第14話 オカマと猫娘、来襲。
皆様、ご心配をお掛けして申し訳ありませんでした。
暫く事故の怪我の治療とPCの修理でデータが全て吹き飛んでおりました。
一応一段落着いたので更新します。
東北の地震、津波で亡くなられた方のご冥福をお祈り申し上げます。
カラン、とドアベルが静かな店内に響き渡る。
グラスを拭いていた僕はドアに視線を向けて…すぐさま視線を逸らした。
「い…いらっしゃいませ…。」
何故目を逸らしたかって?それは…
「あらぁ、ゆうちゃん…お久しぶりねぇん♪」
筋骨隆々な大男が俗に言う女物のビキニアーマーで来店したからだ。
「きょ、今日は何にします…?」
クネクネとモデル歩きする大男に吐き気を堪えながら引き攣った営業スマイルで注文を取る。
彼(?)はカウンター席を陣取ると「そうねぇん。」と呟き…
「うふっ、ゆ・う・ちゃ・ん・が・ほ・し・い♪」
「なぁ、カマール…殴っていいかい?」
営業スマイルが般若に変わったのは言うまでも無かろう。
「もう、冗談なのにぃ…でも激しいゆうちゃんも魅力的だわっ☆」
あれから僕の拳をひょいひょいと事も無げに避けるカマールに僕は諦めて彼がいつも頼むホットドッグを作り、カウンターに置く。
それを口に入れながら僕を茶化すカマールに少し息の切れた僕は落ち着こうと水を一口含み…
「そういえばアーべは来てるのかしら?」
ふとカマールが口にした人物に思わず水を吐き出しそうになった。
「ゴホッ、ゲホッ!」
「あらあら、慌てすぎよ?」
思わず咽る僕にカマールは優しく背中を擦ってくれる。
…基本的に良い奴で、個人的には好感が持てる奴なのである。
「早く愛しの彼に会いたいわぁ…」
これがなければなのだが。
そう、コイツはバイセクシャルなのである。
因みにロックオンされたのはアーべである。
本人に聴いてみた所…何やら運命的なモノを感じた。とか。
その後の僕を舐める様な目で見て来なかったら心から安心出来たけどねっ!!
結局5時間程してからカマールは帰っていった。
時たまやってくる冒険者に向かって「ウホッ、イイお・と・こ♪」とか言った時は思わずお盆を投げてしまった。
ちなみに彼が食った冒険者は暫く冒険者稼業が出来ないほどの男性不振に陥るらしい。
何故とは聞かない…恐らく牡丹の花が落ちる光景と悲鳴を連想すれば判ると思う。
まぁ、取り敢えず悪魔は去った。
僕は気を取り直してグラスを拭く作業に戻ろうとして…
「あややややぁ!!」
ドンガラガッシャンと大きな物音と共に店の椅子や机を巻き込み来店してきた少女に溜め息を吐いた。
「はい!こんにちわー!こんばんわー!」
異様に高いテンションに向日葵の様に爽やかな笑顔…少し外に跳ねた肩ほどの赤髪に左頬にある一文字の切り傷。
少し釣り目なその青目を細めて本人曰くチャームポイントな八重歯を見せながら元気良く片腕を伸ばして立ち上がる獣人の少女は何事も無かった様にカウンター席に着くとバンバンと机を叩いて僕を見上げる。
「マスター!カミュをくれ!!」
「酒なら酒場に行け。」
少女の言葉に僕はそっけなく返すとうぅむ…。と唸りだす少女。
すると次は何を思い付いたか…
「ならマスター!ミルクを!!」
「…ほら。」
「わぁーい!!」
返って来るであろう言葉が返って来たので彼女用に少し温めのミルクを差し出す。
それをゴクゴクと一気に飲み干した彼女はぷはぁ~、と少女らしからぬ動作でカップを机に置くと尻尾をフリフリ…
「マスター!もう一杯!!」
「…はいはい。」
次を催促するのだった。
目の前で上機嫌に焼き魚を突いている少女は最近この店にやって来たのである。
初めは猫被っていたのかとても大人しそうな子だったのに仮面が剥がれたと思ったらこんな感じで来るようになった。
そんな事をぼんやり考えながらグラスを拭いていると…
「うぃ~っす。」
何時もの様にやる気の欠片も無い声でアーべがやってきた。
「マスター、何時もの~。」
アーべは何時も通りカウンター席に腰掛けると何時もの様に注文をする。
「はいはい。」
こっちも慣れたもので何時もアーベが注文するエールにつまみをいそいそと用意する。
まぁ、何時もツケで払うわけなのだが…
ふとアーべの隣に座っている少女に目線を送る。
彼女はアーベが来た途端にしおらしくなり…チラチラとアーべをチラ見しているではないか。
アーべはそんな彼女に気付かず…
「今日はホントに疲れたよ~…パーティの奴ら、新人に何期待してんだか知らないけどよぉ…。」
と愚痴を零しながらチビチビとエールを飲んでいる。
僕は黙ってグラスを拭きながら適当にアーべの相手をしていると、アーべは言いたい事は言い切ったのか深い溜め息を吐いて…
「あぁ、ごめんねマスター…何時も愚痴っちゃって…で話は変わるけど…」
「あぁ、はいはい…次はちゃんと払ってね。」
「さっすがマスター!分かってるぅ~♪」
鼻歌を歌わん勢いでそのまま退店するアーべ、慣れた僕もつい適当に流したがこれは何時も通りツケでお願いと言う事だ。
ふとアーべが去った後少女を見ると…矢鱈と興奮した表情でアーベが口にしていた食器を舐めていた。
「はぁ…はぁ…アーべ様ぁ…」
もうそれは発情期真盛りの猫の如く。
頬を紅潮させてうっとりとした表情でアーべが座っていた座席にスリスリと頬ずりをする始末。
僕は取り敢えず彼女の唾液でベトベトな食器を水を張った盥に付けて万能消毒液を放り込むのだった。