本の紹介15『世界文学をどう読むか』 ヘルマン・ヘッセ/著
本を愛する作家が残した良質な読書案内
この本はよく読み返すので、本棚に仕舞わず机やソファなど手に取りやすい場所に置いています。著者は「車輪の下」や「デミアン」などの作品を残した文学作家のヘルマン・ヘッセです。
タイトルから世界文学の紹介本と思われるかもしれませんが、単に古今東西の文学作品を紹介するだけに止まらず、私たちがどのように読書と向き合うべきか、読書への心構えを綴ったエッセイとなっています。
「真の教養はなんらかの目的のための教養ではない」という一文から始まる本書は、読書がなんの役に立つのか、人はなぜ読書をするのかという、多くの人がぶつかるであろう疑問に真摯に、そして時にユーモラスに返事をしてくれる良質なガイドブックとなっています。
子供の頃に大人からあれを読め、これを読めと有名な文学作品を押し付けがましく勧められると、往々にして読書が辛いものに感じられて、本から遠ざかる結果となってしまいます。この点、ヘッセは有名な作品を読みなさいとか、たくさんの本を読みなさいなどとは説きません。大切なのは自分が自然に読み進めることのできる作品と出会うことであり、そのための心構えがどのようなものであるのかを示しているのが本書の特色です。
読書をする者は義務の道ではなく、愛の道を歩まねばらないというのがヘッセのスタンスで、その点について説明するくだりは特に興味深く読み物としても一級品です。何を読めばわからないという人だけでなく、普段から読書をしながらも、ちょっとマンネリ気味だ、飽きてきたなと感じる人にもお勧めです。読書の壁にぶつかった時に読み返すと読書への意欲がこんこんと湧き出ること請け合いです。
巻末には世界文学書目表として、ヘッセが本書で取り上げた作品が目録になっており、文学作品のガイドブックとしてに読むこともできます。さまざまな国の文学について触れられていますが、作品に対するヘッセの注釈が面白く、その作品をちょっと読んでみたいなという気持ちにさせてくれます。読書の指針が定まらない時は、ヘッセの文章を読んでちょっと気になるなと思った作品にまず手を出してみるのも良いと思います。そうして気に入った作品に出会うことができたら、なぜそれを良いと思ったのか心の中で反芻し、そこを手がかりに次に何を読むか決めるようになれば幸福な読書体験への道が開けると思います。
もちろん、ヘッセが取り上げた作品を全て読むべしということではありません。生き生きとした読書に必要なのは
、まずは自分自身を知り、そしてそんな自分に合った本を知ることです。ある作品が有名だからとか、読んでいないと恥ずかしいからという理由で読んでも長続きはしないという旨が本書では語られています。自分に合った作品、自然だと感じる作品を探り当てることが大切なのですが、そのための道筋は試行錯誤を繰り返して自分なりに確立していくしかありません。
本を読む時、これがなんの役に立つのかをついつい考えてしまうことがあります。役に立つと思えない場合には、途中まで進めていた読書を投げ出してしまうという人もいるかもしれません。しかし、読書にとって大切なのは、読書している時間そのものが楽しいと感じられることではないでしょうか。そういった時間をもたらしてくれる本を見つけること、そのために自分自身の好みや考え方を見つめ直す時間を設けることが、幸せな読書・幸せな人生に繋がっていくのだと思います。終わり




