主婦 新たなフィールドへ行く
ボス戦後、新たなフィールドが解放されていた。
~ルナ・ウェーブ~
星が白く輝き、淡く光る三日月が夜空に浮かぶ。
海が広がるその先には、砂浜と高級ホテルと思われるビル群、コンクリートの道に街灯とヤシの木が均等に配置された、南国のようなリゾート地に似ている映像が流れている。
波の音とウクレレの軽やかなBGMがヘッドホンから聞こえてきた。
麻耶と藍里のアバターは、大きな噴水がある広場にワープした。
広場をぐるりと囲むように武器屋、道具屋、役所、拠点となる拠点に繋がるマンションが建ち並んでいる。
どの建物も南国リゾートを意識した商業施設の外観になっていた。
前回のフィールドが中世ヨーロッパに似たような場所だったため、その変わりように呆然とする。
エルフみたいに美しい剣士や、筋肉ムキムキの盾を背負った屈強な戦士、背が低いドワーフみたいな魔法使い。
ルナ・ウエーブは前の町よりはるかに上回る数のプレイヤーが集まっており、画面のあちこちでアバターの吹き出しが表示される。
『すごいわね。レイヤーが多い』
『まるでリゾート地です。映像も綺麗ですし、ワクワクしますね』
2人は装備を強化するため、武器屋へ向かう。
フィールドが変わると、装備もレベルが高くなり、それに伴って金額も跳ね上がった。
ニケは白のローブで防御力が高いものを、魔法の攻撃力を上昇させる能力がある黒のレザーアーマー。
レザーアーマーにアクセサリーが付けられるようになっていたが、今回は購入しなかった。
魔法杖も木の枝から、先端に透明な水晶がついたものに変更し攻撃力も上がった。
数値的には強くなったが、資金は残りはわずかだ。
武器屋から出ると、アテナも新しい装いになっていた。
銀色のマキシミリアン様式の胴のアーマーに膝丈の白いフレアスカートを合わせており、すらりとした足もシンプルなニーハイブーツを履いていた。
『どうだ? かわいいでしょ』
藍里はゲーム内でもセンスが高い。
最初のキャラメイクでもアテナのビジュアルにはこだわっていた。
藍里らしいと笑ってしまう。
今回は2人だけの行動だったため、気になっていたミニゲームのあるゲームセンターへと向かう。
〜ルナ・ウェーブ〜にはミニゲームがあり、射的にスロット、ボーリング、魚釣り、夏祭りのようなラインナップだった。
ミニゲームでは、獲得した点数によって景品がもらえる仕組みになっており、景品に武器もある。
ゲームセンターに入って早々に、アテナは「残った資金を増やす」と言い、スロットをやり始めた。
(まるで、ギャンブラーだ……)
麻耶はいつかのドラマで見た登場人物を思い浮かべ、アテナがスロットに向かうのを見送る。
そして景品のスナイパーライフルがある射的に向かう。
――――――
500点:スナイパーライフル
300点:アクセサリー
100点:薬湯20個
――――――
(残りの資金は2000円、射的は1回200円か)
200円を投入した。
画面が変わり、劇場の様な場所に城と手前に森を模した張りぼてと、赤く丸い照準が出現した。
制限時間は60秒。
蝙蝠、蜘蛛、お化けなどハロウィーンの雰囲気に似ている的は1点から20点の範囲で動きながら出てくる。
ゆっくり動いてでてきた的を、連射で順調に撃ち抜き、的を砕いていく。
(よし。250点突破!)
しかし、250点ぐらいからは出てくる点数も30点から40点と高くなったが的が速くなり、撃ち抜けない。
さらに左右からランダムに、しかも的は小さくなっていく。
(なんとか、450点!)
しかし、残り50点で城の前に一番大きいヴァンパイアの的が現れる。
あと5秒で撃ち抜かないといけない。
1点集中で連射したが、ヴァンパイアの張りぼては真ん中だけに穴を開けただけで、砕けなかった。
制限時間の表示は00:00となり、合計は450点。
300点までの景品はもらえたが、どうしてもスナイパーライフルがほしい。
珍しく意地になった。
もう一度、200円を投入する。
再び450点になり、ヴァンパイアの的はなかなか砕けない。
今回も500点に届かなかった。
3回目、4回目と挑戦するが徐々に点数が落ちてゆく。
集中力が落ちて目も疲れてきた、だがスナイパーライフルが欲しい。
麻耶はデスクの引き出しから目薬をだし、両目に点眼する。
(よし!! 目もスッキリした)
これで最後にすると決意し、5回目に挑戦する。
(450点、順調にきた。ヴァンパイアの的のみ)
ヴァンパイアの的が現れた。
どうにでもなれと思い、連射でヴァンパイアを全体を撃つ。
残り3秒。
『砕けて~』
本気になりすぎて、声が出てしまった。
すると、残り1秒でバァァンと的が砕けた。
『やった!!』
麻耶は嬉しすぎて、ガッツポーズした。
『ニケ、何やってるの?』
アテナの声でハッとする。マイクを着けていたため声が丸聞こえだったのだ。
『いや……あの……、射的で最高得点に到達しました』
恥ずかしすぎて、声が小さくなる。
顔も真っ赤だろう。
『えっ、すごっ!! なにが貰えたの?』
『スナイパーライフルです。お金がなくて買えなかったので……どうしても欲しくて、5回も挑戦してしました』
『……この前も思ったけど銃への執念がすごいわね』
藍里の呆れた声が聞こえた。
ーー確かに、仕事ならまだしも、物に対して執着した事は少ない。
そうかなと思いながら、藍里の結果が気になった。
『スロットはどうでしたか?』
『……聞かないで。お願い』
『……まさか全額……?』
『溶かしました……』
『…………』
ギャンブラー藍里、ここに降臨。
リアルでなくて良かったと思いながら、ワンワンと嘆く藍里をなだめる。
新たなるフィールドの〜ルナ・ウェーブ〜は人に解放感を与え、歓喜を呼ぶが絶望を呼ぶ場所だった。
そして麻耶は、藍里の八つ当たりと言う名のモンスター討伐に、連れて行かれたのだった。