23 ブリガンテへの伝令3
マリア―ドとの戦いが終わりブリガンテに接触を図る。
べノム、ロッテ、レアスはブリガンテに向かう…………
(注)エロは無いです
「俺が先に入るからな、そこで待ってろよっ!」
蛙の粘液が気持ち悪く、湖に二人を案内して、べノムはそこで待っていた。
「レディーファーストって言葉を知らないのかしら? 教養がないのですねぇ」
「うるせぇ、触れただけで野盗を十何人も半殺しにする奴を、俺はレディーとは認めねぇ!」
後で酷いとか言われてるが、それを放って置き、湖にも何が居るか分からないので先に調べておかないとならなかった。
女共を先に入らせて何かあったら、それはそれで文句を言って来るに違いない。
「べノム、一緒に入ろっかっ!」
ロッテはどうせ揶揄っているだけだろう。
「いいから、そこで待っていろよ」
湖の周りには敵の気配はなさそうで、蛙の事もあったので慎重に動く事を決めた。
湖の幅もそこそこ広く、広さも二百メートル以上はあるだろう。
洞窟には近寄らないが、一応警戒しておくに越したことはない。
「潜って見るか」
ベノムは息を吸い込み湖に潜ってみるのだが、中はかなり深く、余り遠くまで見えない。
何度か繰り返したが、見える範囲では小魚以外は見当たらないようだ。
諦めて陸に上がり、体を洗って二人を呼んだ。
「もういいのね、じゃあ私達も体洗おうか」
「ええ、行きましょうかロッテさん」
「いやお前汚れてないだろ。敵の見張りでもしてたらどうだよ」
レアスは遠くで魔法を撃っただけなので、何も汚れてはいないはずなのだが。
「貴方、私に運動させておいて、汗臭いままでいろと仰るの? 流石は鳥類だ事、品性が疑われますわ」
「あ~、分かった分かった、もういいから早く行けよ。まあでも敵がいるかもしれねぇから、注意は怠るなよ」
「分かってるよ~」
「覗いたら八つ裂きですからね」
ロッテが軽い口調で答える。
本当に分かっているのだろうか?
レアスは相変わらずで、何かあったら声を掛けるだろう。
湖に体を清めに行った二人を、べノムは近くで待っていた。
十分後。
「……」
二十分後。
「…………」
三十分後。
「……流石に長すぎないか?」
ちょっと声を掛けてみよう。
「おいロッテ! 生きてるよな?」
「何べノム、一緒に入るの? レアスちゃんが睨んでるから止めた方がいいよ?」
どうやら無事らしく、ロッテは元気に返事をしている。
「無事ならいいが、そろそろ行かねぇか?」
「もうちょっとしたらね~」
「分かった、もう少しだけだぞ」
更に十分後。
「……」
二十分後。
「…………」
三十分後。
「……おい待てよ、女って奴はこんなになげぇのか?」
既に一時間を回っている。
余りの長さに、湖に向かって声を掛けた。
「おい、まだか?」
「ん~、後十分」
女の入浴は長いと聞いたことがあった。
しかしこれ程長いと少し心配になっている。
「十五分したら俺は先に行くからな。いいか? 分かったな?」
「わかったよ~」
更に十五分後。
「俺はもう行くぞ、先に行ってるからな?」
「わかっ……たよ……ぉ」
何か、何かがおかしかった。
ロッテも何故か言葉に詰まっている。
「いいか、そっち見るからな。分かったな」
「……わ……った」
気にしている場合じゃないかもしれないと、べノムは二人の方に向かい、何が起こったのかを確認した。
「なんだこいつ!」
ロッテとレアスの二人は、魔物に食われていたのだ。
いや、食われたと言って良いのか、巨大な植物の口の様な物の中で、二人は風呂に入っている。
返事をしていた事を考えると、幻覚でも見せられているのかもしれなかった。
二人が何時からそうなったのか分からないが、急いだ方がいいだろう。
二人を食っているのは、食虫植物のようなものだろう。
しかし、その大きさは十メートルを超え、蔓が無数に伸びてうねっている。
「植物かキメラか知らねぇが、この俺がぶった斬ってやるぜッ!」
蔓の一本が、べノムに向かうが、その蔓を外套で斬り裂いた。
敵の動きは鈍く、そこまで強いとは思えない。
二人がやられたとなると、何か奥の手がありそうだった。
「何かされる前に、二人を助けてやるぜ!」
べノムが最速の速さで植物の口を斬り裂いた。
その口から二人の体が流れ出て、二人共ぐったりしていた。
「まずは此奴を倒さなきゃ話になんねぇな!」
植物の蔓が再び二人を狙っている。
べノムがそれを刻み、前に進むのだが、斬った蔓からは妙な煙が……。
「くそッ、これか?!」
もう息を止めながら本体を狙うしかなかった。
本体に近寄ると、何も考えずにまず斬った。
二回目、三回目と何度も繰り返していくのだが、息が続かなくなり上空に逃れた。
もう一度息を吸い込み、また斬った。
だが斬った端から植物は再生していく。
「なるほど、再生する前にぶっ倒せばいいわけだな。行くぞこらあああああ!」
気合を入れて、もう一度息を吸い込み、少なくなった水の入っていく。
その植物の、口の様な中に侵入した。
べノムはただ斬り刻んだ。
上も下も、左も右も。
かなりの速度で動いている為、肺の空気がなくなっていく。
そろそろ息が切れそうだった。
もう少しなら我慢できると、まだ斬って、更に斬る。
もう少しで本体が切断できるが、息がもう無理だった。
最後の手段と、べノムはその場で息を吸い込む。
当然幻覚の煙も吸うが、動けるだけ全力で斬りつける。
やがて植物の体は上下に両断され、再生せずに、崩れ落ちた。
幻覚の為か、べノムが斬る手を休めずに、まだ斬り続けている。
だがそれも、やがてゆっくりになり、力尽きて倒れ伏した。
「ねぇ、生きてる? お~い」
倒れたべノムの頭の上から、ロッテの声が聞こえてくる。
「どうやら助けられた様ですわね。一応感謝してあげますわ」
レアスも大丈夫な様だ。
ベノムも起き上がりたいが、その体力がなくなっていた。
「ゼハァ、ゼハァ、動けッ……ねぇ、ハッ……プハァ」
「今だったら私達の裸が見れちゃうんだけどな~」
「ロッテさん、はしたないですわ。もう少し慎みを持ってですねぇ」
だがべノムは、地面に顔を埋めて動けないでいた。
「惜しかったわね~べノム、もう少しで見れたのに。残念残念」
「見たくッ……ねぇ……よ……ゼハァ……ハァ」
結局その後、一時間ほど倒れていて、そんな事を考える体力も無かった。
休憩の後、力を回復した三人は、また馬車に乗って移動を続けている。
「全く無駄な体力使っちまったぜ。お前達がもう少し気を付けていればだなぁ……」
「煩いですわ、終わった事をグチグチと、それでも男ですの?」
「そうだよべノム、私達だってやられたかった訳じゃないのに~」
「チッ、分かった、俺が悪かった。大分遅れているんだ、もう良いから行くぞ」
二対一では分が悪いと、話を切り上げ、馬車に戻った。
砦の瓦礫の隙間を通り、何とか先へと進んで行く。
敵が出る事もなく森を抜けて、帝国の目の前に到着した。
三人は帝国で食料等の補充を済ませ、ブリガンテへの道を急ぐ。
此処からは巨石の墓場と呼ばれた場所。
無数の大岩が天から落ちて、周が石だらけになったとか、嘘っぽい話がある場所である。
道は確保されてるから、馬車が通るのは問題は無いだろう。
大岩がそこら中にあり、敵がどこに潜んでいてもおかしくは無い状況だ。
「おめぇら、油断するんじゃあないぞ。大抵敵が隠れて……」
カタっと風で岩が落ちた。
馬車が通ったタイミングで。
かなり怪しいと感じ、三人は周りを警戒する。
「おい」
「分かっていますわ」
「敵なの?」
まだ敵と決まった訳ではない。
動物だったり偶然かもしれないが、それを放置して油断した所を殺されるのはごめんだった。
「俺が見て来るが、ここに居ても油断するなよ。あっちは囮かもしれねぇ」
「ん、わかったわ」
ロッテも食われたりと酷い目にあって、それなりに緊張感がある様だった。
大丈夫だろうとべノムは飛び立ち、音の鳴った場所を確認する。
そこで、思っていたのとは違うものに遭遇した。
「何だお前?」
そこに居たのはキメラ化した人間だった。
王国にしか居ないはずの者である。
蜥蜴の頭で、人の体、体には爬虫類の皮膚になっている男だろう。
言ってみるなら、リザードマンだった。
その男は震えていた。
そんな男に、べノムは持っていた剣を抜く。
「おい、お前は誰だ? 何処の所属で、何で此処に居る?」
「ひぃぃ……お助けくださいぃぃ……」
怯えていて話にならない。
ベノムは剣を収め、大丈夫だと諭す。
別に剣を収めたからと言って、攻撃力が落ちる訳ではない。
むしろ手が空いて動きやすくなり、攻撃力が大幅にアップする。
それを知らない人なら、剣を収めれば少しは安心するだろう。
「ほら剣も収めたぜ。何もしない、大丈夫だ。こんな場所に居る理由を話してみろ」
そうは言ったべノムだが、男が妙な事でもしたら、斬り付ける準備は出来ていた。
「わ、私は王国の兵士でして、志願してキメラ化を受けたのです」
そこは分かっていた。
そうじゃないなら王国に報告して、即座に調べなければならないレベルの話だである。
「ですが、余りの変化に怯えてしまい、他の皆の姿を見たら怖くなって、戦争のどさくさに紛れて逃げたのです」
王国のピンチにキメラ化を受けたのにもかかわらず、逃げ出した脱走兵だった。
戦争時にすぐに逃げ出したなら、べノムが知らないのも無理はない。
べノム自身も、体の変化には戸惑ったのだ。
男の話を少しぐらいなら理解が出来た。
「逃げたのは良いのですが、何処へ行ってもこの姿を見ると怯えられ、買い物も出来ずにいたのです。一応家族の元にも戻ってみたのですが、私の子じゃないと追い出されてしまいまして」
その母親は、この男が戦争から逃げたのが許せなかったのだろうか?
それとも、この男の姿が駄目だったのか、何方かだろう。
あるいは両方だろうか?
「それで、野生動物を狩って外で生きて来たのです。一応森にも住んでみたのですが、怪物に怯える日々に嫌気がさしまして、此処まで逃げて来たのです」
確かに通った森に住むなら、命を捨てる様なものなのだが。
「話はわかった。お前は俺達が来る前に怯えていたよな? 何に怯えていたんだ?」
「実はこの場所にも居るのですよ、とんでもない奴が一匹だけ。そいつに会ったら逃げた方がいいですよ。他の奴はそいつに怯えて、この場所には寄っては来ないんですがね」
キメラの大物が、この辺りを縄張りにしているらしい。
他のキメラが近寄らないとなると、そのキメラは相当に強いのだろう。
メギド様の伝令の内容で、貿易をするなら護衛をしてやるとの話がある。
当然男の言った奴は通行の邪魔になるだろう。
だが、そのキメラを退治したら、弱いキメラが集まりました、となったら笑い話にもならない。
そうなれば、むしろ護衛も難しくなる。
一匹の何処にいるかが分からない敵と、少し弱いが無数に襲って来る相手、簡単なのは前者だろう。
一匹ならばその動向を探り、囮を使たっり積み荷から遠ざけたりと、やり方は幾らでもある。
男からそいつの情報を聞き出し、べノムは馬車に戻る事にした。
男は嫌がったが、べノムが口利きしてやると約束すると、渋々それについて来た。
その男の名前はフォロックと言うそうだ。
脱走は重罪だが、敵国に情報を売ったりしていなければ、そこまで酷い事にはならないだろう。
結局そのキメラと遭遇する事はなく、巨石の墓場を後にして、ブリガンテに到着した。
ベノムザッパー(王国、探索班) アスタロッテ(べノムの部下)
グラスシャール・ボ・レアス(王国、兵士)






