試験廃墟
文化祭の準備が着々と進んでいく中、教室はすでにお化け屋敷の雰囲気を漂わせていた。
黒い布で覆われた入り口、天井からぶら下がる不気味な人形、赤黒いライトがぼんやりと足元を照らす。窓にはヒビ割れ風のシールが貼られ、廊下にはかすかに聞こえるBGMが流れていた。
「いやー、いい感じじゃない? ちゃんとホラー感出てるよ」
咲良が満足そうに手を叩き、周囲を見渡す。
「そろそろお化け屋敷のホラーテストしない?」
その言葉に、クラスの何人かが頷く。
「確かに、どれくらい怖いか試してみないとね」
「お化け役の人も配置についてるし、いいタイミングかも」
「え……?」
クラスメイトの盛り上がる様子とは裏腹に、千尋は顔を強張らせた。
「ちょっと待って、ホラーテストってことは……私たちが実際に中に入って試すってこと……?」
「もちろん!」
咲良が笑顔で答える。
「嫌だ……絶対怖い……」
千尋は肩をすくめて小さく後ずさるが、奏汰が軽く笑いながら言った。
「お前、ホラー苦手なんだから、むしろいいテストになるだろ」
「ならないよ! ただ私が怖い思いするだけじゃん!」
「まあまあ、ペアで入ればそこまで怖くないって」
咲良がなだめるように言うと、クラスメイトたちからも「ペアなら大丈夫!」と賛成の声が上がった。
「……ペアなら、まだマシ……?」
「よし、じゃあくじ引きでペア決めよう!」
咲良がくじを配り、みんなが引いていく。
「えーと、私は……あ、奏汰とだ」
千尋が自分のくじを見て呟いた。
「マジか」
奏汰がやや驚いた顔をする。
「ええー……せめて怖くない人とが良かった……」
「それ、俺に失礼じゃね?」
「だって、絶対からかってくるじゃん!」
「そりゃまあ、怖がってるお前見たら、な」
「ほらやっぱりー!!」
クラスメイトたちが笑いながら二人を見守る。
「それじゃあ、奏汰と千尋ペア、いってらっしゃーい!」
⸻
いよいよテスト開始。
「いってらっしゃーい!」
クラスメイトたちに見送られながら、千尋と奏汰はお化け屋敷の入り口に立った。
目の前には、真っ暗な廊下が伸びている。足元にはかすかに赤黒いライトが灯っているが、周囲の装飾の影が不気味に揺れて見える。
「うう……やっぱりやめようよ……」
千尋が足をすくませるが、奏汰は肩を叩いた。
「ほら、行くぞ」
「ひゃっ! ちょ、ちょっと押さないで!」
仕方なく千尋は一歩を踏み出す。
――ギィ……
古びた扉が軋み、微かに風が吹き抜ける音がする。
その瞬間――
「うわああああ!!」
突然、物陰から白い影が飛び出した。
「きゃあああ!!!」
千尋は悲鳴を上げ、反射的に奏汰の腕にしがみつく。
「お前、そんなにビビるなよ」
奏汰が呆れたように言うが、千尋はすでに涙目だった。
「む、無理……! もう出よう……!」
「まだ入り口だぞ」
「……うぅ……」
⸻
その後も、お化け屋敷の中には様々な仕掛けが待ち受けていた。
暗闇の中で突然鳴る不気味な声、床から伸びる無数の手、天井からぶら下がる白い布。
「ほら、もう少しで出口だぞ」
奏汰が声をかけるが、千尋はすでに腰が抜けそうになっていた。
「こ、こんなの絶対怖すぎるって……!」
「でも、めっちゃいいリアクションだったな」
「も、もうやだぁ……!」
⸻
ようやく出口にたどり着いた二人。
外で待っていたクラスメイトたちは、千尋の怯えきった様子に爆笑していた。
「千尋、めっちゃ怖がってたじゃん!」
「う、うるさい……」
千尋は顔を真っ赤にしながら俯いた。
「横にいる俺もビビった。千尋の悲鳴で」
「っ!もー!本当にうるさいんだけど!」
千尋が顔を真っ赤にしながら奏汰をぽこぽこと殴り始める。「いて、いて」という奏汰の顔はにやけていた。
「でも、いいテストになったな!」
奏汰が満足そうに言う。
こうして、文化祭準備の夜は更けていった――。




