戦闘場
「じゃ、これとあれ、覚えてね?」
「はいっ!」
私はメモを取るため、ペンを取り出す。その手を香奈お姉さまが抑える。
「素直な妹は好きだけど、メモは取らないの!自分の頭で覚えるのよ?これは記憶する練習よ。忘れたら何度でも私に聞きに来なさい」
「はい。ありがとうございます!」
私は、お城のいろいろなことを教えてくれる香奈お姉さまが大好きになった。厳しいけど、香奈お姉さまの言っていることは私は正しいと思う。確かに、これはこれから私が生きる永遠の時を、この頭に記憶する練習になると思ったから、私はペンをしまった。
「…それに、紙がないからって肌に書こうとしないの。いい?まだ来たばかりとは言え、あなたもこの国の姫なのよ?」
…忘れていた。私は素直にうなずいた。
「はい…」
ここは、能力者の集まる三国の内の一国、白蝶国の城だ。私は不老不死という特別な能力が備わっていたから、お義父さんに気に入られてこの城に来たんだ!王族は血がつながっていることが少ないけど、…それにしても、香奈お姉さまは私に優しくしてくれてありがたかった。しかも、もう国王候補が出来上がっていて、今更妹が一人増えたら邪魔なだけだし…。この間、そのことを香奈お姉さまに話したら『今更だからよ』と答えた。最初は意味がわからなかったけど、説明を聞くうちにだんだんと理解してきた。『私たちは小さいころに連れて来られてたくさん稽古したから十分強いけど、後から来た妹・弟は稽古が足りないわ。だから、たいていの子たちは一歩ひいて次の時代に挑戦しようとするのよ』なるほど。私は訳が分かった。…それに、ここの基本的なルールは。つまり、大きくなって強くなるまでお姉さま、お兄様の争いを見ていろ、と。そして、得た知識で家族に打ち勝て、という事だ。そして、お姉さまはこうも言った。『妹、弟を教育するのは私達の仕事なのよ。そうしたら、私たちがいつ倒れても安心でしょ?』…これは、なるほどとは思ったけど、私の仕事にはなりそうになかった。不老不死だから、一度王位に就いたら二度と離れなくなる。だからきっと、私は教育のされない妹、弟が死んでいくのを見る事になるのだ。否。子供というべきか?永遠に。
「黒蝶も教育することになるからね。早く覚えなくちゃ。新しい妹弟はすぐに入ってくるんだからね?…そういえば、今のお義父さんを昔はお兄様って呼んでたな。ひとつ前の代のお兄様やお姉さまは、お義父さんや継母になるのよ。私達も、王位に就けばあなたたちの義理の親になるわけね。…あっ!今、謎がひとつ解けたわ。ひとつ上の兄や姉が妹弟を教育する理由。私たちの誰かが親になるからなんだわ!!」
私は、嬉々として理由を話すお姉さまを見て、手を握りしめた。今は、お姉さま達は私の能力を知らない。けど、もし私の能力を知って、自分が王位に就けなかったとしたら…。こんなに尊敬までするほどのお姉さまを、絶望に突き落とすだろう。『今までの私たちの努力は何だったの…?』という香奈お姉さまの姿が思い浮かび、私は即座に頭を振り追い払った。その時、一人の男が私の名前を呼びながら走って来た。
「黒蝶様っ!」
私はお姉さまの視線を感じ、背筋をただした。
そして、お姉さまに会釈をしてから男に向き直る。
「どうしたのですか?」
お姉さまの視線は柔らかいものになり、私の緊張は少しほどかれ、習ったとおりに進める。
「国王様が呼んで御座います!!」
それは、お義父さんからの使いだった。
私は足音を立てないよう、けれど速く着くために小走りになった。その使いは、お義父さんが顔色が悪く、寝込んでいる状況で呼んでいると言っていたからだ。
「お義父さん!!」
私はなるべく静かに、だけど耳を立てなくても聞こえるくらいの大きさでお義父さんを呼んだ。
「おお、黒蝶か…。おや、もう少し心身共に成長したように見えるが…?」
私は、確かに少し大きくなった体を無視し、お義父さんに駆け寄った。
「来たばかりに私を招くとは、どうなさったのですか!?」
お義父さんは怠そうな首を無理に動かし、ベッドのそばにいる私を見た。
「ああ…さすがに、候補が出ていることもあって、体調も良くなくてな…。…だから、呼んだのだ。黒蝶。おまえは次期国王になる。…いや、この場合は女王か?ははは、すまんな。歴代にも女王の経験は無くて、女性の場合の事はよくわからんのだ」
お義父さんはだるそうに息を細く吐く。
「今日、これから王位争いを開始する。それには、おまえも参加させる。…能力は言わなくても必ずわかる。べつに教える必要はないだろう。…そして、おまえは参加する6人の中でも最年少だ。…それに、香奈の事もあり、つらいだろう。おまえは不老不死だ。王位に就くかつかないかはその心で決まる。…譲でないぞ?その心が、王位に就くためのカギを握っている…」
お義父さんは言うだけ言った、と言い、私に退室を言った。
私が国王の部屋を出た時には既に、11歳の少女の姿になっていた。そんなことにも気付かず、私は香奈お姉さまのもとへ行った。
「あら、お帰り、黒蝶…。黒蝶!?」
「香奈お姉さま、また、お城の事を教えてください」
「あ、ああ。黒蝶なのね。ずいぶん成長したことで…」
私は顔やら腕やらペタペタと触り、今の自分の状況を理解した。
「香奈お姉さま。これは私の能力の一種みたいなものなので、そこは強く突っ込まないでいただきたく…」
「あ、ああ、そうなのね…。…それで、お義父さんは何て?あ、秘密なのはいいわよ、言わないで」
私は一礼して先ほどの事を告げた。
「…そう、それは私が聞いてよかったのかしら?前は一人ひとり呼び出して始めたのよ。だから、知らない人が反撃できないで死んでしまった人も少なくはないわ。…今回はどうするのかしら…?」
その時、城内に放送の音が響いた。
『ただいまより、王位争いを開始いたします。第一王子~さま、第一姫~さま、第二姫香奈さま、第二王子~さま、第三王子~さま、第八姫黒蝶さま、至急戦闘場までおいでください』
私は一瞬ひんやりとした。香奈お姉さまは目を丸くして私を見た。
「黒蝶も!?」
香奈お姉さまは腰の短剣に手をかけ、後ずさりした。
「なんで黒蝶が…。来たばかりなのに…」
お姉さまは私が敵意無いことを確かめ、私の手を引いた。
「来なさい、こっちよ」
香奈お姉さまは、きっといつでも腰の短剣を抜けるようにしている。お姉さまの意識は、私にも向いていると思えたし、他にも向いているように思えた。
「か…香奈お姉さまは、私を嫌いにならないのですか?」
しばらくつかつかという急いだ足音ばかりが聞こえた。
「なんで?」
「だって…来たばかりなのに、見計らったように私まで参加資格を…」
「べつに。参加しない方が良いってだけで、参加資格は王族なら誰にでもあるのよ。それで今日知り合った家族が参加したからと言って、嫌いになるのとは少し違うわ。ただ…」
しばらく、間があいた。私は耐えきれずに訊いた。
「ただ…?」
「ただ、こうして敵となった今ではあなたを信用するわけにはいかない。…それはあなたも同じよ?私を信用してはダメ。…そして…」
香奈お姉さまは私の手を離した。そして、一気に私の懐に潜り込む。気が付けば私の首筋には香奈お姉さまの短剣が当てられていた。
「近くに敵がいるのに油断してはダメよ。こんなふうにね!」
私の首筋に当てられていた短剣は、一瞬のうちに隣の通路に飛ばされていた。
「うおっとお、あぶね!」
「え…?」
声のした方を見ると、そこにはお兄様が。
「こ…こんにちは、お兄様」
「ん、こんにちはね!」
私が一礼すると、頭の上を短剣が通った。
「はい、これ。今度は勝手に投げてはダメだよ?」
香奈お姉さまは鼻を鳴らした。
「こうなったら、私はどこでも、誰だろうと油断はしない。それにこれは、王位争いを知りもしない妹に向けての教育だ」
「うわあ、こわいな。おい黒蝶、こんな奴はやめて、俺にしないか?俺ならこいつよりも優しく指導してやるよ」
「…遠慮しておきます…」
香奈お姉さまは勝ち誇った笑みを浮かべた。
「さあ黒蝶、ここが戦闘場よ。…ここからは私たちはお互い敵。油断は禁物よ?」
「…はい!」
私は同時に入る形となる香奈お姉さまを見上げる形で立ち止まった。
「…今まで、ありがとうございました」
香奈お姉さまは照れたように俯いた。
「わ…悪かったわね」
「え?」
「だから、戦い方を教えてあげられなくて」
「あ、ああ…それは…」
私の言おうとした言葉はお姉さまの胸につぶされて形にならなかった。
「ありがとう…。…じゃあね…」
お姉さまは泣いていた。
「お、泣いてんの?」
「う…うるっさい!違います!」
お姉さまはもう、私を見ずに戦闘場に入っていった。…べつに、冷たいとは思わなかった。これからと、今までの言いたいことは、さっきもらったから。
私も後に続いて入る。瞬間、大きな歓声を受けた。しかも、お父さんとお母さんの声が聞こえた。「黒蝶がんばれ!!」と。自分たちが付けた名ではなく、お義父さんが付けた名前で。私は、お父さんお母さんのそんな覚悟を聞いて、さらに奥へと歩を進めた。
こんにちは、桜騎です!今回、これを書いているときに、ある人に打つの早いと言われました。ですが、ただ早いだけで、打ち間違えたり…というのがよくあります。例えば、「私」を「わつぃ」と打ったり…。わつぃってなんだよ!?と言いたくなりますよね。私は打ち間違えたとき、毎回イライラしながら言っています。「わつぃってなんだよ!?」
それはさておき、今回の白蝶国は王位争いの前のお話です。王位争いなのに、何で城内でやるの!?と思いますよね。確かに…。今、自分でやって、初めて思いました。ただ、国に大きなダメージを与えない事が出来ますよね。これは何日にもわたってやるわけではありません。嬉しい事ですね!次回は、出来れば王位争いをやるためのルールも、かけたら書こうと思います!次回もよろしくお願いします!




