騎馬牙
体育祭も中盤に差し掛かり、グラウンドの熱気は最高潮に達していた。
次の競技は 騎馬戦 。白熱したバトルが繰り広げられる、体育祭の目玉のひとつだった。
「おーし、やるぞ!」
気合十分な男子たちが、互いに肩を組みながら士気を高めている。
騎馬戦は、一騎打ちと大将戦に分かれており、奏汰は 大将の騎馬の上 に乗ることになっていた。
「っちぇー。本当なら騎馬の上は俺がやるはずだったんだけどなー!」
「奏汰、マジで落ちるなよ」
土台を組む男子のひとりが、少し不安そうに言うと、奏汰は肩をすくめた。
「さすがに落ちねぇよ。お前らがしっかり支えてくれればな。てか村瀬は下手くそすぎだから俺がやることになったんだろ」
「そうだけどさーー!!」
騎馬が組み上がり、奏汰はゆっくりと上に乗る。
視界がぐんと高くなり、周囲を見渡せるようになった。
(……結構見晴らしいいな)
グラウンドの端には、クラスの応援団が固まっていて、千尋や咲良の姿も見えた。
「奏汰ー! 頑張ってね!」
千尋が手を振るのが見え、奏汰は軽く片手を上げて応えた。
「おいおい、余裕かましてんじゃねーぞ」
「始まったら容赦しねぇからな!」
周りの騎馬からも闘志むき出しの声が飛んでくる。
「分かってるって」
奏汰はふっと笑いながらも、すぐに表情を引き締めた。
騎馬戦は、油断した方が負ける。
「位置についてー!」
審判の声が響き、騎馬たちが一斉に動き出す。
「騎馬戦、スタート!」
合図とともに、グラウンドのあちこちで激しい攻防戦が繰り広げられる。
奏汰の騎馬も、相手の帽子を狙いながら駆け回る。
「前! 前来るぞ!」
「左からも来てる!」
下のメンバーが声を掛け合いながら動きを調整する。
奏汰は視線を巡らせ、相手の動きを冷静に見極めた。
(アイツはこっちを狙ってる……なら——)
奏汰は素早く体を捻り、相手の手をかわした。
「くそっ、逃げんなよ!」
「逃げねぇよ!」
瞬間、奏汰は反対方向にいた別の騎馬へと素早く手を伸ばし——
「取った!」
相手の帽子を掴んで引き剥がした。
「よっしゃああ!」
クラスメイトから歓声が上がる。
「いいぞ奏汰!」
「ナイス!」
しかし、喜ぶのはまだ早かった。
次の瞬間、別の騎馬が猛スピードで接近してくる。
「おい、右から来るぞ!」
「奏汰、掴まれ!」
下のメンバーが体勢を整えようとするが——
「うおっ!」
相手の手が伸び、奏汰の帽子を狙う。
(やべ——!)
体勢を崩しかけた瞬間、奏汰は咄嗟に 相手の手を払った 。
「くそっ、もうちょいだったのに!」
相手がバランスを崩し、よろめく。その隙に奏汰の騎馬は距離を取ることに成功した。
「お前、反応速すぎだろ!」
「まあな!」
奏汰は息を整えながら、最後の戦いに備える。
(……あとは、大将戦だ)
相手の大将騎馬と対峙する。
相手は体格の大きい男子で、騎馬もガッチリと固められていた。
「負けねぇぞ!」
「こっちこそ!」
互いに真正面からぶつかる。
体が揺れるが、奏汰は必死にバランスを保つ。
「いけるか!?」
「このまま——!」
奏汰は全神経を集中させ、相手の動きを読んだ。
相手が帽子を取ろうとした瞬間、奏汰は 逆に相手の帽子を掴む 。
「おらぁ!」
思い切り引っ張ると—— スポン! という音とともに、相手の帽子が手元に落ちた。
「取ったああああ!」
「すげぇぇぇ!」
歓声が響き渡る。
「勝者、奏汰の騎馬!」
審判の声が響き、勝負が決まる。
「やったあ!」
クラスメイトが一斉に駆け寄り、歓喜の声を上げる。
「お疲れ、奏汰!」
「お前、マジでカッコよかったぞ!」
千尋も咲良も、嬉しそうに拍手を送っていた。
「奏汰、すごいね!」
「はは、まあな」
奏汰は照れくさそうに笑う。
体育祭は、まだ続く。




