休憩音楽
午前の競技がひと段落し、校内放送で昼休憩の開始が告げられると、運動場のあちこちで歓声が上がった。
赤組、白組それぞれが自分たちのテントに戻り、クラスメイトや友人たちと昼食を取るために集まり始める。
奏汰は、水筒の冷たいお茶を一口飲みながら、競技で火照った体をクールダウンさせるように深く息を吐いた。ふと顔を上げると、すぐ近くで悠人がクラスメイトたちに囲まれているのが見えた。
「悠人、すごかったな! ぶっちぎりだったじゃん」
「やっぱりリレーはお前に任せて正解だったな!」
悠人は少し照れくさそうに笑いながら、肩をすくめて「まあな」と応える。
その横では、咲良もクラスの女子たちに囲まれていた。
「咲良ちゃん、借り物競走、めっちゃよかったよー!」
「好きな人ってお題で、即決で悠人を連れてくるの、すごくなかった?」
「見てるこっちがキュンとしたよ!」
咲良は「そ、そんなことないって!」と顔を赤くしながら手を振るが、クラスメイトたちのからかいは止まらない。
一方、奏汰はそんな様子を少し離れたところから眺めていた。
「お前も、騎馬戦の時めちゃくちゃ活躍してたよな」
背後から声をかけてきたのは千尋だった。
「最後の突撃、かっこよかったよ」
彼女は笑顔で言いながら、すぐ隣に腰を下ろした。奏汰は照れを誤魔化すように肩をすくめる。
「まあ……あれは流れで、な」
千尋はそんな奏汰の様子を見て、小さく笑った。
「さて、そろそろお弁当食べない?」
千尋の言葉に、奏汰も頷いた。
周囲では、他のクラスメイトたちもそれぞれお弁当を広げ、にぎやかに話しながら昼食を取っている。
咲良も「ねえ、こっちで一緒に食べようよ」と千尋を手招きし、奏汰と悠人も一緒に輪に加わった。
「それにしても、午前中でだいぶ体力削られたね」
「午後の競技、大丈夫かな……」
クラスメイトたちがそんな話をしながら、のんびりと昼食の時間を過ごしていく。
――こうして、体育祭の昼休憩は、和やかな雰囲気の中で進んでいった。
昼休憩を終え、午後の競技が始まろうとしていた。照りつける太陽の下、グラウンドには再び活気が戻り、クラスメイトたちはそれぞれの競技の準備を進めている。
次の競技は「イントロクイズリレー」。流れる音楽の曲名を当て、正解すれば次の解答者へとバトンが渡る。遠くに設置された解答ボタンを押して答える形式で、反射神経と知識の両方が試される競技だ。
「次の競技、誰が出るんだっけ?」
奏汰が名簿を確認しながら問いかけると、咲良が横から顔を覗かせた。
「千尋だよ! 私も最初はびっくりしたんだけど、千尋って音楽にめっちゃ詳しいんだって!」
「えっ、そうなの?」
奏汰が驚いたように千尋を見ると、彼女は腕を組み、どこか得意げに微笑んだ。
「ふふん、意外でしょ? 私、こういうの得意なんだよね」
「へぇ……マジで?」
悠人も興味深そうに目を細めた。千尋のことを知っているつもりでも、まだまだ知らない一面があるらしい。
「ちょっとカッコつけすぎじゃない?」
「本当だってば! 音楽は昔から好きで、イントロクイズなら誰にも負けない自信あるんだから!」
千尋は胸を張りながら言った。そんな彼女を見て、奏汰は自然と笑みをこぼす。千尋がこんなに自信満々なのは珍しい気がした。
「じゃあ、頑張ってこいよ」
「もちろん!」
そう言いながら、千尋はスタート地点に向かって走っていった。
⸻
競技が始まると、第一走者たちが次々と解答ボタンに向かって走り出す。流れる音楽は誰もが一度は耳にしたことのある有名な曲ばかりだが、曲名がすぐに出てこない選手も多く、悩みながらボタンを押す姿が見られた。
「意外と難しそうだな……」
「知ってる曲でも、タイトルがパッと出てこないとダメだからね」
奏汰と悠人がそんな話をしていると、いよいよ千尋の番が回ってきた。彼女はスタート地点で構え、じっとスピーカーを見つめる。
「さあ、ここで次の選手が登場! 彼女は果たして正解できるのか……?」
実況が盛り上げる中、スピーカーから軽快なリズムが流れ出した。千尋の目が一瞬で輝く。
──ダンッ!
迷うことなく解答ボタンに向かって全力疾走し、勢いよくボタンを叩いた。
「正解は……!」
「オーイマサトシのユニバーサル!」
「正解!! なんとこの選手、曲が流れた瞬間にダッシュを開始しました!」
実況の声が響く中、千尋はニヤリと微笑んで次の走者にバトンを渡した。
「すげぇ……」
「マジで一瞬だったな……」
奏汰も悠人も、あまりの速さに目を丸くする。
「ほらね、言ったでしょ?」
千尋はドヤ顔で戻ってくると、得意げに胸を張った。
「やるじゃん」
「まぁね!」
試合はその後も接戦を繰り広げたが、千尋の活躍もあり、最終的にクラスは見事に勝利を収めた。歓声が上がる中、千尋は満足そうに微笑んでいた。




