18 夜襲の終わり
残りの残党との戦い……
フルール・フレーレは、戦乱の渦中に自宅のベットで眠っていた。
少しばかり寝相が悪く、そろそろベットからずり落ちそうになっている。
「くか~、むにゅ……ふぁ……もう煩いなぁ」
長く白い髪をボサボサにして、お腹などをポリポリとかいていた。
ベッドの上だけ見たならば、のんびりした空間なのかもしれない。
だが彼女の寝てたベットの周りには、見た事もない黒い鎧を着た無数の兵士達が倒れている。
「う~ん、まだちょっと眠いわー」
目を覚ました彼女の記憶では、倒れている兵士と戦った記憶もない。
ただ、その鎧や顔には、彼女が殴っただろう痕が残っている。
気絶ではなく完全に止めを刺している所をみると、きっと殺気に反応して反撃したのだろう。
「もしかして、私が寝てる間に殴っちゃったー? もしそうだったなら御免なさいね?」
フレーレは背伸びをして、窓の外の町の様子に気づく。
此処に倒れて居る黒い兵士達は、町の中で大量に発生して、住人達を襲っているのだ。
倒れている兵士を見直し、殴ってしまった事を気にしない事にした。
「どうせ敵なんだからー、まあ良いわよね?」
彼女は呑気に歩き出した。
戦場の真ん中で、道の真ん中を悠然と歩いている。
周りで戦っている者達には、気にもかけずに。
黒い兵士の一人に、左側から突然剣で斬り付けられ、フレーレはそれを左手でいなした。
そのいなした腕で顔面に裏拳を叩き返す。
ガンと当たった一撃で、敵兵士の顎の骨が砕かれ、悶絶して倒れこむ。
別の兵士が彼女を狙い、正面から剣を突いてきている。
体を反らし、半身になって躱すと、そのまま相手の喉を手刀で突き破った。
左から来た兵士に剣を薙ぎ払われ、硬い右足を上げその斬撃を防ぐ。
右手でその剣を押し下げ、その勢いで左足を相手の頭に向かわせ蹴り飛ばした。
遠くに居た兵士が走り、後ろから斬り下げられる。
体を回転させ敵の後ろに回り込むと、勢いを利用して肘を首に叩きつける。
今度は二人。
上と横から剣撃が飛んで来ている。
後に一歩下がり、それを躱し、横なぎを仕掛けた兵士の手を左手で掴んだ。
体を密着させ右手で鎧の上から寸打を放ち、相手の鎧がべコリと凹んで血を吐いた。
残りの一人は震えていたが、彼女はそれを気になどしない。
左の手刀で剣を切り裂き、右の拳で鎧ごと打ち抜いた。
「うじゃうじゃ居るわー、黒くてゴキブリみたいだわね」
本体が撤退した事など知りもしない敵兵士達は、未だに町で戦闘を繰り広げていた。
平時ならば、彼女に見とれる者もいるだろう。
しかし今の彼女は血塗れで得物すら持たず、世間話でもするような言葉まで発している。
この場で彼女を見た者は、違和感しか感じないだろう。
そんな彼女に、黒色の剣士が襲い掛かった。
首を狙って剣を薙ぎ払われ、身を低くしてそれを躱すと、起き上がる力を利用して左肘を突き上げる。
最悪にも、相手はその攻撃を躱してしまった。
彼女は笑った、自分の敵を見つけた様に。
「貴方のお名前を教えて欲しいのですけどー」
黒い剣士は答えない。
その剣士の応援に、更なる敵も二人駆け寄って来ている。
「デートの邪魔されたくないわー」
フレーレが駆け付けた敵の一人に向かって行く。
地面すれすれに相手の横に滑り込み、そのまま手刀で膝の裏を切り裂く。
体制を崩した相手を無理やり踵で地面に押し込んだが、意中の相手は動かなかった。
応援に来たもう一人が斬りかかるが、振り下ろす事も許さずに、強烈な蹴りを食らわせる。
これからどんなデートになるのか考えるだけで、彼女の胸が高鳴った。
「ああ、私フルール・フレーレって言うんですよー、フレーレって呼んでくださいねー」
黒い剣士は答えない。
彼女を見て動けなかったのかもしれないが。
「見つめ合うだけじゃ詰まらないですよー? じゃあこっちから行きますね」
彼女はその男の目の前まで移動すると、左に瞬時に移動し、脚を地面すれすれに滑らせ、蹴りを相手の踝に撃つ。
相手は反応が出来ずに地面に転がり、そこへ拳を……。
転がった相手の剣先が、もうフレーレに向けられている。
その剣の為に、フレーレは動かなかった。
「私、強い人好きなんですよー、今度お食事でも行きませんか?」
「化け物と付き合う趣味はないな」
「えー酷いなぁ。ほら、結構かわいいでしょー」
フレーレは少しだけ距離をとり、その場でクルッと回転してポーズを決めた。
一瞬だが背を向けた彼女に、男は動かなかった。
それが隙だとは思えなかったのだろう。
またデートを始めようとする彼女の元に、敵の増援が一人やって来ている。
彼女を斬り付け様と襲い掛かるが、手刀でその剣を切り、相手の腕を引きながら、肘を顔面に叩きつけた。
その兵士は顔面が破壊され、地面に倒れて動かない。
フレーレが動きを止めたその瞬間、意中の剣士が彼女の首を狙い動いた。
慌てず彼女は硬い左腕で斬撃を受け止め、受け止めた剣にその腕を滑らせ、肘を胸に突き返す。
その兵士は肘の一撃だけで死ぬレベルの攻撃を、剣を捨てて半身を捻り、かなりの威力を殺してしまった。
それでもその衝撃全てを殺す事が出来ず、剣士の体が吹き飛ばされた。
彼女は動かない。黒い剣士が倒された兵士の剣を拾い、もう一度立ち上がる。
剣士はまだふら付き、そこそこのダメージはあったらしい。
「おい、撤退だ。早くしろ!」
町の中に声が響いた。
たぶん敵の声だろう。
その声を聞いて、剣士が後ずさり、持っていた剣をフレーレに投げつけ逃げだした。
フレーレはその剣を弾き飛ばすが、剣士の姿は見えなくなっていた。
「あっ!」
剣士は敵の中に紛れて、もう居場所が分からなくなっていた。
フレーレはガックリと肩を落とし、また別の相手を探して行く。
フレーレの手から逃げのびたその黒い剣士は、敗走兵に紛れて魔都から脱出していた。
「くそッ、こんな仕事なんて受けるんじゃ無かった」
魔族と戦ってみて分かったが、剣も鎧もほとんど役に立たない。
それにあの魔族も、まだ本気ではなかった様だ。
寝込みを襲ってこれならば、正面から戦っては勝負にならないだろう。
あの知らせを受け退避しているが、どうやらこちら側の王が撃たれたらしい。
このまま撤退に付き合っていては魔族に狙われると、機会を窺い敗走の集団から脱出して行く。
剣士の家では、身重の妻が待っていた。
ここで死ぬ分けには行かないだろう。
「子供の名前は何にするか……リーゼ、なんて如何だろうな?」
その兵士は、子供の名前を考えながら、家路に急いだ。
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王都の敵は粗方片付いたが、王都は度重なった襲撃で相当なダメージを受けてしまった。
人の心に恐怖が刻まれ、国民も相当数死傷している。
民にとっては、たまったものではない。
この国に住むのも嫌になった者も多いだろう。
その事について、メギドとタイタンが王の間で話をしていた。
「……何人、死んだんだ?」
「確認しただけでも三千は超えるかと……」
城の中も死体がそこら中に転がっている。
町中も相当酷いものだった。
メギドにとって幸いなのは、妻や子供に被害が無かったことだけだろう。
「まさかマリア―ドに襲撃されるとは思わなかったな」
「相手が恐れるのは仕方ありません。我々は帝国を滅ぼし、人間の体を捨てたのです。彼方にとって、我々こそが悪なのでしょう」
マリア―ドは平和な国だと聞いていた。
それが戦いを起こすとなると、相当な恐れがあったのだろう。
人とは違うその姿に恐怖したのか、強大な魔の力に怯えたのか。
今更気付いた所で遅すぎる事だろう。
「そこまで思い至らなかった。俺の責任だな……これから対策をしなければ」
「……ならば……民や兵に更なるキメラ化を進めては如何でしょうか。また別の国が攻めて来ないとも限りませんので。 ……勿論志願した者だけにするべきですが」
本当にそれで良いのだろうかと考えるメギドだが、今のままでは何の力も無い者は、ただ殺されるだけだった。
民の自衛為にも、その考えは有りだと思った。
「……分かった。またこの国が攻めこまれるかもしれない事と、力を得る為に人間を捨てれるか、生き残った者全員に伝えるんだ」
「メギド、あの子達もそれを受けさせるの?」
心配したイモータルが、部屋から出て来てメギドに問いを投げかけた。
起きて子供達を護ってくれていたようだ。
「この城に居る限り、あの子達は戦いに巻き込まれる。この城から出し安全な所で暮らすか、それとも戦う力を付けるか、何方かしかないだろうな」
「なら安全な所に避難させましょう。そうすれば、この国以外でも生きて行けるわ」
メギド達の話を盗み聞きしていた子供達が、寝室のドアから走って来た。
真っ先に走って来たのは長女のイブレーテであった。
「お父さん、捨てないで!」
子供達が叫んでいる。
メギドとイモータルに抱き着き、泣き、震えていた。
また売られて酷い事をされるのを怖がっているのかもしれない。
メギドは膝を突き、子供達と目線を合わせた。
小さな覚悟を見つめる為に。
「此処にいると、怖い思いをするかもしれないよ?」
「大丈夫だもんッ、皆と一緒に居たいのッ」
ルーキフェートが叫んでいる。
一番小さな子が真っ先に答えた。
「お父さんと居たいの」
イブレーテが泣いている。
一番大きな彼女が、メギドを必要だと泣いている。
「お母さんと居たい」
シャーイーンが震えている。
新しい母と、別れたくない様だ。
「…………」
アンリマインが顔を埋める。
ただ何も言わず、メギドの服を掴んでいる。
「……うぅぅ」
パーズが右腕にしがみつく。
力強く、両腕で。
「……あうぅ」
マーニャが背中にくっ付いている。
その体は小さく震えている。
「やだぁッ」
ラヴィ―ナが左腕にしがみ付く。
顔をグシャグシャにしながら、しっかりと。
キメラ化する者達はこの戦争により急激に増えた。
親の勧めで、子供までキメラ化を望む者もいる様だ。
メギドの子供達までがその力を望むと、仕方なく王と王妃の血肉を与え、七人全員を正式な子供とした。
フルール・フレーレ(王国、兵士) タイタン(王国、将軍)
メギド(王国。国王) イモータル(王国、女王)
ルーキフェート(王国、王女) イブレーテ(王国、王女)
シャーイーン(王国、王子) アンリマイン(王国、王女)
パーズ(王国、王子) マーニャ(王国、王女)
ラヴィ―ナ(王国、王女)
ハガン(黒い剣士)
フレーレは戦う事が大好きなだけで悪い子じゃありません。
格闘戦闘むずい。






