第9話 縁日
今日は縁日があったので行って来ましたw
一人寂しく(ぉぃ
「おい!縁日に行こうぜ!!」
突然だが今日は縁日である。
昼のお客様を捌き切った直後に来店したアーべから縁日に誘われた。
突然なので店を急遽閉める訳にもいかない為、銀子さんに相談することにした。
「え?縁日?行く行く!!」
と、物凄い乗り気でのんびりとコーヒーを飲んでいた常連を追い出して奥から何着もの浴衣を引っ張ってきては店の鏡の前で一人ファッションショーをしている。
常連に物凄く申し訳ない気持ちになりながら頭を下げると「いつもの事だから気にしてないよ。」と笑顔で去って行った。しかしお金は払わず。
流石に追い出した手前請求出来ないのでもしかしてそれを狙ってるんじゃ…。と邪推もしたがまぁ、悪いのは此方なのでなんとも出来ず…僕は嬉しそうに浴衣を着替える銀子さんを眺めた。
夕方、日も暮れて祭り独特の空気が辺りを包み込む。
元の世界でも良く見たかき氷に焼き鳥、たまごせんべえ、りんご飴に綿飴や射的など様々な露天を銀子さんと並んで歩く。
銀子さんは長い銀髪を結い上げて普段とは違う衣装を身に纏っている為か隣に立つだけでドギマギしてしまう。
手には綿飴、イカ焼き、りんご飴、ヨーヨーにフランクフルト、たこ焼きにチョコバナナと器用に両手で総て持っている銀子さん。
頭にはお面が被さっており、幸せそうに綿飴を頬張る彼女は何時もの凛々しい顔付きとは違ってとても新鮮だった。
僕の手には先程出店で買ったラムネが握られており、僕の隣にいたはずのアーべは早速ナンパへと勤しんでいる。
こんな所まで来て何をしているのかと注意したのだが彼は「ナンパせぬは男にあらず!!このリア充がぁっ!!」と訳の分からない事を叫んで涙を流して走り去っていった。
ちなみに祭りに行くと大概のカップルが多いよね?僕だけだろうか?そう思うのは…。
まぁ、戦果は芳しく無いのか所々に声を掛けては撃沈していくアーべに思わず苦笑してしまう。
「あ、ゆーくん、今度はあれ食べようよ。」
銀子さんはマイペースに次の獲物(焼きソバ)をロックオンすると僕の手を引っ張っていく。
なんか気分は祭りに無理やり連れて来られたお父さんの気分だ。
祭りの醍醐味といえば、なんと答えるだろうか?
踊り?花火?それとも恋人達の語らい?
「偉い人は言いました。祭りの醍醐味は仲の良いカップルを引き裂くことだとっ!!」
「と、言う訳で…」
何やら覆面を被った変態にいきなり肩を掴まれ…
「我等の嫉妬魂を受けるが…どぅわっ!!」
投げられそうな所を投げ返した。
まぁ、馬鹿は放って置いて祭りの醍醐味、個人的にはやはりその場の空気というか活気と言うか…まぁ、雰囲気が一番好きなのである。
天に咲く華に踊る阿呆。
楽しそうにそれらを眺め、徳利片手にチビチビと酒を飲むのが一番好きなのである。
ガヤガヤと騒がしい街の中心で大きな篝火が灯されていた。
その篝火を囲む様に人々が思い思いに踊っている。
僕らは近くの芝生に並んで座ってそれを眺めていた。
「あら、今年は盆踊りなのね。」
銀子さんは何処からか徳利を取り出して既に一杯、吞んでいる。
頬は上気して艶っぽい空気を出しているので結構吞んだようだ。
僕は溜め息を吐き、銀子さんの手から徳利を奪い取る。
「あ~!何をするのよぉ~!」
「幾ら何でも吞み過ぎです。」
「ぶぅ~…。」
奪い取られた徳利を取り返そうと腕を伸ばす銀子さんにから庇う様に徳利を隠すと銀子さんは子供の様に頬を膨らまして拗ねてしまった。
思わず笑みが浮かんでしまい、それを隠す為に徳利を口元に運んで中身を一口飲む。
喉を焼くアルコールに思わず顔が少し歪んでしまう。
「ふふふ~、子供にはまだ早いわよ~。」
悪戯っ子の様な笑みを浮かべて僕から徳利を取り返した銀子さんはそのまま中身をきゅーっ、と飲み干して僕に寄りかかる。
お酒を飲んで少し体温が高くなったのか汗ばんだ銀子さんの身体から僅かな酒気とちょっぴり甘い匂いがして少し鼓動が早くなる。
「ん…。」
もぞもぞと銀子さんは動くとそのまますぅ、と寝息を立ててしまった。
肩に掛かる銀子さんの重みを感じつつ、空を見上げる。
今日の祭りでやはり前の世界の事を思い出してしまう。
何処か似ている為か余計にそう感じてしまい、思わず涙が出そうになる。
「…帰りたい…のかな…。」
ポツリと呟いた言葉は誰に聞かれることも無く祭りの熱気に溶けた。
リア充はもげてしまえぇぇっ!!(泣