合宿
合宿二日目の朝。
奏汰たちの班は、今日のスケジュールを確認していた。
「午前中は体験学習、午後は班対抗のレクリエーションか」
悠人がプリントを眺めながら言う。
「体験学習は班ごとに行動するらしいけど、どうする? 何か希望ある?」
「……特にない」
「俺も別になんでもいい」
奏汰と千尋が淡々と答えると、悠人は苦笑しながら肩をすくめた。
「お前らさぁ、もうちょい積極的になれよ」
「悠人が決めればいいんじゃね?」
「いやいや、ちゃんとみんなの意見を聞いて決めるのがリーダーってもんだろ?」
「じゃあ、咲良と美優に聞いてみたら?」
奏汰が適当に流すと、咲良が「んー、私はアウトドア系がいいかな!」と元気に答えた。
「じゃあ、ハイキングとかどう?」
悠人が提案すると、咲良と美優は賛成する。
「千尋は?」
悠人が千尋に視線を向けた。
「……私はどっちでも」
「お、珍しく消極的だな?」
「歩くのは嫌いじゃないけど、興味があるわけでもないから」
「そっか。でも、たまには景色を楽しみながら歩くのも悪くないと思うぜ?」
悠人はそう言いながら、軽く笑ってみせた。
「……そうかもね」
千尋はふっと小さく微笑んだ。
(……ん?)
奏汰はなぜか違和感を覚えた。
悠人が千尋と自然に話していること自体は、別におかしなことではない。
でも、千尋が悠人に対してこんな風に表情を緩めることは、あまり見たことがなかった。
「じゃあ決まり! ハイキングでいこう!」
悠人がまとめ、班の活動が決まった。
しかし、奏汰の胸の中には、よく分からないモヤモヤが残ったままだった。
ハイキングコースは緩やかな登り坂が続く道だった。
「結構きついな……」
奏汰がぼそっと呟くと、悠人が笑いながら肩を叩く。
「お前、運動不足じゃね?」
「うるせぇ……」
その横では、千尋が特に疲れた様子もなく淡々と歩いていた。
「千尋って体力あるよな」
悠人が感心したように言うと、千尋は少し考えてから答えた。
「……前の学校で、よく歩いてたから」
「へぇ、登下校?」
「うん。それに、部活で走ることも多かった」
「え、千尋ちゃんって部活入ってたの?」
咲良が驚いたように尋ねると、千尋は小さく頷いた。
「長距離やってた」
「へー! だからスタイルいいんだね!」
咲良が感心したように言うと、千尋は少しだけ視線を逸らした。
「……関係ない」
「そんなことないでしょー!」
咲良と千尋がそんなやり取りをしている間、悠人は「へぇ、意外だな」と感心していた。
「でも、なんか分かるかも。千尋って、しんどくてもあんまり顔に出さなそうだもんな」
「まぁ……そうかも」
「そういうとこ、結構すごいと思うぞ」
「……ありがとう」
そのやり取りを見て、奏汰はまた妙な気持ちになった。
(……なんだ、この感じ)
悠人と千尋が自然に会話しているのが、なぜか気に入らない。
いや、別に嫉妬しているわけではない。
(……は? 俺、今なん考えてんだ?)
奏汰は自分の思考に驚いた。
悠人が千尋と話すのなんて、別に珍しいことじゃない。
なのに、なぜか胸の奥がざわつく。
(……気のせいだ)
そう思いながら、奏汰は黙って歩き続けた。
ハイキングが終わり、班ごとに休憩をとることになった。
「はー、疲れた!」
咲良が大きく伸びをしながら言う。
「でも、景色は綺麗だったね」
「そうだな。いいリフレッシュになった」
悠人と美優がそう言い合う中、千尋は静かに水を飲んでいた。
(……なんか、悠人と千尋が話してるの見るの……)
奏汰は自分でも理由が分からないまま、ぼんやりとそんなことを考えていた。
「奏汰、お前黙りすぎじゃね?」
「……別に」
「へぇ、そっか」
悠人は意味ありげな視線を向けてきたが、奏汰はそれを無視した。
(気のせいだ、気のせい)
自分にそう言い聞かせながらも、心の奥に引っかかる感情が消えないまま、休憩時間は過ぎていった——。




