第16話 影が…薄い。
果たして覚えている人はいるのだろうか?
ルナちゃんが入ってから数日、あれから目立ったミスは…ありまくったけどそれの後処理も業務の一部に入る程度に慣れた頃。
ピコピコとネコミミを動かしながら女性がカウンター席に着席するのだった。
「やっほ~。」
ぽわぽわとした空気を醸し出すその人物は皆覚えているだろうか?
少し頭の弱い冒険者…キュリエルさんである。
猫の獣人である彼女はその独特な空気も相俟ってとても冒険者には見られない。
本人に言うと機嫌を悪くしてしまうがその怒った表情も怒っているように見えないので迫力も何もあったものじゃない。
しかしその見た目に反して彼女は前衛職を務めるCランクの冒険者である。
武器は腰に提げたレイピアみたいな細剣を操るのだ。
一度剣を振るっている所を見せてもらったが何故Cランク程度で収まっているのか不思議な腕前だった。
まぁ、理由は…
「そう言えばまたランク試験落ちちゃったよ~…。」
「あはは…やっぱり…筆記ですか?」
「うぅぅ…どうせ私はおばかですよ~…。」
そう、試験である。
Bランク以上の試験から筆記科目が増えてくるのだ。
Bランク程の依頼となると依頼主が地方の領主だったり、気難しい人だったりとある程度の礼儀、マナーがなっていないと依頼主とのいざこざの原因となるのである。
その為に常識問題やマナー、礼儀作法の試験が出来たというわけだ。
まぁ、そういう教養は無くて困るものでは無いし、更に上のランクの冒険者になると王族やギルドマスター等のお偉方を相手にする事もあるので更なる教養を要求される事もあるのだ。
「うぅ…礼儀作法は大丈夫だけど…常識問題がぁ…」
カウンターで項垂れるキュリエルさんに苦笑しながら彼女の前にアイスティーを置く。
それをストローでちゅー、と吸い上げる様は色気も何もあった物じゃないけど…マイペースな彼女らしさが滲み出ていた。
『主!主!我を忘れるでない!!』
閉店後、久しぶりに倉庫整理をしていると、樽に放り込んでいた刀がガタガタいっていた。
…取り敢えず近所迷惑になるので樽に蓋をして上に重石を載せておいた。
『お、おい!主!!出さぬかっ!!』
何か聞こえたけど僕は敢えてそれをスルーし、何事も無かったかのように作業を再開するのだった。