新人バイト
日曜日の昼下がり。
奏汰は、エプロンをつけてカフェのカウンターで注文を受けていた。
「カフェラテとチーズケーキですね。お席でお待ちください」
慣れた手つきでレジを打ち、伝票をキッチンに回す。
ここは、奏汰の親戚が経営するカフェ。
中学生の頃から手伝っていたこともあり、バイト歴はそこそこ長い。
「奏汰、ちょっと休憩していいよー」
店長である叔母の声が飛んできた。
「じゃあ、少しだけ」
奏汰はカウンターの奥にあるスタッフルームに向かいながら、ちらりと店の中を見渡す。
昼過ぎということもあって、店内は落ち着いた雰囲気だった。
(今日はそこまで忙しくないな)
そんなことを考えながら、スタッフルームの椅子に腰を下ろした瞬間——。
「こんにちは! 今日からお世話になります」
店の入り口から聞こえてきた明るい声に、奏汰の動きが止まる。
(……ん?)
どこか聞き覚えのある声だった。
「よろしくお願いします……」
続いて聞こえたのは、少し低めの落ち着いた声。
奏汰は、ハッとして立ち上がり、店の方へ顔を出した。
そこにいたのは——
「……千尋?」
「……奏汰?」
お互いに目を見開いたまま、しばし沈黙が流れた。
「え、なんでお前がここに?」
「……バイト、始めた」
千尋は少し戸惑いながらも、静かに答える。
「いや、そりゃ見ればわかるけど……」
「千尋ちゃん、このお店で働くの?」
店長が千尋の方を向いてにこやかに尋ねた。
「はい。知り合いの紹介で……」
「そっかそっか! じゃあ、奏汰とは顔見知りなんだね」
「……まぁ、一応」
奏汰が少し微妙な表情をすると、店長は嬉しそうに笑った。
「じゃあ、奏汰。千尋ちゃんに仕事教えてあげて」
「……俺が?」
「もちろん。バイトの先輩でしょ?」
「……はいはい」
奏汰は肩をすくめながら、千尋に視線を向けた。
「……まぁ、とりあえず奥でエプロンもらってこい」
「……わかった」
千尋は少しぎこちない動きで頷き、スタッフルームへ向かった。
奏汰はその後ろ姿を見送りながら、(マジかよ……)と心の中で呟く。
まさか、学校の外、それもバイト先で千尋と再会することになるとは思っていなかった。
(……なんか、やりにくいな)
ただのクラスメイトならまだしも、委員会でも一緒で、合宿でもなんとなく距離が縮まったばかり。
そんな相手と、今度はバイト先でも関わることになるとは。
(……まぁ、仕方ねぇか)
奏汰は小さくため息をついて、千尋が戻ってくるのを待つことにした——。




