休憩間食
午前のシフトが終わり、教室で一息ついた千尋は、制服の上から羽織っていたクラスTシャツの裾を軽く引っ張った。お化け屋敷は予想以上の盛況で、次から次へと訪れるお客さんの対応に追われていたが、そのぶんやりがいも感じていた。
「やっと休憩……」
机に突っ伏しながら息をつくと、不意に近くから声がかかった。
「千尋、行くぞ」
顔を上げると、奏汰が教室の入り口に立っていた。
「あ……うん!」
約束通り、二人で文化祭を回る時間だ。千尋は急いで立ち上がり、奏汰の隣へと歩み寄った。
「行ってらっしゃーい!」
クラスメイトの何人かが茶化すように声をかけてくる。
「お化け屋敷ばっかりじゃもったいないもんね」
「楽しんできてね!」
千尋が少し恥ずかしそうに笑うと、奏汰は特に気にする様子もなく「ほら」と先に歩き出した。
◆◇◆
廊下に出ると、文化祭ならではの活気があふれていた。カラフルな装飾が施された壁、教室から流れるBGM、楽しそうな笑い声があちこちで響く。
「まずはどこ行く?」
奏汰が隣を歩きながら尋ねると、千尋は少し考え込んだ。
「えっと……たこ焼き食べたいかも」
「よし、行くか」
すぐに方向転換し、屋台の並ぶ中庭へと向かう。
◆◇◆
たこ焼きの屋台の前は、すでに長い列ができていた。
「結構並んでるね」
「人気だな……まぁ、急ぐわけじゃないし並ぶか」
二人は列の最後尾に並んだ。前の方から、ソースの香ばしい香りが漂ってくる。
「絶対おいしいよね、これ……」
「食べる前からそんなに期待してて大丈夫か?」
「大丈夫!絶対おいしいもん!」
千尋が自信満々に言い切ると、奏汰は小さく笑った。
順番を待つ間、周囲を見渡していると——
「あ、クレープもある!」
屋台の少し先に、クレープの旗が揺れているのを見つけた。
「たこ焼きの次はクレープ?」
「うん!甘いものは別腹だから!」
「……ほんと、女子ってそういうの好きだよな」
奏汰は少し呆れたように言いながらも、否定はしなかった。
たこ焼きを無事に受け取ると、二人は並んでベンチに腰を下ろした。
「熱い……けど、おいしい!」
「確かに、これはアタリだな」
ソースの香ばしさと、中からあふれるアツアツのタコが絶妙なバランス。ふたりは熱さに苦戦しつつも、夢中で食べ進めた。
◆◇◆
たこ焼きを食べ終えたあとは、クレープの屋台へ。
「どれにしようかなぁ……」
メニューをじっくり眺めながら悩んでいると、奏汰がふと「これ」と指さした。
「チョコバナナか。千尋、好きそうだよな」
「うん!奏汰は?」
「俺はミックスベリーでいい」
「意外!もっとシンプルなの選ぶかと思った」
「別に……たまにはこういうのもいいだろ」
クレープを受け取ると、また歩きながら食べることにした。
◆◇◆
屋台を巡っていると、ふと見覚えのある二人組が目に入った。
悠人と咲良だった。
咲良は屋台のポスターを指さしながら何か話していて、悠人はそれを聞きながら、どこか気まずそうな顔をしている。
「……なんか、微妙な空気だね」
千尋が小声で言うと、奏汰も「まぁな」と小さく頷く。
「声かける?」
「いや……もう少し様子見てみろよ」
そう言われ、千尋は少し離れた位置から二人の様子をうかがった。
咲良は何かを期待するように悠人を見ている。けれど、悠人はその視線を避けるようにわずかに目をそらした。
(やっぱり、まだぎこちないんだ……)
千尋は胸の奥がモヤモヤするのを感じながら、そっと視線を戻した。
「……とりあえず、別のとこ行こっか」
「そうだな」
二人はそっとその場を離れ、また賑やかな文化祭の中へと歩いて行った。




