえば、もうレアスを傷つけるものは居ない。


「はあああああああああああああ!」


 レアスの攻撃は激しく続き、人型が痛みで地面にのた打ち回り、一時間もすると動かなくなった。

 動きの止まった魔物の腹が裂け破れ、血だらけのレアスが飛び出て来る。

 一糸纏わぬ姿を晒し、ブリガンテの兵共は恐怖に竦んだ。

 ただ血に塗れた、その姿は恐ろしき獣の様だった。


「あら、皆様、ご機嫌用……」


 そう言うとレアスは気を失い、その場で倒れて気絶してしまった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「マリーヌ様、巨人が倒されました」


「分かりました、報告ご苦労でした」


 フォーレスに報告を受け、マリーヌが考えも巡らせた。

 これで王国との協定、更に同盟まで結ぶ事になる。

 ラグナード、マリア―ドを裏切り、二国共が敵となった。

 しかしラグナードの王は、そう簡単に動かないだろう。

 マリア―ドがラグナードを抜けて攻めて来る事はなく、当面は安心出来た。


 この巨人討伐、マリーヌにとっては実は何方に転んでも良かったのだ。

 あの王国の者共が倒されれば、自分の手を汚さずに始末出来るし、勝ったら王国との同盟となる。 計算違いは、巨人がブリガンテを襲撃した事だろう。


 勝ってもらわなければ困ったが、それも杞憂に終わった。

 それに魔族の力というものを、マリーヌ王は直に感じる事が出来たのだ。

 他の二国、帝国を含めると、三国にも負ける事は無いだろう。


「フォーレス、あの三人呼べるかしら?」


「流石に今日は休まれるそうです。あの激戦では仕方が無いでしょう」


「そう、なら明日の朝城に案内なさい。約束を果たします」


「了解いたしました」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 国を救ったべノム達には、礼として宿を取って貰えていた。

 レアスの怪我は酷く、まだベットで寝かせている。

 ロッテが回復魔法を使ったが、今日は大人しくしていた方が良いだろう。


「怪我してまで美味しい所を持ってくんじゃねぇよ」


「あら、貴方はただ蠅の様に飛び回っていただけですものね? さぞ楽だったのでしょうね」


「うるせぇよ。呼んでくれたら俺はそっちに行ったんだぜ」


 流石に怪我人に喧嘩を売る訳にはいかないと、我慢しているべノムだが。


何故私なぜわたくしが、貴方のような黒い物体を呼ばねばなりませんの? ハエを呼んでも鬱陶しいだけですわ」


「くぉの野郎が、ギッタンギッタンにしてやろうかッ!」


 相変わらずムカつく事には代わりがなかった。

 そんなレアスに、べノムが切れそうになるが、ロッテに止められてしまう。


「もうべノムったら、怪我人に暴力振るわないの。レアスちゃん大丈夫?」


「ええ、ロッテさんのおかげでもう動く事も出来ますわ。とても感謝しております。どうも有り難う御座います」


 レアスがロッテに微笑み、感謝をしている。

 べノムとのこの扱いの差は一体なんだろうか。


「兎に角だ、これで依頼を果たした。明日は城に行ってマリーヌ様に挨拶しに行くぞ」


「言われずとも、そのぐらい子供でも分かりますわ。鴉程度が出しゃばるんじゃありませんわ」


「やっぱりムカつくな。怪我とか関係ねぇ、今直ぐ勝負しやがれッ!」


「まあ良いか~、それじゃあ~ファイトッ!」


 ロッテの号令が掛かると、二人が宿を飛び出し、町の外に向かって行く。

 そしてまた、二人の喧嘩が始まった。


 次の朝、フォーレスの案内により、べノム達がブリガンテの城に赴いている。

 そして玉座の間により、マリーヌ王に面会をしていた。


「それでは調印の儀に移らせていただきます」


 マリーヌが書面に血判を押すと、同盟の儀式が終了した。

 流石にメギドがブリガンテまで赴く事は出来ず、代わりとして貴族階級のレアスが判を印す。


「これで我が国と貴方達の国とは同盟となりました。そこで一つお願いがあるのですが、聞き入れては貰えないでしょうか?」


 魔物と戦わせておいて、まだ何かを要求するとは、マリーヌ王はよほど強かな人物なのだろう。


「貴方達がその体になった技術を、私達にも開示して欲しいのですが」


 同盟としての初めての要求。

 小さな事なら聞いても良かったのだが、流石にこれは無理である。

 べノムは断り方を如何するかと考えるが、レアスがそれに答えた。


「マリーヌ様、すみませんがそれは無理なのですわ。扱い方を間違えたが故に、キメラが野に放たれてしまったのです。王国の今回の騒ぎを見られたはずでしょう。塩の一粒が混入し、国が滅んでしまったとしても、あり得る事なのです」


「しかし私達には、魔物に対抗する手段がありません。何もせずに国が滅びたでは意味がないのです」


 マリーヌ様の言っている事も分かった。

 手段が無ければ、対抗も出来ないのだ。

 まして今回の様な、あれほどのキメラを倒すとなると、まず不可能に近い。

 キメラの技術を渡す事が出来なくても、兵をブリガンテまで派遣させる方法もある。


 しかしべノムは、メギド王から貿易の護衛の事も聞いていたのだ。

 護衛をするとなれば、ブリガンテには滞在する兵も居る事になる。

 それに関して、王国としての不利はないだろう。


「それではわたくし達が、兵を出しましょう。ブリガンテ側に常に何人かを在住させますわ。 ……ああ、そうですわ。ついでに王国への積み荷を護衛をして差し上げます」


「あらそれは嬉しい提案だ事。見返りは何をお求めになられるのでしょう?」


「そうですわね、私達の様な体の変わってしまった者達にも、ブリガンテへの入国を出来る様にして欲しいのですわ」


「……分かりました、それで手を打ちましょう」


 画して、この物語は終わりを告げた。

 国同士の戦いが終わり、仮初の平和が訪れる。

 火種はくすぶり続けているが、そうなるのはまだ先の話だろう。



 第一部完。







 仕事が終わり、旅の帰り際。


「ちょっと、帰るまでが遠足なんだからねッ、王国に帰るまで、まだ六日もかかるんだから~」


「遠足じゃねぇよッ、仕事だ、仕事」


「ていうか、この状況どうするの~。キメラ多すぎじゃない?」


「あのお嬢様は何処行ったよッ。遊んでるんじゃねぇんだよ、クソがッ!」


「あら鴉、わたくしの助けがいるのなら、跪いてお願いしなさいな。ほら、早く」


「嫌だね! だったらそこで見て居ろよ、この俺が一人でやってやる!」



   END

ベノムザッパー(王国、探索班)         アスタロッテ(べノムの部下)

グラスシャール・ボ・レアス(王国、兵士)    マリーヌ(ブリガンテ武国、国王)

フォーレス(ブリガンテ武国、兵士)





次回→まおうぐんのにちじょう3

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