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圧迫面談

初投稿です。宜しくお願いします。

「──あら、まぁ。」



柔らかく澄んだ声が部屋に零れる。(しか)し声の主は、然程困った顔をしていない。思いもよらぬことに興味を引かれると同時に驚いたような、ほんの少しだけ眉を上げ、目を見開いた表情を浮かべている。

声の主であり、この部屋の主でもある人は、持ち上げていたカップを音も立てずにソーサーへ戻す。そんな何気ない仕草さえも気品がある淑女である。

長い睫毛を二度伏せ、瞬く。また桜の唇から声が落ちる。



「もう一度、言ってくださらない?私、上手く飲み込めていなくてよ。」



穏やかにそう言っては、小首を傾げつつ真っ直ぐと見詰める。

普段は伏しがちであるその赤い目は、納得のいく説明があるのか?と問い掛けるように、もしくは説明を促すように固定された。


威圧感がある訳ではない。寧ろ見た目だけならば、ほぼの男が警戒なんてしない。

本以上に重い物を持ったことがないだろう腕、桜貝の爪に飾られた華奢な指、薄い肩。踵の高い靴を履いた令嬢達と、踵の低い靴で身長が並ぶこと以外は少女然としているし、その身長だって男から見て高い程ではない。


…その筈なのに、下手なことは言えないと感じさせる。

先程からお茶で湿らせている筈の喉が乾いて張り付くような感覚すら覚える。


確かにこの人は王になる者として育てられたのだろう。そう思わせるに足る何かを感じる。

それが何なのかは解らない。血なのか、役なのか、環境なのか、果てはこの人が持つ気質由来なのか。

感じ取れるのは、少なくとも160台後半の背丈に、17という歳頃の少女から放たれるには相応しくないこと、そして私は不味いことを言ったということだけだった。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


幼い頃から違和感は感じていた。

見覚えのある顔、見覚えのある景色、聞き覚えのある単語。一つ一つなら気にも留めないだろうデジャヴ。

まだ物心付く前に誰かに聞かされたのを、ぼんやり覚えているのだと思っていた。


…思っていた、のに。違和感は積み重なり、そして形を成してしまった。思い出した?違う、思い至っただけだ。違和感を感じられていたのだから、気が付いていなかっただけで確かに覚えてはいたのだろう。


然し、何故よりにもよって、思い至るタイミングが衣装合わせの真っ最中なのか。

我が婚約者どのが当日着る為に仕立てさせたドレスに見覚えがあったからだろう、そう言われてしまえばそこまでではあるのに、思わず遠い目をしたくなってしまう。

だがゆっくり噛み締める時間はない、そう諦め衣装合わせを終えたのが1鐘間(しょうかん)前。


幸運だったのは、王の半身に相応しいようにとポーカーフェイスを叩き込まれていたこと。

不運だったのは、我が婚約者…エレノアは王に相応しいようにと相手の感情を読む為の教育を受けていたこと。

和やかなお茶の席は、目を細め笑う彼女を見た時、そこが取り調べ室になっていたことへと気付かされた。



「お手元が疎かですわ、アルヴィン様。そのままではソーサーが大きな音を立ててしまいましてよ。…お気もそぞろでいらっしゃいますけれど、如何(いかが)いたしまして?」



その時、私は少々…いや、かなり動揺していた。

衣装合わせ中であれば他に考えられることがあり、現実逃避をしていられた。然しそれが終わって、緊張が解けた途端に衝撃が来てしまったのだ。

そして、誰でもいいから聞いて欲しい気分になってしまっていた。彼女が下がらせたのか侍女も居らず、見る限りは2人きり。

だからこそ聞かれるままに吐いてしまい、あのお言葉を引き出すに至った訳である。



(にわか)には信じがたいでしょうが…。」



口を開けどそれ以外は出てきてくれない。

誰が信じるというのか、この世界を液晶越しに見たことがあり、自分たちが登場人物だなど。侍医を呼ばれないこの状況と、エレノアが一応理解しようとしてくれているのは僥倖であるとすら言えるが、そも問い詰めずにいてくれれば…と思わずにはいられなかった。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


この世界は、ゲームだった。ゲームタイトルなんて覚えていない。転生したと仮定した際、この世界で生きてきた年月含めて、もう10何年以上も前にやったゲームなのだから。

シミュレーション系というのだろうか?ジャンルは定かではないが、トランプがモチーフの中近世ヨーロッパ風世界観のゲームだ。

スート毎に全く異なる特徴のある四つの公爵領。常春・常夜のクラブ、常夏・常昼のダイヤ、常秋・常昼のハート、常冬・常夜のスペード。そして…唯一四季と昼夜の巡る場所、王都。


王はJokerと呼ばれ、必ず赤と黒のJokerが同時に在位する。

王家の人は全員Joker候補であり、その中でも優秀な者が、婚約者を得て赤もしくは黒と呼ばれることとなる。常夜の領から婚約者を得た者が赤と、常昼の領から婚約者を得た者が黒と呼ばれる。

婚約者はいずれ王の半身になる者、王家から婚約者を付けられること、すなわちその候補者は最有力候補として見られていることを示す。正式には公表されない為、公式には一候補者に過ぎないが…。

主人公は無色のJoker候補…つまり婚約者が居ない候補者である。


ゲームの内容はこうだ。

Joker候補である主人公は、舞台である王立学院高等部に通い、自分磨きをし婚約者を得て最有力候補を目指す。その過程でライバル候補者と競ったり、恋をしたり…そんな感じだ。

婚約者候補…言ってしまえば攻略対象の中に、ライバル候補者たちの婚約者もいるところまで含めて、ありがちな女性向けゲームといったところだろう。


然し、ここで特筆すべきは真っ当な恋愛表現が極端に少ないこと、そして最有力候補の婚約者も取ることが問題にならないところだろうか。

最有力候補者の婚約者は、言い換えれば未来の王の半身となる契約をしている人。つまり王となる人が変われば、そっちに移されるのは自明の理である為だ。

新しく王の半身を教育するより、本人たちの相性がいいならそのまま移動させる方がコストとして安上がりなのは当然だろう。プレイヤー視点、攻略済みであるなら信頼しあっているし…。王の半身を担わせるには教養と視野と一定以上の血筋が求められる。有り体に言えば上層からしたら色々と面倒なのだ。

特にそれぞれ四大公爵家出身の婚約者であれば、王家からしても困る。四大公爵家は準独立国家級とされ、それぞれが派閥を率いる権限を持った家。仮に公爵家…Kingの家から王の半身となるべく来た婚約者が居たとすると、“王候補が変わったからもう要らない”なんて口が裂けても言えまい…ということは想像に難くないだろう。

貴族はメンツと見栄を気にする生き物だ、侯爵家たるQueenの家やJackの家だとしてもかなり不味いと言える。


そして、私から見た際に問題となるのはここから。何を隠そう、我が婚約者どのが赤の最有力Joker候補であること、私がKの家出身攻略対象であるというところだ。

主人公が誰を選ぶかにもよれど、赤のJokerになるハッピーエンドに辿り着かれてしまえば、私はトロフィーの如く移されることが確定している訳である。

《用語》

1鐘間:この世界特有の1時間を表す単位。

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