第10話 エアーマンが…倒せない!!
題名とはあんまり関係ない。
今日は、何故か視線を感じる。
何時もの様にグラスを拭いていると何処からか視線を感じる。
なんというかこう…嘗め回すような視線?
思わず背筋が冷えてしまった。
気を取り直すように拭いていたグラスを棚に片付けて自分の昼食用に作ったサンドウィッチを一つ摘んで口に放り込む。
サンドウィッチを咀嚼しつつ、カウンター裏の冷蔵庫からミルクを取り出してグラスに注ぐ。
行儀が悪いがまぁ、いいだろう。と自分を納得させてカランと鳴ったドアベルに視線を向ける。
「いらっしゃいま…あれ?」
取り敢えず口の中の物を飲み込み、来客を迎えようとして違和感に気付く。
「誰も居ない?」
確かにドアベルは鳴った。
しかし肝心の来客の姿が見えない。
ふむ。と僕は思わず唸ってしまう。
「…あ、あの…。」
と、物凄く小さな声が近くから聞こえた。
キョロキョロと辺りを見渡すが影も形も見当たらず、首を傾げる。
「あ…こ、ここ…です…。」
取り敢えず声が聞こえた辺りまで行こうとカウンターから出て店内を歩き回り…
「きゃぅ!」
「うわっ!?」
何かにぶつかった。
「いやぁ、気付かなくてごめんね?」
「い、いえ…何時もの事ですから…。」
ぶつかった何か…彼女はどうやら獣人らしく、名前をルニカ・トゥリィトと言うらしい。
僕の胸ぐらいの身長で翠の前髪が彼女の顔半分を隠してしまっていて少し暗いイメージを持ってしまいそうな少女である。
あれだけ鮮やかな髪なのになぜ気付けなかったのか、と思わず唸ってしまう僕に彼女はおずおずと口を開く。
「わ、私…すごく…空気だって…み、みんなから…褒められて…ますから…。」
…それって褒めてるの?
思わず聞き返そうとしたけど何か本人が誇らしげに言っているので言わないで置こうと思った。
ので、話題変換も兼ねて取り敢えず注文を聞くことにした。
「そ、そうなのかい…それじゃあ注文は何にする?」
「え…えっと…あの…その…。」
ビクビクと此方の表情を伺うルニカに苦笑を浮かべてメニュー表を差し出す。
「…言い難かったらここから指差して選んでくれたらいいよ。」
「あ…はい…それじゃ…これを…特盛で…」
指差したメニューはちょっと前にふざけて創った激辛カレーの特盛。
「…これ、すごく辛いけど…大丈夫?」
過去に一度アーベに無理矢理食べさして病院送りにしたカレーである。
とてもじゃないがルニカみたいな子が食べれるものじゃない…と思う。
「だ…大丈夫…です…」
「そ、そう…分かった…少し待っててね?」
まぁ、本人が大丈夫って言ってるし…メニュー表にも自己責任って書いてるから…大丈夫…だよね?
「お待ちどうさま。」
持ってきた激辛カレーを彼女は受け取ると行儀良く手を合わせて「いただきます。」と言って食べるのだった。
この姿を数十分前の僕に見せてやりたい。
淡々と…激辛カレーを処理して行く姿に僕は戦慄した。
「…大丈夫?辛くない?」
「へ…平気です…」
もくもくと食べる彼女の姿はリスみたいで可愛いのだが…食べてる物が食べてる物だ。
しかも特盛。
学生達の罰ゲームとして使われる程のメニューなんだけどなぁ。と頭を掻いて一心不乱にしかも汗一つ掻かずに食べる彼女を見て鍋に少し残ったカレーを舐めて見る。
「…辛っ!」
慌ててさっき出したミルクを口に流し込んで辛さを中和する。
ちらりとルニカに視線を向けるとそれはもう幸せそうにカレーを頬張っていた。
「…ご馳走様でした。」
空になった皿とスプーンを僕に返してくれるルニカ。
その顔は満ち足りており、美味しかったです。と笑顔でお礼を言われてしまった。
僕は苦笑してお粗末様。と返してグラスを拭く作業を始める。
すると彼女はニコニコと…
「…ま、また来ますね…あ、あと、お腹が…空きすぎて…サンドウィッチ…勝手に食べちゃって…ごめんなさい…。」
「ん、またおいで…ってサンドウィッチ…?」
ふと僕の昼食用のサンドウィッチの更に目をやる。
作った分は4つでその内皿にはもうサンドウィッチの影も無い。
そして僕が食べたサンドウィッチは…一つだけ…あれ?
「は、入ってから…き、気が付いてくれませんから…ドアを…もう一回…開けました。」
「あ、あはは…。」
僕はただ苦笑するしかなかった。
これうpしたら寝ます。