八話 夢
君は怒るだろう。
僕の行為を、きっと怒るだろう。
自分のせいだと、責めてしまうかもしれない。
だけど僕の『終わり』はこれでいいと、ずっと思っていた。終わりが来るならば、こうすると決めていた。僕の最後は決して君のせいではないから、それだけはどうか安心してほしい。
僕という存在はあの日、死ぬはずだった。僕が死に彼女が生きる、はずだった。だけど物事はなかなか思い通りにはならなくて、僕だけじゃなく彼女まで一緒に死んでしまった。
中途半端に、一部だけが生きながらえているんだ。
だから、残りカスのような者同士、今度こそ消えてしまおうと思う。
……ファリはね、寂しがりやなんだ。一人にしたら、きっと泣いてしまうよ。だから一緒にいてあげるんだ。今度こそ、その手をしっかりと繋いであげて、傍にいて、抱きしめる。
僕は幸せだ。
誰より、何より愛する彼女と、やっと一緒になれるのだから。
――『ある青年が遺した手紙』
おなか、いたい。
痛いの……すごく痛い。
動けない。動けないくらい、痛い。こんなに痛いの、なかった。知らない。でもなぜか知っている気がした。あたしは、そんなもの知らないはずなのに、痛い、痛い。
大丈夫、とトウヤが尋ねてくる。
うん、大丈夫。
ちょっと痛いけれど、平気。ずっと見ていた『嫌な夢』より、ずっとずっとマシ。
ねぇ、聞いて。あたし、ひどい夢を、見たの。本当にひどい夢なのよ。せっかく一緒に生きていくことになったのにね、あたし、トウヤと離れ離れになってしまったの。
ひどいでしょう?
こんなに、一番近い場所にいてくれるのに。
……そうね、きっと、だから怖くなって夢を見たのよね。
トウヤはこんなに近い場所にいるの。あたしを抱き締めてくれる。あたし、ずっと一人で生きていけると思っていたけど、もうだめね。ここから離れられないの、絶対に離れたくない。
あたし、きっといい奥さんにはなれないと思うの。
だって……そういう存在を、あたしはあまりに知らないから。だけど、あなたの隣に立てるだけの人間には、なりたいと思っているのよ。あなたに恥じない『魔女』になるの。
そうすれば、きっとずっと一緒にいられるわ。
そうね、オマケにずっと綺麗なままでいられるかもしれない。トウヤはそんなことないって否定するだろうけど、あなたも結構見目がいいのよ? 盗られるのが不安になるくらい。
だから、がんばるから。
トウヤと一緒にいられるように、がんばるから。
……ちょっと、寒いわ。
もっと傍に来て。
ん、そう……そんな感じ。あたし、やっぱりここが好き。嫌な夢を見たおかげで、改めて思ったの。トウヤの腕の中が大好きなんだって。もちろん、トウヤも好きよ? 当然じゃない。
……でも、少しまだ怖いの。
あの夢が忘れられない。
ああなったらどうしようって、思うの。トウヤがいなくて、あたしは一人。あなたがいないせいでおかしくなって、たくさんひどいことをして、最後には――。
ん……。
わかった、もう言わない。だから代わりに、もっとぎゅってして。あたしが、あなたのお嫁さんになったんだって、全身で伝えて。そうすればあたし、とても安心できるの。
もう悪い夢は見なくなって、目を覚ましたら……あなたのお嫁さん。
そんな朝が、来るの。
■ □ ■
目を閉じる。息を吐き出す。トウヤがぎゅって、抱き締めてくれた。
たったそれだけで。
あたしは、幸せだった。