16 夜の闇の暗殺者
ブリガンテの王が決断した次の日の夜……
王国でキメラ班が編成され、七日目の深夜。
王国の正門近くに、怪しい集団が隠れていた。
その人物とは、黒衣を纏った男十人である。
怪しくはあるが、顔を隠してはおらず、商人や旅人を装った者達だった。
「門が閉まっているな、まあ当然か」
「旅人の俺が一人で門番に接触する」
「大丈夫でしょうか」
「問題ない、門番は人の様だ」
「では、お気をつけて」
一人の男は言葉なく頷き、王国の門番に接触した。
門の前には人は居らず、その上部にある見張り台にいるらしい。
「すみません。魔物に襲われて此処まで逃げて来たのです。どうか一日置いて貰えないでしょうか」
旅人に装った男は上に呼びかけ、門番が二人組で門を開けた。
王国の門番は二人組で、当然男の事を怪しんで、剣を向けている。
しかし放って置くことが出来ずに、待ってろと奥に一人が消えて行った。
黒衣を纏った男が、お礼にとお金が入った袋を渡し、門番が受け取ると、その油断した瞬間を男は見逃さなかった。
隠していた短剣で、その男の喉を潰し、声を出す事を封じてしまう。
それから止めを刺し、その体を見えない所に隠した。
落ちた血を砂で隠し、男は中へと進んで行く。
奥へ消えた一人を探し、少し進むと、灯が漏れた部屋を見つけた。
チラリと、中に居る人数を確認している。
中には三人。
扉の影に隠れ、一人が出て来るのを待った。
「…………」
暫く待っていると、男が一人扉から出て来る。
先ほど奥に消えた奴の様だ。
扉を閉める瞬間を狙い、口を塞ぎ、息の根を止めた。
手で合図を送り、静かに二人の黒衣の男が、扉の前までやって来る。
タイミングを合わせ、中の二人を殺害した。
外に待機していた男達を呼び寄せ、門の中の寝床を探し出す。
寝ている者達を終わらせ、そして一人の魔族を見つけた。
中々大きな奴で、青い鎧を着ているような魔族である。
効くかどうかは分からなかったが、念のため毒を使い、体の自由を奪った。
そんな男達の進入に、寝具で眠っていた青い鎧の魔族、門番のグラビトンは目覚めてしまう。
「何……だ?」
だがグラビトンの体は動かず、目の前には銀の切っ先が見えた。
「目が覚めたか。寝ていれば苦しまずに済んだものを」
黒衣の男は剣を振り下ろし、グラビトンの胸に剣が……突き刺さらなかった。
研ぎ澄まされた剣の先でも、その体には突き刺さらず、相手の武器を弾き返している。
「魔族とは厄介だな。これ程硬い奴だとは。こんな所で時間を取られる訳には行かない。……おい、こいつを動かないように厳重に縛り上げろ」
男の部下と思われる者達が、動けなくなったグラビトンを縛りあげ、更に何回も巻き上げ動けなくしてしまった。
「お前たちは……何者だ! 答え……ろ!」
「煩いから口も縛っておけよ。こんな奴に、何分も使っていられないからな」
「やめ~~……――」
男達は何も答えるつもりは無いようで、グラビトンの口にも手ぬぐいを巻き付けてしまう。
それにより、グラビトンは声も出せず、ただ放置されてしまった。
黒衣の男達は門を制圧すると、遠くに隠れていた大勢の仲間に合図を送っている。
その合図によりマリア―ドの軍勢が、遠くから密に王国の周辺へと進軍してきていた。
その合流を待たず、黒衣の十人は王城を目指した。
「まだ気づかれて無いはずだ。目立たず急げ。いいか、魔城までは騒ぎを起こすなよ」
黒い者達が頷くと、王が居る王城に急いだ。
十人は王城に到着し、周りの様子を窺っている。
当然城門は閉まり、見張りも何人かいる様だ。
硬い城門さえ開け放てれば、黒衣の者達の進行の妨げになるものはない。
見張りのタイミングを見極め、フック付きロープを使って屋上から場内に進入出来た。
男達全員が侵入出来た事を確認すると、ロープを外して、まずは城門を開ける事を目指す。
見張りの中には、魔族はあまり居ないらしい。
慎重に行動し、見つからずに城門まで到着する。
「門を開けたら、必ず城の者が駆け付ける。油断するな。ここからが本番だ」
男の二人が残り城門を開けると、グゴゴゴゴッっと音を立て門が開かれた。
「なんだッ、誰が門を開けた! 確認しろ、急げ!」
気付いた兵士達の怒号が聞こえる。
だがもう遅く、男達の準備は完了している。
男の一人が照明を空に打ち上げ、天空がパッと明るくなった。
その合図を待っていたマリア―ドの兵士達は、闇に紛れて進軍を開始した。
「合図が来た、行くぞ!」
王都の門を事も無げに通り抜け、にマリア―ド兵の大群が押し寄せる。
その騒ぎをいち早く見つけたのは、眠れずに城野中をうろついていたタイタンだった。
そのタイタンが、近くにいた兵士に事情を聴いている。
「何だこれは、如何したと言うのだ!」
「はい、王城に侵入者です。見張りの者も何人か殺されました」
それを聞き、タイタンは兵士に背を向けた。
「で?」
「はっ?」
「お前は誰だ?」
タイタンはこの城に居る者は、新兵に至るまで全て把握している。
だが、今話しかけた男は、たった一度として見かけた事がなかったのだ。
兵士は答える事はせず剣を抜き、その背後から襲い掛かった。
男はダンと踏み込み背を斬り付けるが、タイタンは避ける素振りさえせず、立ち尽くしている。
斬り付けた斬撃を物ともせず、男はただ悠然と立っている。
「なっ!」
黒衣の男は驚愕し後を向き逃げ出すが、タイタンは振り向きざまに相手の体を掴み、そのまま投げ飛ばした。
壁に叩きつけられた男は、ドゴォーンと音を立てて、そのまま絶命してしまう。
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ベリー・エルは、城の仮眠室で眠っていた。
静寂の城の中でドゴォーンと音がし、ビクッと彼女が目を覚ます。
しかし目を開いたとたん、黒衣の者の刃が、自分へと振り下ろされていたのだ。
その刃を、自身の悪魔の腕で防ぐと、寝ていた寝具から飛び起きた。
「……だれ?」
黒衣の者の答えはない。
答えの代わりに、次の斬撃が振り下ろされる。
彼女はその刃を躱すことなく、炎の剣を持って、相手の剣ごと一刀両断に斬り伏せた。
「……タイタンは……無事……かしら?」
そう呟き仮眠室を後にすると、エルはまず王の寝室に向かっている。
途中で城の兵士が黒衣の者に襲われている所に遭遇し、急いで走ったが間に合わず、その兵士は殺されてしまった。
「……間に……合わなかったッ!」
黒衣の者がエルに気づき、兵士を切り裂いた短刀を投げつけてた。
大剣を盾にし防ぐが、そこを狙い、男が剣の二本を抜いて向かって来る。
何故かエルは剣を捨て、後に飛んで躱すと、男が更に踏み込んで斬り付けた。
「……なぜ……ぐぁ」
男の命はそこで終わった。
エルの腕では届かない距離だったが、その距離を稼いだのは、再び出現した炎の大剣である。
男はその大剣に自ら突っ込み、炎の大剣により骨も残さず燃え尽きた。
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城の中で何か騒ぎ声が聞こえる。
メギドは隣を見るが、イモータルと子供達も眠りについていた。
寝室から隣にある王の間に向かい、その部屋で何故騒いでいたのかを確認する。
目の前には黒衣の者達が、王国の兵士を殺していたのだ。
この先にはメギドの愛する妻と、子供達が寝ている寝室である。
引く分けには行かなかった。
寝衣のままで、今は武器も持っていない。
それでも、戦うしかなかった。
敵は、見る限りで四人。
全員が此方を向き、剣を構えている。
メギドは防御の魔法を自身にかけ、そのまま相手の出方を待った。
部屋の中では空から雷を落とすことが出来ない。
出来る事は精々電撃を飛ばすぐらいだった。
敵は四人。
撃ち終わりを狙われると、相手の攻撃を食らってしまうだろう。
防御魔法は三回ほど耐えれるが、四度目は護ってくれない。
一人を狙い、三人に襲われたら、一瞬で無くなってしまうだろう。
メギドは男の一人に突っ込み、ワザとその攻撃を受けると、結界の一つが音を立てて崩れる。
「一回!」
確実に間違わないようにと、メギドは声を発して回数を数える。
まず剣を受けた男に体を密着し、敵の剣を抑えた。
そして電撃を放ち、別の一人倒すと、残りの二人が斬り掛かって来る。
捕まえていた男を投げつけ、一人の攻撃を躱すと、もう一人を雷撃で打ち倒した。
残りは二人。
雷撃を放った隙を狙い、残りの一人が斬りかかって来る。
二枚目の防御結界が割れ、残り一枚となってしまう。
「二回だ!」
剣を受けたが、雷撃で一人を焼いた。
最後は投げつけた男を倒し、もう敵は居なくなった。
メギドはそう思っていた。
敵が居なくなった所で、メギドは油断してしまう。
高い天井に隠れていたもう一人が、二刀を持ち、降下して斬り付けて来ていた。
一本目の剣は結界で防げたが、それで防御結界は消え果た。
二発目の攻撃はメギドの頭で受けてしまった。
だが幸い頭の角に当たり、その威力は弱まっていた様だ。
命は助かるが、額から多量の血が流れ落ちる。
メギドは膝を突き蹲り、黒衣の者はメギドの首を狙って剣を振り下ろした。
ガイィンと、男の剣が弾かれた。
「……今度は……間に……合った!」
エルが炎の大剣を飛ばし、男の剣を弾いていたのだ。
黒衣の男はエルの方を見たが、もう一方の剣でメギドを突き刺そうとしている。
「終わりだ!」
「お前がだ!」
メギドは左腕を犠牲にしてその攻撃を受け止めると、男の体に電撃を流し込み、最後の敵は床に沈んだ。
念のために部屋の天井を見回したが、もう敵は居ないらしい。
「大……丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
エルが心配そうにメギドを見ている。
怪我を気にしている暇はないようだが、子供達を置いて此処を離れる事が出来なかった。
エルも怪我をしたメギドを放って置くことが出来ず、この部屋に残りつづけた。
黒衣の暗殺者達(十人) メギド(王国、国王)
タイタン(王国、将軍) グラビトン(王国、大臣兼門番)
ベリー・エル(王国、兵士)






