主婦 リベンジして仲間ができた。
テレビの前で藍里は焦った。
(マズイ……。まだ【カウンター】はできない。回避するか。)
藍里は、コンボ技をメインで戦ってきた。コントローラーの1のボタンを押していくと、剣のコンボは派生していく。
最初は簡単だった。ボタンを押していれば、コンボは簡単にできる。
回避し、盾で受けて、ボタンをタイミングよく押す。
しかしモンスターのレベルが上がってくると、それだけではモンスターを倒せない。
藍里は負けず嫌いだ。
自分が【カウンター】をできないことが、悔しかった。
(この歳で、こんなに悔しい思いをするなんて)
藍里の沸点は低く、すぐに怒りやすい。
たかがゲームされどゲームになっていた藍里は、やけくそになった。
(ふざけんな! 私もやってやるよ!!)
『なめんなよ!! 犬っころ』
シルバーウルフが飛び、尻尾を叩きつけてきた。
その瞬間、藍里が回避ボタンを押した。
アテナの回避モーションが遅くなり、盾が尻尾の攻撃を横にいなしながら弾き返し、レイピアの赤く、力強い一突きが入った。
シルバーウルフは「キャン」と鳴き、吹き飛ばされた
『よくやった!! アテナ殿。チャンスだ』
ソルジャーの連続切りがあらゆる部位を切り、アテナの突きが頭に入る。
そして麻耶はニケの武器をマシンガンに切り替えた。
マシンガンは高速連射である為、ニケはその場で撃ち続ける。
『今までの恨みで〜す』
藍里のヘッドホンからは、麻耶の楽しそうな声が聞こえた。
聞いたことない麻耶の声に藍里はギョッとした。
今は戦闘に集中しなければと、藍里はゲーム画面に集中する。
しかしカウンターを成功させ、攻撃のチャンスを作った藍里の表情は誇らしげだった。
ソルジャーのコンボ技が決まり、ニケのマシンガン攻撃でシルバーウルフは倒された。
トランペットのファンファーレが流れ、クエストクリアの文字が、3人のゲーム画面に表示された。
クリア後の家では、お祭り騒ぎだ。
ニケとアテナは、【バンザイ】のジェスチャーをしている。
『お疲れ~。倒せたけど疲れた~』
『アテナ殿、ニケ殿、よくやった。アテナ殿のカウンターも見事であった』
『ありがとう。ところでニケ、その銃はなに!? すごかったんだけど』
『マシンガンです。一目見た時から欲しかったので、頑張って手に入れました』
ニケの周りに花が見えるほど、麻耶の喜んでいる声が聞こえる。
マシンガン欲しさに、クエストをやりまくったんだなと容易に想像できる。
麻耶の頑張りが見えた。
『アテナ殿のキレっぷりも、凄かったな』
『アテナはギャルで不良でしたから』
『なんと!! そうであったか』
『アテナとは高校時代に出会ったんですが、ギャルの格好で他校の生徒と殴り合いの喧嘩をしてましたね』
ソルジャーは笑いながら、麻耶の昔ばなしを聞いていた。
藍里は恥ずかしくなり、話を変えようとソルジャーに話を振る。
『ねぇ、ソルジャーはレベルが上なのに、攻撃力がでてなかったような気がするんだけど?』
『あぁ、それは、おぬしらのレベルに合わせて、レベル20の武器を装備しておったからな』
『『え゛っ…………』』
『強い武器で戦ったら、瞬殺してしまうしな。おぬしらのためにならんじゃろ。ハハハハハ』
ソルジャーの言葉に麻耶と藍里はドン引きだ。
((なんて、人だ・・・))
『チームプレイもまた違った戦い方で、いいものだった』
『ソルジャーさんは、いつもシングルプレイなんですか?』
『うむ。この姿のせいなのか、戦い方なのか、他のプレイヤーたちと合わなくてな』
確かにアバターに麻耶はびっくりした。
プレイヤーのほとんどが頭部の装備はつけていても、見えないように設定している。
初めて見たときは、腰を抜かしそうになった。ビーズクッションからずり落ちたが。
なんせ頭部が、兜に面頬だからビビった。
しかし、麻耶はソルジャーに好感を抱いている。初心者の私たちに親切だからだ。
単純である。
『あの……、ソルジャーさんが良ければなんですが、私たちのギルドにの仲間になってくれませんか?』
『……良いのか?』
『私からもこのギルドのリーダーとしてお願いします。私たちだけではシルバーウルフは倒せなかった。ソルジャーの力が必要なの!!』
ソルジャーにニケとアテナは【お辞儀】のジェスチャーでお願いをする。
束の間の沈黙に、2人は緊張する。
『こちらこそ、頼もう。ギルドに加入させてほしい』
ソルジャーが【お辞儀】のジェスチャーで答える。
"ギルド おばさん"に仲間が増えた。
ギルハンからログアウトした麻耶は、満足げな表情だ。
マシンガン欲しさだったが、1人でプレイした結果もでた。
ソルジャー、藍里との共闘のボスに勝ち、仲間が増えた。
ヘッドホンを外し、テレビを消した麻耶は目を揉んだ。
心なしか目の疲れは辛くない。疲れているが気持ちがいい。
(今日はとても楽しかった)
麻耶はルンルンと鼻歌を奏でながら、部屋を出た。
しかし、麻耶と藍里は知らない。
〜森林と草原の楽園〜はチュートリアルであることを。