合宿準備
「合宿?」
4月の終わり、先生から告げられたのは学年合同の合宿だった。
「二泊三日で、○○高原の施設を借りて行うことになった。目的は学習と交流、あと体験活動だな」
黒板には合宿の概要が書かれている。
学年全員で参加し、班ごとに活動するらしい。
「合宿かぁ、めんどくさ……」
奏汰は机に突っ伏しながらため息をつく。
新学期が始まったばかりで、やっとクラスに慣れてきた頃に、こんなイベントがあるとは思わなかった。
一方——。
「楽しそう」
千尋は珍しくポツリと呟いた。
「お前、こういうの好きなのか?」
「うん。前の学校でもあったけど、結構いい思い出だったし」
「ふぅん……」
奏汰は千尋の言葉に少し驚きながらも、それ以上は何も言わなかった。
そんな中、クラスでは班分けが始まっていた。
「さて、班を決めるぞー!」
担任の先生が、班分けのルールを説明する。
基本的には6人1組で、男女混合。
奏汰は「どうせ適当に決められるだろ」と思っていたが——。
「奏汰、お前もこっち来いよ」
悠人がにやりと笑いながら、自分の班へと誘ってきた。
「あ? 俺、まだ何も決めてねぇんだけど」
「細かいこと気にすんなって!」
悠人のノリに押される形で、奏汰はしぶしぶその班に入る。
——そして、運命の瞬間が訪れた。
「もう一人、女子が足りないな……」
「えっと……じゃあ、千尋!」
「え?」
奏汰は驚いた。
なんと、千尋も同じ班に入ることになったのだ。
「……いいけど」
千尋は特に気にすることもなく、静かに席に座った。
(マジか……)
同じ班には、悠人のほか、明るく社交的な咲良と、ちょっとおっとりした大輝、そしてクラスの優等生美優がいる。
(なんか……妙にバランスのいい班だな)
奏汰は少し複雑な気持ちになりながらも、合宿はこのメンバーで過ごすことになった。
合宿当日。
大型バスに乗り込み、目的地へと向かう。
「自由に座っていいぞー。ただし騒ぐなよー」
先生の指示で、生徒たちは思い思いの席に座る。
「奏汰、こっちこっち!」
悠人に呼ばれ、奏汰は渋々隣に座った。
その後ろの席には、千尋と咲良が並んで座る。
「ねえねえ千尋ちゃん、彼氏とかいるの?」
突然の質問に、奏汰は思わず耳をそばだてた。
「いないよ」
「えー、そうなんだ! なんかミステリアスな雰囲気あるし、モテそうなのに」
「そんなことないよ」
千尋はさらっと流したが、咲良は「ふぅん」と意味深に微笑む。
「じゃあさ、好きな人とか気になる人は?」
「……秘密」
「えー! 気になる!」
「うるさい」
千尋が軽く咲良を睨むと、咲良は「ごめんごめん」と笑って誤魔化した。
(好きな人……?)
奏汰は何気なく千尋の横顔を見る。
彼女はいつも通り無表情だが、少しだけ耳が赤いように見えた。
(……なんだろ)
自分でもよく分からないモヤモヤした感情が胸の奥に残ったまま、バスは目的地へと進んでいった。
「到着したぞー!」
バスが止まり、目の前には広大な高原と合宿施設が広がっていた。
「めっちゃいい景色!」
「空気がうまいな」
生徒たちが歓声を上げる中、班ごとに行動を開始する。
奏汰たちの班も、まずは宿泊する部屋を確認し、その後は班ごとに決められた活動を行うことになった。
「んじゃ、班長を決めるか」
悠人がそう言い出すと、すぐに咲良が手を挙げる。
「はーい! 私やる!」
「異議なし」
「即決かよ」
班長が決まり、次は当番や役割分担を決めることになった。
「じゃあ、部屋の整理とかは——」
「奏汰と千尋で」
「は?」
奏汰と千尋は同時に声を上げた。
「ほら、相性いいし、ちゃんとやってくれそうだし!」
「……悠人、お前な」
「いいじゃん、仲良くやれよ」
悠人はニヤニヤしながら肩を叩いてくる。
(なんか、こいつ最近俺を千尋と一緒にさせたがるな……)
奏汰は少し不機嫌になりながらも、仕方なく了承した。
千尋は特に何も言わずに「分かった」とだけ答える。
そして——。
この合宿が、奏汰と千尋の関係に大きな変化をもたらすことになるとは、この時の二人はまだ知らなかった。




