閉幕静寂
体育祭の終わりを告げる拍手が、グラウンド全体に響き渡る。
「これで今年の体育祭は、すべての競技が終了しました!」
先生の言葉に、生徒たちから歓声とため息が入り混じった声が上がる。
「それでは、総合優勝のクラスを発表します!」
一気にざわめくグラウンド。自分たちのクラスの成績がどうだったのか、誰もが気になっている。
「今年の優勝は──2年4組!」
「やったぁ!!」
歓声と拍手が沸き起こる。優勝こそ逃したものの、奏汰たちのクラスもかなり善戦していた。千尋や咲良も、周りのクラスメイトと「惜しかったね」「でも楽しかった!」と笑い合っている。
一方で、悠人は腕を組みながら、どこか静かに結果を受け止めていた。
──こいつ、こういう時あんまり感情に出さねぇよな。
奏汰はそんな悠人の横顔を見ながら、ぼんやりと思った。
「では、最後にクラスごとに集まって、振り返りをしましょう」
先生の指示で、各クラスごとにまとまる。
***
「いやー、うちのクラス結構良かったよな!」
「騎馬戦もリレーも接戦だったし!」
「借り物競走の咲良、めっちゃ良かったよな〜!」
クラス内では、体育祭の思い出を振り返る声が飛び交う。
「千尋のイントロクイズ、すごかったよな!」
「うんうん! なんか、めっちゃ自信満々だったし!」
「それな! スタートの時点で、絶対勝つって顔してたもんな」
千尋は「そんなことないよ〜!」と笑いながら、でもちょっと得意げな表情を浮かべている。
「悠人のリレーもカッコよかったよな!」
「マジで速かった!」
「最後のカーブ、鳥肌立ったもん!」
悠人は軽く肩をすくめながら、「まぁ、頑張ったからな」とだけ言った。
「奏汰の騎馬戦もヤバかったよな!」
「あれめっちゃ盛り上がった!」
「ていうか、最後の粘り、すごかったよね!」
「いや、俺はただしがみついてただけだし」
奏汰がそう言うと、千尋がクスクスと笑った。
「でも、めちゃくちゃかっこよかったよ」
不意にそう言われて、奏汰は少しだけ目を丸くする。
「……そうか?」
「うん。すごく頑張ってたし、最後まで諦めなかったし」
千尋がまっすぐな目でそう言うものだから、なんとなく気恥ずかしくなって、奏汰は「そっか」と短く返した。
そのやり取りを見ていた咲良が、ふと悠人の方を見やる。
「悠人は?」
「ん?」
「体育祭、楽しかった?」
少し間が空いたあと、悠人は静かに頷いた。
「……まぁ、悪くはなかったな」
咲良は満足そうに微笑み、「よかった」と小さくつぶやく。その声は、周りのざわめきの中にかき消されそうなほど小さかった。
***
クラスの振り返りが終わり、解散の号令がかかる。
「やっと終わったな」
「もう足が限界……」
「明日絶対筋肉痛だわ……」
クラスメイトたちが思い思いに話しながら帰り支度をする中、奏汰は窓の外をぼんやりと眺めていた。
夕焼けに染まる校庭には、後片付けをする先生たちの姿が見える。夏の終わりを告げるような、少し涼しい風が吹いていた。
「奏汰」
ふと声をかけられて振り向くと、千尋が立っていた。
「帰ろっか」
奏汰は「おう」と短く返して、千尋と並んで教室を出る。
廊下を歩きながら、ちらりと悠人の方を見ると──悠人もまた、咲良と話しながらも、一瞬だけこちらを見た。
その視線が交わる。
何かを言いかけた気がしたが、結局、どちらも何も言わなかった。
「……時間かかるかもしれないけど、きっとまた話せる日が来るよ」
千尋がそう言う。
「……そうだな」
奏汰は小さく頷いた。
体育祭が終わり、夏が過ぎ、そして新しい何かが始まろうとしている。
それが何なのかは、まだわからない。
けれど、このままでは終われないことだけは、確かだった。




