2 気付いてしまった気持ち
『岡本さんって…可愛い』
あの日言われた言葉は、あたしの脳のシワの奥にすっかり刻みこまれてしまった。
ねえ、それってどういう意味?
聞きたくて聞けない質問が頭の中をぐるぐる回る。
わかってる。
深い意味なんかないことくらい。
でも、ここ数年恋愛から遠ざかってたあたしには刺激の強い言葉で。
もしかして…なんて思ってみては自分で全否定する。何度そんなことを繰返しただろう。
「はぁ……」
思わずため息が出てしまう。
「どうしたの?お疲れ?」
後ろから声がして、ひょいと顔をのぞきこまれる。
「えっ…」
「熱は…ないみたいだね」
ひた、と額に冷たい物が当てられる。それが彼の手だということに気付くのに、少し時間がかかった。
「…っ!」
驚くあたしをよそに、彼は心配そうに言う。
「岡本さん、無理しないでね」
…彼のこの優しさって、罪だ…
彼は優しい。
そりゃもう勘違いしそうなほど。
だけど。
よく見てると彼のその優しさは、あたしだけでなく他のみんなにも男女も先輩後輩も関係なく向けられている。
だから、あたしは勘違いしちゃいけない。
彼を好きになっちゃいけない。
あの優しさは、好意じゃない。
わかってる。
わかろうとしてる。
それなのに、彼の優しさは、あたしの心をぎゅっと掴んでしまう。
勝手に勘違いして、その上勘違いだってわかってるのにドキドキして。
一人で勝手に焦ったり緊張したり、あたしバカみたいだ。
もう少し若かったら。
ありえないことを考えてしまう。
もう少し若かったら、彼の優しさの意味を玉砕覚悟で確かめに行けただろうか。
「いいじゃない、確かめてみたら」
案の定、智美はあっさりとそう言った。
「そんなの確かめられないよ」
あたしが言うと、智美が電話の向こうで不敵に笑う気配がした。
「『確かめられない』って恵美が勝手に決めてるだけでしょ」
「だって…」
「相手の気持ちは相手にしかわからないよ。でも確かめようはある。ただ…」
「ただ?」
「その答えが恵美の望む物かどうかはわからない、ってこと」
「うん…」
そう。
智美の言う通り。
確かめようはあるんだ。でも、そうしたところであたしの思うような答えじゃないことは充分考えられるわけで。
…ん?
『あたしの思うような答え』って……
あたしはそこで気付いてしまった。
あたし、もしかして、彼に、恋、してる…?




