第18話 ぷれぜんと。
時事ネタをば投稿をw
「店主!!」
慌てた様子で入ってきたラニアス。
すわ何事かと振り返ると彼は見事なスライディング土下座で大声を張り上げる。
「すまない!!手を貸してくれぇっ!」
今日は恋人の居ない男共には苦痛の日である。
そう、クルシミマスだ。
あ、違った、クリスマスだ。
街は魔法で様々なイルミネーションが描かれており、店内もクリスマス仕様に彩っている。
まだ昼だというのに店内にはいい雰囲気のカップルが多数。
それを嫉妬の眼差しで店外から眺める男共多数。
クリスマス用のカップル専用のメニューが密かな人気を呼んでいるらしく、今日は常連はその空気に中てられたのかそそくさと帰っていく。
厨房は今はその専用メニューを作る為に忙しく、店内もルナちゃんと臨時で雇った学生のバイト二人で回している状態である。
因みに銀子さんは厨房で料理の盛り付けをしている。
ある程度捌ききって夕方に一段落着け、晩に備えての準備をしている頃に…ラニアスがやってきたのだ。
「…で?」
問う銀子さんの声は若干不機嫌である。
まぁ、一段落着いて、これから夜に備えてって時にあんなスライディング土下座をされたのだ。
内容がくだらなかったらわかってるんでしょうねぇ?と言わんばかりの眼光である。
ラニアスはそんな銀子さんに目もくれず必死に伝える。
…ラニアスにとっての事の重大性を…。
クリスマスといえば?
まぁ、一般的に思い浮かべるのは七面鳥の丸焼きやケーキ。後はツリーにサンタクロースであろう。
…皆も憶えは無いだろうか?
子供の頃、純粋にサンタを信じ切っていたあの若き記憶を…。
…まぁ、何が言いたいかと言うと…
「…娘がな…まだサンタクロースを信じているのだよ…。」
ポツリと呟いたラニアスの言葉に盛大に固まる僕と銀子さん。
ルナちゃんは?マークを頭に幾つも浮かべている。
忘れているかもしれないがラニアスの一人娘、ララちゃんは人間とドラゴニアスのハーフである。
幼い故に自分の力加減があまり出来ておらず、時折感情を爆発させるとそこら中を蹂躙する程度の力は持っているのである。
昨年までは願い事も甘いお菓子や可愛いリボンだったりと微笑ましい物だったのだが…
「今年の欲しい物はな…その…。」
ラニアスにしては珍しくごにょごにょと言い澱んでいる。
何かピン、と来たのか銀子さんはラニアスの耳元に囁くとラニアスはちらりと此方に視線を送り…
「…すまない、銀子さん…その通りなんだ…。」
がっくりと項垂れたのである。
何が何やら解らない僕を置いてけぼりに二人はコソコソと話を進めていく。
蚊帳の外の僕達はどうする事も出来ず…二人目を合わせて首を傾げるのだった。
夜の営業も終わり。
店内の後片付けをしている途中、ドアベルが鳴り響く。
「すいません、店はもう閉めて…って悠人さんにラニアス?」
目の前の珍しい二人組に何となく…そう、何となく嫌な予感を感じて僕は後退さる。
「あら、二人ともいらっしゃい。」
素敵な笑顔で出迎える銀子さんに更に不安感が募る。
ラニアスは何処かオドオドとしており…悠人さんは…何時も通り無表情で解らない。
背後の銀子さんは物凄く楽しそうな笑みを浮かべており…ってあれ?
思い出したのは夕方の出来事。
スライディング土下座をしながらやってきたラニアスはまず何と言っていた…?
『店主!!』
『すまない!!手を貸してくれぇっ!』
… ま さ か っ !
はっと銀子さんに振り返った瞬間、後頭部に衝撃を受けて僕の意識は暗転した。
翌日、上機嫌なララちゃんの笑顔を見ながら僕は目を醒ましたのだ。
…視界の端に映るラニアスの申し訳なさそうな表情に僕は溜め息を吐くしかなかったのだった。