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B-23

ブラック・バード  

作者: あQ

 街の商店街に言葉を喋るカラスがいた。漆器を売っている店の前の電線にいつの間にか止まるようになり、通りゆく人に、おはよう、とか、こんにちは、と声を掛けていた。元来、オウムのように言葉を喋る動物ではないカラスが言葉を喋る事に、周りに住む人や、彼に声を掛けられた人は不気味さ、不吉さを感じていた。しかし、この事が人伝に知れ渡り、街の掲示板にこの鳥の存在が書かれるようになると、警察や役所、保健所の人間が来て、さらには地元のテレビ局がやって来た。そしてその後すぐに東京の方からもテレビ局の取材が来ると、いよいよもって、この鳥も人々に好印象を与えるようになった。その取材に同行していた専門家によると、このカラスは人間に飼われていた可能性が高く、通りゆく人に声を掛けるのは、そうすれば餌がもらえると思っているからだという。人に飼い慣らされているのならば、ゴミをあさったり、人を襲ったりしないだろう、という専門家の血統書付きの見解を得ると、カラスは一躍街の人気者になった。

 夕方にもなると小さな子供を連れた親子が大勢見物のためにやってきて、餌をばらまいたり、カラスの声を聞いて喜んだりした。さらには訳の分からぬ地元の地名を掛け合わせた呼び名でカラスを呼ぶようになった。

 しかし半年もすると元々嫌われ者の存在だったカラスは飽きられ、漆器屋が餌をあげる係となったが、この店が経営不振で潰れると、とうとうカラスは一人になり、遠くの場所へ飛んでいった。

 カラスが着いたのは、前にいた商店街から遠く離れた、ひとけのない公園だった。そこへ学校帰りの小学校低学年の少年が通った。偶々道草をしようと遠回りで来たところに例のカラスが電灯の上に座っていて、おはよう、と声を掛けられた。少年は驚いた。と同時に、その不思議な鳥に多大な興味をもった。この鳥は僕だけの秘密だ、そう思うと自分が他人よりも凄い人間であるかのような錯覚に陥り、大変満足だった。少年はランドセルから給食の残りのパンを地面にちぎってばらまいた。カラスは下に降り、それをつついた。

 「今日からお前は俺の子分だからな」

 少年は得意気に言った。

 それからというもの、少年は公園に行った時に声を掛けられる、おはよう、が楽しみで、学校帰りに毎日ここを訪れ、給食の残りをあげ、カラスと話しをした。

 少年には友達がいなかった。机の中に変な物を入れられたり、靴を水で濡らされたり、学校ではいじめられて、またそれをどうすれば良いのかさえも少年には分からなかった。学校教育に植え付けられたいじめに対する妙な罪悪感が少年を縛っていた。ただ、このカラスに会っているとその愛らしさに心を和ませられ、少年は嫌な気分を忘れられるのだった。そしてカラスには自分の事を打ち明けるのだった。

 「なあ、おれはどうすればいいんだ?」

 少年の目は潤んでいた。カラスはパンをかじり、時たま少年の方を見ては首を傾け、ぎいぎいと喉を軋ませ、こんにちは、と言った。

 しかし、いじめはその後ぴたりとやんだ。自然な成り行きだった。いじめっ子の標的が彼の勝手な気分で他の子に移ったからだった。

 つっかえ棒がなくなったそれからというもの、少年はクラスに打ち解け、友達と呼べる仲間ができた。少年は一人でいる時間よりも友達と過ごす時間が多くなり、カラスに会いに来る事もいつしか忘れてしまった。


 その後カラスは腹を空かせたあまり、慣れていないゴミあさりを始めた。しばらくはそれで食いつないでいたが、やはり野生の本能が衰えていたのか、不意なところを野良猫に襲われた。格闘して藻掻いた末に、彼の羽は飛び散り、内蔵が飛び出て、彼は死んでしまった。道路の隅に黒い塊となって死んだ、このカラスを誰が言葉を喋るカラスと分かっただろう。

     (完)

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