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順調スイッチ


 文化祭の準備が本格化し、特別に許可された夜間作業の初日。

 日が暮れ始めた頃、クラスメイトたちは学校に残り、教室や廊下を使って作業を進めていた。


「うわー、もうこんな時間か……」


 千尋が窓の外を見ながら呟く。

 空はすっかり夜の色に染まり、校舎の外灯だけがぼんやりと光っている。


「お前、もしかして怖いのか?」


 奏汰が千尋の横に立ち、ニヤリと笑う。


「べ、別に……! ただ、普段こんな遅くまで学校にいることないから……」


 千尋が目をそらしながら言うと、咲良が楽しそうに割り込んできた。


「千尋、もしかしてホラー苦手なんでしょ?」

「……うっ……」


 言葉に詰まる千尋を見て、奏汰と咲良は顔を見合わせ、クスクスと笑う。


「まぁ、確かにこの時間にお化け屋敷の準備って、雰囲気ありすぎるよな」

「だよね! これで誰かが『うらめしや〜』とか言ったら最高に怖いよね!」


 咲良がふざけて言った瞬間、


「うらめしや〜〜〜……」


 背後から低い声が響いた。


「きゃあああああ!!!」


 千尋は反射的に悲鳴を上げ、思わず奏汰の腕を掴む。


「ははっ、お前ビビりすぎ」


 奏汰が笑いながら言うと、千尋は慌てて手を離し、真っ赤になった顔を隠すように俯いた。


「もうっ、誰よ今の!」


 振り向くと、そこには悠人が立っていた。


「……まさか、本気で怖がるとは思わなかった」


 悠人はクールな表情のままだが、ほんの少しだけ口元が緩んでいる。


「悠人くん、意外といたずら好きなんだね〜!」

「……別に」


 咲良が笑いながら悠人の肩を叩くが、本人はそっけない態度を崩さない。


「……はぁ、もう、余計に怖くなった……」


 千尋は肩を落とし、作業に戻ることにした。



 その後も、クラスメイトたちは着々と準備を進めていった。


 暗闇を演出するための黒いカーテンが設置され、廊下には不気味な小道具が並べられる。

 装飾担当の生徒たちは、壁に影絵を作ったり、怪しげな照明を仕込んだりと、それぞれの持ち場で工夫を凝らしていた。


「ここに風を送る装置をつけたら、もっと臨場感出るんじゃない?」

「確かに! ちょっと試してみよう!」


 そんな中、千尋と奏汰はペアになって、驚かせる仕掛けの設置を担当していた。


「これ、ちゃんと動くかな?」


 千尋がボタンを押すと、隠れていた人形が勢いよく飛び出す。


「うわっ!」


 思わず後ずさる千尋を見て、奏汰が笑う。


「お前が驚いてどうすんだよ」

「だって、思ったより怖かったんだもん……!」


 千尋は頬を膨らませながら、仕掛けの微調整を始める。



 作業がひと段落ついた頃、教室の隅に敷かれたレジャーシートの上にクラスメイトたちが集まってきた。


「ちょっと休憩しよっか。お菓子持ってきたよ!」


 咲良が持参した袋を開けると、ポテトチップスやチョコレート、キャンディーなどが次々と出てくる。


「うおー、助かる! お腹空いてたんだよな!」


 男子たちが歓声を上げ、さっそく手を伸ばす。


「ん、千尋も食えよ」


 奏汰が千尋に小袋のクッキーを差し出す。


「ありがとう」


 千尋はそれを受け取り、一口かじる。甘い味が口の中に広がり、少し緊張が和らぐ。


「夜の学校って新鮮だね〜! なんか、秘密基地みたい!」

「確かに。普段こんな時間に学校にいることないしな」


 クラスメイトたちは思い思いにお菓子を食べながら、楽しく談笑していた。


 だが、そんな穏やかな空気の中で、千尋はふと気づく。


(……悠人、あんまり喋ってないな)


 視線を向けると、悠人は窓の外を見ながら、静かにポテトチップスをつまんでいた。


「悠人?」


 千尋が声をかけると、彼は一瞬だけ驚いたように目を見開いた。


「……いや、なんでもない」


 そう言って視線を逸らす。


(やっぱり、悠人……何か考えてる?)


 千尋の胸に、ほんの少しの不安がよぎった――。


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